神楽咲く

ツヨシ

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ゆっくりと巡査に近づいて来る。

巡査はこれまでの人生で一度も感じたことのない恐怖を覚えた。

巡査は銃を構えた。

いつ構えたのか自分でもわからなかった。

そいつは銃を向けられているにもかかわらず、まるで歩みを止めなかった。

「止まらんと撃つぞ!」

言っていることは警告だが、声が裏返って、悲鳴のような響きとなっていた。

それでも声は届いたはずだが、そいつが止まる気配はまるでなかった。

バン

巡査は銃を撃った。

凶悪事件の少ない日本のこと。

巡査の二十年近くになる警察官としての経験の中でも、訓練以外で銃を撃ったのは初めてのことだった。

しかし放たれた弾丸は、巡査が全く想像していなかった運命をたどった。

巡査の動体視力は極めてよかった。

高校、大学と野球選手としてならし、どんな速い球でもとらえることが出来た。

速球を打ち返す能力なら、プロにでも負けないくらいだ。

変化球打ちがそれに比べて劣るためにプロ入りは叶わなかったが、直進するものを見定める能力は、今でも優れてる。

その巡査の目が見たものは、そいつの顔に向かって飛んでいった弾丸が、そいつの右眼球に当たり、そして下に落ちたことだ。

落ちた弾丸は潰れていた。
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