幽霊船の女

ツヨシ

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ただ漂っているのだ。

静かだった。

これぐらいの船なら乗務員は何人もいるだろうが、船からは人の声はおろかなんの音も一切聞こえてこなかった。

クルーザーで船の周りを回ってみると、鉄のはしごが下りているのを見つけた。

はしごを下ろしたまま航海する船などない。

その点も変だ。

そのはしごが俺には「どうぞ登ってください。歓迎します」と言っているように見えた。

「ちょっと見てみるか」

俺よりも坂下のほうの動きが早かった。

クルーザーをはしごに結びつけると、まるで当然のことのようにはしごを上りはじめた。

俺もあとに続いた。

甲板に着くと、そこに男が仰向けに倒れていた。

「おい、大丈夫……」

坂下の声はそこで止まった。

俺は後ろから覗き込んだ。

その男はどう見ても死んでいた。

それも奇妙な死体だ。

肉付きのいい体格にもかかわらず、胸から下、お腹の部分が異様なほどにへこんでいるのが服の上からも見てとれた。

その上、口からは血が滴り落ちている。

「これは……」
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