6 / 17
定番の始まり ~アルケオ~
夜の街
しおりを挟む
「じゃ早速見て来ます、ぐえっ」
「一体どこへ行こうとしているの!?」
ギルド名物『依頼掲示板』を見に行こうとしたら、後ろから職員の腕が伸びて首根っこを掴まれてしまった。
「けほっ、…その、どんな依頼があるのか調べようと思って。」
「ここで依頼は受けられないわよ。」
「え?」
聞くと、ここは素材の買取が主な業務で、依頼を受けるには街のなかの本庁舎に行かなければならないとのこと。
「じゃあどうやって今夜中に素材を集めたらいいいのか…」
「どうして今夜中なんですか?」
「それは今すぐ現金が必要だからで。」
「どうして今すぐ現金が必要なのかはわかりませんけど、売れる布とか服とかお持ちなら、街の中で買い取ってもらえばいいんじゃないかしら。もうこの街の住民ですし。」
「え?」
「え?」
しばしお互いに目を合わせたまま固まる二人。
「…ひょっとして冒険者要らなかった…」
あれえ?なんだかおかしいなあ…。
「冒険者の身分は持ってる分には何も損はありませんよ。ささ、夜も更けてきますし、買取のお店はもう閉まってると思いますけど、いつまでも街の外にいるのもなんですし、街に入ってみてはいかがですか。門番に住民票を見せればすぐ入れてもらえますよ。それではあらためまして。ようこそ、アルケオの街へ。」
アルケオの街には、川の堤防のような低い堤がある他はこれといって目立った城壁のようなものはなく、代わりに街全体が堀で囲まれている。高台には主に居住区で、住宅の他は住民のための市場や小売り店や飯屋、学校や官公署、公園などがあり、要所要所に運河として使われる水路が張り巡らされている。飲用水は井戸水だが、その他の生活用水として水路の水も使われている。一方、川の本流のある広い平地部は商工業地域であり、その外縁は農地となっている。観光や外食産業、宿泊施設や娯楽施設もこの平地部にある。
門番に住民票を見せると、すぐに門を開けて通してくれた。なお、まだ住民としては仮登録の状態らしく、三日以内に役所に出頭して正式な居住手続きをするよう言われた。
門番に促されるまま門を潜ると、目の前には川幅三十メートルはあろうかという堀割に、道幅十メートルほどの立派な石橋がかかっていた。
橋の両側には左右等間隔に並ぶ洋風の街灯が並び、橋を渡ったその先の街路まで連続的に続いていた。左手は高台、右手は平地に向かってなだらかな斜面となっていて、少し歩くと平地を一望できる展望台になっている公園があった。露店や屋台に人出もあり、賑やかだ。展望台から望む街の夜景は絶品だった。龍の姿だった頃は、討伐を恐れてこういう街の近くはさけていたから、何もかも新鮮だ。
公園を見渡すと食べ物を売る露店や屋台がいくつかあって、なかなか繁盛しているようだった。見ると、ホットドッグやサンドイッチに似た軽食や、麺類などもあった。揚げ物のや焼き物のなどのちょっとした惣菜、クレープに似たデザートもあり、前世のお祭りを思い起こす。一つ買って試してみようかとも思ったが、そもそも持ち合わせがないし、特に口寂しさも感じてないので、観察するだけに留めた。
不意に、小さな屋台が目に止まった。何か焼き鳥のような物を作って売っているのだが、全くお客がいないためか、妙に目立っている。
なんだか気になり、引き寄せられるようにその屋台に向かって歩いていた。近づくほどにいよいよ離れがたくなり、気がつくと屋台の前に立っていた。
「い、いらっしゃいませ!お、お一ついかがです、か?」
客あしらいが得意でない感じの店主が声をかけてくれた。
すると、別の屋台の前にいた客の一人が、後ろから儂に声をかけてきた。
「おいおい、姉ちゃん、その店はやめとけ。どれも不味いから。」
すると店主が抗議した。
「ひ、ひどいです。…お、お客さん、その、新作なので、お代はいいですから、味見だけでもしてみませんか?お願いします。…お、お客さん?」
しかし、儂は上の空に、鼻先をひくつかせて、くんくんと臭いを嗅ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと、お客さん!?ちちち近いです!」
「え…はっ!ごめんなさいっ!」
気がつくと、無心に店主の頭の臭いを嗅いでいた。儂は慌てて身を引いた。
「ははは、こりゃ傑作だ!」
そう言ってさっきの客が笑っている。儂は申し訳なくなって店主に謝った。
「…急に変な事しちゃって、本当にごめんなさい。お詫びに一ついただけますか。」
そして笑顔で店主に渡された串焼きを、早速口に入れる。
味がしない…。
儂が固まってると、心配そうに店主が顔を覗き込んできた。
「あの、やっぱり不味いですか…?」
何故か周囲のお客も無言で儂を見守っていた。
「ごめん。すっかり忘れてたけど、儂、味音痴なんだわ…」
そうなのだ。普通の食べ物の味は、〈頭喰い〉の儂には全くわからないのである。
そして、つい小声で呟いてしまった。
「…でも、君は美味しそう…」
ギャラリー全員が無言で一歩退いたのを、肌で感じた。
「一体どこへ行こうとしているの!?」
ギルド名物『依頼掲示板』を見に行こうとしたら、後ろから職員の腕が伸びて首根っこを掴まれてしまった。
「けほっ、…その、どんな依頼があるのか調べようと思って。」
「ここで依頼は受けられないわよ。」
「え?」
聞くと、ここは素材の買取が主な業務で、依頼を受けるには街のなかの本庁舎に行かなければならないとのこと。
「じゃあどうやって今夜中に素材を集めたらいいいのか…」
「どうして今夜中なんですか?」
「それは今すぐ現金が必要だからで。」
「どうして今すぐ現金が必要なのかはわかりませんけど、売れる布とか服とかお持ちなら、街の中で買い取ってもらえばいいんじゃないかしら。もうこの街の住民ですし。」
「え?」
「え?」
しばしお互いに目を合わせたまま固まる二人。
「…ひょっとして冒険者要らなかった…」
あれえ?なんだかおかしいなあ…。
「冒険者の身分は持ってる分には何も損はありませんよ。ささ、夜も更けてきますし、買取のお店はもう閉まってると思いますけど、いつまでも街の外にいるのもなんですし、街に入ってみてはいかがですか。門番に住民票を見せればすぐ入れてもらえますよ。それではあらためまして。ようこそ、アルケオの街へ。」
アルケオの街には、川の堤防のような低い堤がある他はこれといって目立った城壁のようなものはなく、代わりに街全体が堀で囲まれている。高台には主に居住区で、住宅の他は住民のための市場や小売り店や飯屋、学校や官公署、公園などがあり、要所要所に運河として使われる水路が張り巡らされている。飲用水は井戸水だが、その他の生活用水として水路の水も使われている。一方、川の本流のある広い平地部は商工業地域であり、その外縁は農地となっている。観光や外食産業、宿泊施設や娯楽施設もこの平地部にある。
門番に住民票を見せると、すぐに門を開けて通してくれた。なお、まだ住民としては仮登録の状態らしく、三日以内に役所に出頭して正式な居住手続きをするよう言われた。
門番に促されるまま門を潜ると、目の前には川幅三十メートルはあろうかという堀割に、道幅十メートルほどの立派な石橋がかかっていた。
橋の両側には左右等間隔に並ぶ洋風の街灯が並び、橋を渡ったその先の街路まで連続的に続いていた。左手は高台、右手は平地に向かってなだらかな斜面となっていて、少し歩くと平地を一望できる展望台になっている公園があった。露店や屋台に人出もあり、賑やかだ。展望台から望む街の夜景は絶品だった。龍の姿だった頃は、討伐を恐れてこういう街の近くはさけていたから、何もかも新鮮だ。
公園を見渡すと食べ物を売る露店や屋台がいくつかあって、なかなか繁盛しているようだった。見ると、ホットドッグやサンドイッチに似た軽食や、麺類などもあった。揚げ物のや焼き物のなどのちょっとした惣菜、クレープに似たデザートもあり、前世のお祭りを思い起こす。一つ買って試してみようかとも思ったが、そもそも持ち合わせがないし、特に口寂しさも感じてないので、観察するだけに留めた。
不意に、小さな屋台が目に止まった。何か焼き鳥のような物を作って売っているのだが、全くお客がいないためか、妙に目立っている。
なんだか気になり、引き寄せられるようにその屋台に向かって歩いていた。近づくほどにいよいよ離れがたくなり、気がつくと屋台の前に立っていた。
「い、いらっしゃいませ!お、お一ついかがです、か?」
客あしらいが得意でない感じの店主が声をかけてくれた。
すると、別の屋台の前にいた客の一人が、後ろから儂に声をかけてきた。
「おいおい、姉ちゃん、その店はやめとけ。どれも不味いから。」
すると店主が抗議した。
「ひ、ひどいです。…お、お客さん、その、新作なので、お代はいいですから、味見だけでもしてみませんか?お願いします。…お、お客さん?」
しかし、儂は上の空に、鼻先をひくつかせて、くんくんと臭いを嗅ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと、お客さん!?ちちち近いです!」
「え…はっ!ごめんなさいっ!」
気がつくと、無心に店主の頭の臭いを嗅いでいた。儂は慌てて身を引いた。
「ははは、こりゃ傑作だ!」
そう言ってさっきの客が笑っている。儂は申し訳なくなって店主に謝った。
「…急に変な事しちゃって、本当にごめんなさい。お詫びに一ついただけますか。」
そして笑顔で店主に渡された串焼きを、早速口に入れる。
味がしない…。
儂が固まってると、心配そうに店主が顔を覗き込んできた。
「あの、やっぱり不味いですか…?」
何故か周囲のお客も無言で儂を見守っていた。
「ごめん。すっかり忘れてたけど、儂、味音痴なんだわ…」
そうなのだ。普通の食べ物の味は、〈頭喰い〉の儂には全くわからないのである。
そして、つい小声で呟いてしまった。
「…でも、君は美味しそう…」
ギャラリー全員が無言で一歩退いたのを、肌で感じた。
0
あなたにおすすめの小説
国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!
忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。
生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。
やがてリオは、
一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。
しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。
レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった
あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。
戦闘能力ゼロ、初期レベル1。
冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、
新人向けの雑用クエストしか回ってこない。
しかしそのスキルは、
ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する”
という、とんでもない能力だった。
生き残るために始めた地味な探索が、
やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。
これは、
戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。
同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる