頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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定番の始まり ~アルケオ~

ギルド

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 受付職員に連れられ、旅行者ギルドよりも幾分大きな、しかしやはり簡素な建物の前に案内された。中に入ると受付カウンターいくつか並んでおり、既に業務時間外なのか、カーテンがひかれ、灯りはほとんど消えていた。唯一開いているカウンターの上に「住民登録」と書かれた札がぶらさがっている。

 案内してくれた旅行者ギルドの職員が、カウンターの後ろで待機している職員に言った。

「こちらの方が冒険者登録を希望しております。放浪者のようですので、すみませんが、いろいろ教えてあげて下さい。よろしくお願いします。」

 そして私の方に向き直り、あとはあちらの職員の指示にしたがって下さいと言い残して、去って行った。

「こういう街は初めてですので、知らない事ばかりなんです。よろしくお願いします。」

 ギルド職員はにっこり微笑んで応えた。

「ようこそ、アルケオへ。なんでも聞いて下さい。」
「では、早速ですが、『放浪者』というのはなんでしょう。」
「放浪者というのはですね…」

 職員の説明によると、隠れ里や旅行中に生まれ育ち、ギルドに所属せず、街や都市の住民ではないものの事を指すそうだ。

「放浪者の方が冒険者として活動するためには、冒険者ギルドのある街の住民になる必要があります。」
「すみませんが、ギルドについても教えてもらえますか。旅行者ギルドとか冒険者ギルドとか、他にもギルドがあるのですか。」
「ではまず旅行者ギルドについて説明しますと…」

 旅行者ギルドは世界最大のギルドで、また唯一の世界共通のギルドでもある。

 旅行者ギルドは旅行者による互助組織であり、都市間交流の比較的盛んなこの世界に於いて、様々な旅行者向けのサービスを一手に引き受けている。
 為替の振出や現金化などの銀行機能、それに伴う金融業務、都市間郵便などの通信、旅行中の不測の事態に備える保険、さらには行方不明者の捜索や災害被害者の救出、主要街道の安全確保や情報収集、はては旅行者への安全教育や旅行者ガイドの出版に至るまで、旅の安全はまさに旅行者ギルドによって担保されていると言っても過言ではない。

 異世界では冒険者ギルドが世界共通組織だと思っていたので、大変意外だった。

「ほとんどの人は旅行者ギルドに所属しています。旅行中の住民税の支払いなども、旅行者ギルドが旅行者の口座から引き落として支払ってくれますし、残高が足りない場合は一時的に立て替えてくれます。居住地に戻らなくても、他の街のギルドで借り入れ分を返済する事ができます。」

 なるほど、本当に旅行者のための組織なんだな。

「冒険者ギルドについてですが、ギルドと言ってますが、実際は冒険者を管理するための行政機関なんです…」

 この世界での冒険者ギルドというのは、本来は各地にある冒険者管理団体がお互いに連絡を取り合って連携するための世界規模の組織の事を指している。ただし、旅行者ギルドとは異なり、勢力や思想の違いなどでいくつもの派閥があり、一通りではなく、派閥毎に本部や支部があるという有り様である。

「冒険者ギルドの主な役割は、冒険者という身分を保証する事、冒険者が勝手な行動をとらないよう管理する事、依頼という形で仕事を仲介する事、そして冒険者が入手した素材を買い取る事です。縄張りといいますか、都市が管理している領域というのがありまして、その資源保全の観点から冒険者の活動範囲を制限するのが本来の目的です。」

 また各地の冒険者ギルドが連携して、外地で勝手な行動をとらないように冒険者を牽制する狙いもある。

「冒険者って、あまり信頼されていないんですね…」
「そうかもしれませんね。きちんと管理しませんと、落ちぶれて盗賊になってしまう方々もいらっしゃいますから。そのため、市中では素材の買い取りは一切してませんし、持ち込みも禁止しています。冒険者ギルドが買い取った素材を市中に卸す仕組みです。」
「ところで、素材、というのは、商品とは違うんですか。」

 聞くと、素材というのは、工業原料となる未加工の天然の物品を言うらしい。野性動物の肉や採取した薬草、農地ではない場所にある木材や果物などである。

「未加工、という事は布とか服は買い取ってもらえないですか。」
「加工品だからだめですね。」

 しまった、鱗で布でも作って売ろうと思ったが、だめらしい。あの七色の鱗をそのまま売るのも、目立ちすぎて売れないしな。

 その後、行商人や商店が加入する商業ギルドや、職人関係の各種ギルドの話も聞いたが、冒険者ギルドと似たり寄ったりで、旅行者ギルドほどのインパクトは感じなかった。



「ありがとう。よくわかりました。それじゃ、とりあえず冒険者登録をお願いします。それで早速素材集めに行って来ます。」
「まあまあ、そんなに慌てないで下さい。まずは住民登録からですよ。」

 なんでも、この場所は実は街の役所の場外出張所になっていて、ここですぐ住民登録ができるんだとか。住民でなければ街に入れないため、街の外で結婚したり子供が生まれた時のための配慮なんだとか。

 早速、差し出された書類に言われるままに名前や年齢を書き込み、写真撮影し(なんとこの世界には写真技術がある)、誓約書に署名した。

「これであなたも一応アルケオの市民ね。次は冒険者登録ですよ。」

 冒険者登録も似たようなもので、滞りなく手続きは終わった。最後に指輪を渡された。

「これは冒険者証よ。冒険者活動をする時は必ず身に付けてね。」
「よし、それじゃ早速出掛けて来ま」
「お待ちなさい。せっかちね。冒険者の活動は、『依頼』と『達成』が基本なの。さっき説明した通り、資源の保全のために、行動は制限されてるんですよ。まずは依頼を探してね。」

 うう…。早く街に入りたいよ…。

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