ささやかな願い

ツヨシ

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ほのかは悪くない。

あの人は会社では私にふられたと言っているのだから。

おそらく本気でそう思っているのだろう。

あの人もほのかも、私があの人を忘れられないでいるなんて思いもしないだろう。

あの人は関係を修復する行動はしなかったが、それは私も同じだ。

子供の話を聞いて以来、私の中であの人が大きくなった。

今までも充分過ぎるくらいに大きかったというのに。

今さら奥さんや子供からあの人を奪おうなんて思わない。

あの人は幸せな家庭を築いているのだから。

それを壊したくはない。

そんなことをしても、あの人が不幸になるだけだ。

しかしせめて顔だけでも見てみたい。

でもあの人の前にのこのこ出向いていくなんてことは出来ない。

行動も心も詰んでいるのに、一目顔だけでも見てみたいという思いは日に日に膨れ上がってゆくばかりだった。


そんなある日、夜に家で一人ぼんやりしていると、突然目の前が真っ暗になった。

――えっ?

しばらくすると元に戻った。

しかし私の前に、あまりにも奇妙なものがいた。

上半身は裸の人間だが下半身は草食動物のような形状で毛深く、その顔はヤギと人間を足して割ったような顔で、大きな角が左右に二本生えていた。

背中には黒いコウモリのような羽がある。
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