「私は不幸です」

ツヨシ

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が、そいつは一瞬でおれの目の前から消え去った。

――なにっ?

首が痛くなるほど激しく周りを見渡したが、男は何処にも見当たらなかった。

「ここですよ、ここ」

上から声がした。

見上げるとやつは、天井に背中をつけるような体勢で浮いていた。

そして俺と目が合うと、また消えた。

――ええっ?

短い間の後、そいつは俺のすぐ横に現れた。

「どうですか。人間にこんなことは出来ないでしょう。たとえ一流のマジシャンだとしても。私は不幸が人間の形をしたものです。私の身体は人間とは比べ物にならないほど、別次元のものなのです。……たとえば」

男は自分の頭を両手で掴むと、上に持ち上げた。

どう見ても頭と胴体が離れている。

そして持っていた頭を、テーブルの上に置いた。

「こんなことも出来ます」

テーブルの生首がそう言った。

そして一瞬で消えると、胴体の上に戻っていた。

「……」

「おわかりいただけましたか?」

「「……」

「反論しないと言うことは、納得してもらえたものと認識しますが」

「ちょっ」

「何か反論がありますか?」

「いやそうではなくて、その不幸が……なんで俺のところに来たんだ?」

「決まっているじゃないですか。あなたを不幸にするためですよ」

「えっ?」

「私は「不幸」です。人間を不幸にするためのだけの存在です。ですから私が取り付いた人は、みな例外なく不幸になります。それもとびきりの不幸にですね。どんな人間でも生きてゆくことがとことん嫌になるくらいの、究極の不幸にです」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

「一応話は聞きますけど、あなたが不幸になることは避けられませんよ。もう確定事項になっています」

見た目は極め付けに貧相なのに、そいつの話し方からはなんだか威厳と言うものが、だんだんと感じられるようになってきた。
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