「私は不幸です」

ツヨシ

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仕事の疲れもあって部屋でぼんやりとしていると、何かが目の隅に写った。

見ればそこには、背が低くて哀れなほどに痩せ衰えた初老の老人が立っていた。

――えっ?

反射的に玄関と窓を見た。

一人暮らしでも狭いと感じる我が家のワンルーム。

この位置からだと、玄関も窓も簡単に見ることが出来る。

玄関のチェーンはかかったままだし、窓も閉まっていた。

――こいつ一体何処から?

見た目からは恐怖とか威圧感と言ったものは全く感じることが出来ないが、そこに居ること自体がかなり不思議である。

何か言おうとしたが、あまりのことにうまく言葉が出てこなかった。

何かしようと思ったが何も思いつかずにそのまま男を見ていると、男が言った。

「初めまして。私は不幸です」

――なんだあ?

「私は不幸です」と確かにそう言った。

それを聞いて俺の中に怒りがこみ上げてきた。

他人の部屋に無断で入って、最初に言ったことが「私は不幸です」などというばかげた愚痴。

ふざけるにも程がある。

こみ上げた怒りが、止まっていた俺の頭と口を動かした。

「きさま、いったいなんなんだ!」

「ですから先ほど申し上げたように、私は「不幸」です」

「そんなことを聞いてるんじゃない。おまえはいったい何者なんだ、と言っているんだ!」

「ですから私は「不幸」です」

「けんか売ってるのか、おまえは」

「ですから、私の名前が「不幸」と言う名前なんです。と言うよりも、不幸そのものと言ったほうがより正確でしょうね。不幸が擬人化したもの、あるいは不幸が人間の形をしているものと考えたほうが、いいですかね」

そのしゃべり方に感情とか抑揚と言ったものが、まるでなかった。

それがよけいに俺のカンに触った。

「いいかげんにしろ! たたき出すぞ! それとも警察がいいか。どっちか選べ!」

自称「不幸」は、哀れみを感じるかのような目で俺を見た後、言った。

「あなたが私をたたき出すことも、警察が私を捕まえることも、出来ない相談ですね。そんなことは不可能です」

「なんだと? そこまで言うんなら、やってやらあ!」

俺は自称「不幸」に掴みかかった。
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