頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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定番の始まり ~アルケオ~

麓の街

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 山中の湖のほとりで、変化の練習をしたり、さすがにワンピース一着だけでは心もとないので、他の衣服や下着を作ったりして、一晩をすごした。この世界では、言葉と通貨は交易がさかんな事もあってほぼ共通で、いかにも異世界あるあるという感じであった。湖からは川が流れ出して街の中に流れ込んでいるらしいから、川に沿って下って行けば、自然に街に辿り着けるようだ。新しい体を馴染ませるためにも、のんびり歩いて麓の街まで向かう事にした。

 早朝、日の出とともに起き出し、早速人型に変化した(夜は獣のよけのため、龍の姿で過ごしていたのだ)。そして、一晩かけて作った、動きやすい旅人風の装束を着込み、意気揚々に湖をあとにした。

 周囲は左右を山に挟まれた平地のようになっており、そのほぼ中央を湖から流れ出す川が流れていた。川のせせらぎや、遠くの鳥の鳴き声を聞きながら、雲がゆったりと流れる青空を眺めつつのんびりと川下に向かって歩いていく。ときどき川で魚が飛びはね、たまにそれを大きな蜥蜴のような魔物が舌を伸ばして捕まえているのが見られた。…魔物、普通にいるんだな…。

 日が次第に高くなり、空から差し込む日光も強く明るくなってきた。元が龍だったからなのか、直射日光に当たっても暑さらしい暑さは全く感じない。かなりの時間歩いているはずだが、これといって疲労も感じない。

「儂の生きる糧は知識だからな。当面は疲労も空腹も感じる事はなかろう。…逆に、空腹になったら、頭を食わなきゃならないという事か…。」

 …この姿で頭を食べる様子をちょっと想像してぞっとした。



 森が開けて麓のなだらかな丘陵地帯が見えてきた。川は丘陵の斜面を下へ流れて行くが、途中に人工の堀が作られており、丘陵の高台に作られた街の方へと、用水路のように注ぎ込んでいた。

「あれが儂にとって、異世界定番の『始まりの街』か。」

 街が近づいてきたので、やはり鱗から作った大きなスカーフで髪を覆い、さらにフードをかぶって、目立つ虹色の髪の毛が見えないようにした。髪の毛が七色に輝く種族など、この世界にはいないのだ。街で髪の毛を染めるができればいいのだが。

 街の入り口にたどり着く頃にはすでに夕暮れ近くなり、街の中にはぽつぽつと灯りが点されているのが門の向こうに見えた。

 門には見るからに兵士という感じの数人の見張りが二人一組で番をしていた。そのうちの一組が儂に気付いて、声をかけてきた。

「よお、今晩は。初めて見る顔だな。ようこそ『アルケオ』の街へ。」
「今晩は。ご丁寧にどうも。」
「旅行かな、それとも行商か移住かな。」
「旅の途中です。しばらく滞在したいのですが。」
「では、旅行者ギルドまで案内しよう。」

 ギルド!異世界っぽい!

 ん?冒険者ギルドでも商業ギルドでもなく、旅行者ギルド?聞いた事ないな。

 とか考えているうちに、交番のようなこぢんまりとした簡易の建物の前に案内された。ここまで案内してくれた門番が建物の中に来客を告げると、あとは中の者の指示にしたがってくれと言い残し、持ち場へと戻って行った。
 代わりに奥からギルドの職員が出てきて、受付らしきカウンター越しに声をかけてきた。

「いらっしゃい。ようこそアルケオへ。滞在期間はいかほどですか。」

 え、滞在期間とか聞かれるのか。考えてなかったな。

「その、こういう街を訪問するのは初めてなので、どのくらいいればいいのかちょっとわからないんですが…」
「え、旅行者ですよね。ご出身はどちらですか。」

 むむ、出自については何も考えてなかったな。

「えと、生まれてこのかた、親も早くに失くして、ドワーフやエルフの里をいろいろ転々としてきたので、自分でも良くわからないんです。」

 これは嘘というわけではない。儂が転生した胎児の母親は、実際、様々な里を長い間渡り歩いてきたのだった。クレスと出会ったのも、その旅で最後に立ち寄った集落での事だった。

「ふむ、そうですね、半年以上の長期の滞在なら、滞在中、毎年一回、税金を納めてもらう決まりです。その代わりに街で職に就くことができます。半年未満の短期の滞在では、税金は免除されますが、物品の購入には別途税がかかります。ただし、あらかじめ所定の税を納めてもらえば、それも免除されます。なお、短期の滞在では職に就くことはできません。そうそう、お客様はギルドに加入されていらっしゃらないようですので、最初に加入料を支払っていただきますが。」

 いきなりピンチ。失念していたが現金をもっていない。

「あの、実は今所持金がなくてですね…、街で持ち物を売ってお金を作りますから、待っててもらうわけにいかないですかね。」
「旅行者が商売をする事は禁じられています。ちなみに、ここでは売買春は重罪です。」

 いやいやいやいや、春を売ったりなんかしませんよ。

「その、商売以外で現金を手にする方法ってないでしょうか。」

 職員はちょっとあきれた様子だったが、しばらく考えて、言った。

「この街を拠点にするという条件付きでなら、冒険者になるという方法がありますよ。それなら、素材を冒険者ギルドで換金する事ができますね。」

 冒険者来たーっ!

「やります、なります、冒険者!どうすればいいんですか!」
「まずは、この街に移住してもらいます。冒険者ギルドにご案内しますから、詳しくはそこで。」


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