頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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定番の始まり ~アルケオ~

夜の街

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「じゃ早速見て来ます、ぐえっ」
「一体どこへ行こうとしているの!?」

 ギルド名物『依頼掲示板』を見に行こうとしたら、後ろから職員の腕が伸びて首根っこを掴まれてしまった。

「けほっ、…その、どんな依頼があるのか調べようと思って。」
「ここで依頼は受けられないわよ。」
「え?」

 聞くと、ここは素材の買取が主な業務で、依頼を受けるには街のなかの本庁舎に行かなければならないとのこと。

「じゃあどうやって今夜中に素材を集めたらいいいのか…」
「どうして今夜中なんですか?」
「それは今すぐ現金が必要だからで。」
「どうして今すぐ現金が必要なのかはわかりませんけど、売れる布とか服とかお持ちなら、街の中で買い取ってもらえばいいんじゃないかしら。もうこの街の住民ですし。」
「え?」
「え?」

 しばしお互いに目を合わせたまま固まる二人。

「…ひょっとして冒険者要らなかった…」

 あれえ?なんだかおかしいなあ…。

「冒険者の身分は持ってる分には何も損はありませんよ。ささ、夜も更けてきますし、買取のお店はもう閉まってると思いますけど、いつまでも街の外にいるのもなんですし、街に入ってみてはいかがですか。門番に住民票を見せればすぐ入れてもらえますよ。それではあらためまして。ようこそ、アルケオの街へ。」



 アルケオの街には、川の堤防のような低い堤がある他はこれといって目立った城壁のようなものはなく、代わりに街全体が堀で囲まれている。高台には主に居住区で、住宅の他は住民のための市場や小売り店や飯屋、学校や官公署、公園などがあり、要所要所に運河として使われる水路が張り巡らされている。飲用水は井戸水だが、その他の生活用水として水路の水も使われている。一方、川の本流のある広い平地部は商工業地域であり、その外縁は農地となっている。観光や外食産業、宿泊施設や娯楽施設もこの平地部にある。

 門番に住民票を見せると、すぐに門を開けて通してくれた。なお、まだ住民としては仮登録の状態らしく、三日以内に役所に出頭して正式な居住手続きをするよう言われた。

 門番に促されるまま門を潜ると、目の前には川幅三十メートルはあろうかという堀割に、道幅十メートルほどの立派な石橋がかかっていた。
 橋の両側には左右等間隔に並ぶ洋風の街灯が並び、橋を渡ったその先の街路まで連続的に続いていた。左手は高台、右手は平地に向かってなだらかな斜面となっていて、少し歩くと平地を一望できる展望台になっている公園があった。露店や屋台に人出もあり、賑やかだ。展望台から望む街の夜景は絶品だった。龍の姿だった頃は、討伐を恐れてこういう街の近くはさけていたから、何もかも新鮮だ。

 公園を見渡すと食べ物を売る露店や屋台がいくつかあって、なかなか繁盛しているようだった。見ると、ホットドッグやサンドイッチに似た軽食や、麺類などもあった。揚げ物のや焼き物のなどのちょっとした惣菜、クレープに似たデザートもあり、前世のお祭りを思い起こす。一つ買って試してみようかとも思ったが、そもそも持ち合わせがないし、特に口寂しさも感じてないので、観察するだけに留めた。

 不意に、小さな屋台が目に止まった。何か焼き鳥のような物を作って売っているのだが、全くお客がいないためか、妙に目立っている。

 なんだか気になり、引き寄せられるようにその屋台に向かって歩いていた。近づくほどにいよいよ離れがたくなり、気がつくと屋台の前に立っていた。

「い、いらっしゃいませ!お、お一ついかがです、か?」

 客あしらいが得意でない感じの店主が声をかけてくれた。
 すると、別の屋台の前にいた客の一人が、後ろから儂に声をかけてきた。

「おいおい、姉ちゃん、その店はやめとけ。どれも不味いから。」

 すると店主が抗議した。

「ひ、ひどいです。…お、お客さん、その、新作なので、お代はいいですから、味見だけでもしてみませんか?お願いします。…お、お客さん?」

 しかし、儂は上の空に、鼻先をひくつかせて、くんくんと臭いを嗅ぎ始めた。

「ちょ、ちょっと、お客さん!?ちちち近いです!」
「え…はっ!ごめんなさいっ!」

 気がつくと、無心に店主の頭の臭いを嗅いでいた。儂は慌てて身を引いた。

「ははは、こりゃ傑作だ!」

 そう言ってさっきの客が笑っている。儂は申し訳なくなって店主に謝った。

「…急に変な事しちゃって、本当にごめんなさい。お詫びに一ついただけますか。」

 そして笑顔で店主に渡された串焼きを、早速口に入れる。

 味がしない…。

 儂が固まってると、心配そうに店主が顔を覗き込んできた。

「あの、やっぱり不味いですか…?」

 何故か周囲のお客も無言で儂を見守っていた。

「ごめん。すっかり忘れてたけど、儂、味音痴なんだわ…」

 そうなのだ。の味は、〈かしら喰い〉の儂には全くわからないのである。

 そして、つい小声で呟いてしまった。

「…でも、君は美味しそう…」

 ギャラリー全員が無言で一歩退いたのを、肌で感じた。

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