赤き正義隊

ツヨシ

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赤き正義隊

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世の中には悪い奴が多いからなあ。

竹夫はいつも思っていた。

だから正義を遂行することに決めた。

しかし一人ではなかなか難しいのも確かだ。

しかし今の世の中にはネットという便利なものがある。

これを利用しない手はない。

SNSで募集したところ、結構な数の人から連絡があった。

遠いと緊急の召集に間に合わないので、近場限定で集めたにもかかわらず。

まあここは、日本でも有数の大都市ではあるが。

募集してきた人は百人以上いた。

その人たち全員にアンケートをとり、四十人まで絞り込んだ。

そして個別の面接。竹夫の質問を聞いているうちに何人か、と言うよりもほぼ全員が「あんたは頭がおかしい」などと言って自ら面接を途中放棄したが、それでも何人かは残った。

柔道をやっている馬原という名の三十代でやたらと身体のでかい男。

一矢、二三矢と言う二十歳過ぎの双子の兄弟。

この三人だ。

これで竹夫を入れて四人の正義の騎士団ができ上がったというわけだ。



四人で寄って、意見交換会、飲み会、ボーリング大会、キャンプなどをして、親睦を深め団結を高めていった。

「ところで、この集団の名称、何にするかな?」

馬原に言われて気がついた。

四人のチームの名前がまだないのだ。

紆余曲折、すったもんだの挙句に、チームの名前は「赤き正義隊」に決まった。

なんのひねりもない名前だが、わかりやすいのがいい。

「それじゃあ」

とりあえず解散する。

次の集まりは三日後だ。



三日後に集まるつもりが、二日後に緊急招集があった。

召集をかけたのは馬原だ。

リーダーは竹夫だが、メンバーのうち誰かが悪人を見つけた場合、すぐに全員に連絡することになっている。

今回は馬原というわけだ。

今回と言ったが、実は急な招集はこれが初めてだ。

「あの男だな」

前を男が歩いている。

後姿でわかりづらいが、年齢は三十代だろうか。

「あいつ、万引きしたんだ。近所のスーパーで。俺は買い物に来ていて、たまたま万引きするところを見たんだ」

気づけば一矢と二三矢も合流していた。

「じゃあ行きますか」

双子がステレオで言った。

四人で男の後をつけていると、男は人通りの多い道をそれ、人気のない脇道に入っていった。

チャンス到来。

四人でいっせいに襲いかかった。



昨日の事はちょっとしたニュースになっていた。

竹夫がそのニュースを見ていると、携帯が鳴った。

馬原からだ。

「死んだわけでもないのに、あの程度でマスコミが騒いでいるな」

竹夫が答える。

「まったくだ。ほんのかすり傷なのに」

「もちろんやめないよなあ」

竹夫が再び答える。

「やめるなんて、考えたことがない」

「そうだよなあ」

二人して笑った。



そんなことが何回か続くとマスコミが騒ぎ始めた。

それまでは県のローカルニュースのみの扱いだったのに、いつの間にか全国ネットのニュースに昇格していた。

いつも四人で襲撃してくる謎の集団と。

みなで集まり話し合った。

「ちょっと自重したほうがいいのかなあ」

双子が言った。

「そんなことはないぞ」

と馬原。

「そうだ。俺たちは「赤き正義隊」なんだから」

と竹夫。

いろいろ話し合った末に、このまま続けることとなった。

おまけに話の流れもあって、もっと過激に、という逆の結論がでた。



しばらくして、夜遅くに双子から連絡があった。

指定された場所に行くと、馬原は先に来ていて、三人で竹夫を待っていた。

「あのアパートです。二階の右端の部屋」

双子はやはりステレオでしゃべる。

「何をしたんだ」

竹夫が聞くと、双子が少しばかり興奮気味で答えた。

「ゴミの不法投棄ですよ。いつもやっています。俺たちも先月後をつけて、現場を確認しました。近所の人はほとんど知っていますね。歩く拡声器と呼ばれるご婦人に知られたものですから。かく言う私たちもこの近所なのですが」

馬原が聞いた。

「で、ここで待つのか?」

双子が答える。

「律儀な奴でしてね。ゴミの不法投棄は、第一金曜日の夜と決まってるんです。今晩です。夜もふけました。もうじき出てくるでしょう。捨てるのはアパートの裏にある神社のさらに奥です」

双子がしゃべり終えると、それを待っていたかのようにアパートの戸が開き、男が出てきた。

手には大きな紙袋を持っている。

見た感じでは、それなりの重さがあるようだ。

気づかれないように、四人で後をつける。

もう慣れたものだ。

神社に入り、人目がなくなったのを確認してから目出し帽を被る。

さすがに顔を見られるのはまずいので、いつもそうしている。

男は本堂の裏に回り、その先にある小さな森に入っていった。

そこが不法投棄の場所だ。

つかず離れず観察していると、男が歩みを止めて、いわくありげなひときわ大きな木の根元に紙袋を無造作に置いた。

そして引き返してくる。

双子が右側、竹夫と馬原が左側の木の陰に隠れる。

その真ん中を男が通り過ぎた。

馬原が動いた。

後ろから左手で男を抱え込むと、右手で男の口を押さえた。

体重も腕力もある馬原に捕まれば、並みの人間では逃れることはできない。

双子が男の前に立つ。

一矢は手に大きなハンマー、二三矢は長いバールを持っている。

二人とも解体工事の現場で働いているのだ。

一矢がハンマーを男の右肩に振り下ろした。

骨の砕けるいやな音がして、男がぴくりと動いた後、その動きを止めた。

二三矢がバールの先で男の左太ももを突いた。

バールのとがった先端が、深々と突き刺さる。

血がどくどくとあふれ出した。

二三矢がバールを抜くと、馬原が男を解放した。

が、次の瞬間、男の左腕を力いっぱいひねりあげた。

再び骨の砕ける音がした。

男はあまりの痛みに声もでないようだ。

馬原が手を離す。

男が力なく地面に倒れ込んだ。

横向きに倒れている男を、竹夫がわざわざ仰向けにしてから、男の腹の上に馬乗りになった。

ふところから何かを取り出す。手術用のメスである。

竹夫は外科医なのだ。

何も言わず何のためらいもなく、そのメスを男の眼球に突き立てた。

男が激しい悲鳴を上げた。

竹夫はすばやくメスを抜くと、もう片方の眼球に突き刺した。

そしてメスを抜くと立ち上がり、そのまま走り出した。

逃げるためである。

男の悲鳴を誰かが聞いたかもしれない。

竹夫の後を、三人が追った。



「ここまでくれば大丈夫かな?」

竹夫が言った。

「そうだな。後は家に帰るだけだ」

馬原が続く。

竹夫はタバコを取り出し、火をつけた。

眼球を突き刺すという、外科医の竹夫でもやったことがない初めての行動に、興奮していたのだ。

歩きながら吸い、短くなったところで地面に捨て、足で踏んで火を消した。

そのまま歩いていると、後ろから馬原がいった。

「竹夫さん、なんてことしてくれましたかね。さっき不法投棄した男に正義の制裁を行なったばかりだと言うのに」

馬原の口調がいつもとは違う。

振り返ろうとしたところ、後ろから抱きつかれ、口を押さえられた。

「正義の遂行者が、ポイ捨てなんぞでその正義を踏みにじるなんて。まったく考えられませんね」

「……」

「でも竹夫さん、あなたが正義を捨てても、私たちは続けますから、安心して休んでくださいね」

双子が竹夫の前に立ちはだかる。

そしてハンマーとバールを振り上げた。



       終
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