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定番の始まり ~アルケオ~
友達第一号
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「え、今なんて!?」
慌てて店主が儂に聞き返した。儂ははっとして、顔の前で手をぶぶん振って弁解する。
「ち、違います!別に食べたりしませんから。ただ美味しそうってだけで。…あれ?」
ギャラリーがさらに一歩退った。店主がふふと微笑む。
「あなた面白い人ですね。私、実は冒険者ギルド所属の素材鑑定人で、ウイルって言います。」
「あ、ご丁寧に。儂の名前はヘラ。ついさっき仮住民登録したばかりで、無一文です。」
店主がまたくすっと笑った。
「私は人間の残した古文書を読むのが趣味で、たまにここでこうやってかつて人間が作ってた料理を再現して振る舞ったり売ったりしてるんです。」
「か、変わったご趣味ですね…。あ、そうだ、儂、素材を売ろうと思って冒険者登録もしたんですけど、」
と言いつつ鱗から作った布を取り出して見せながら、言った。
「これは加工品だから買い取れないって言われて。これ、買ってくれそうなお店を知りませんか?」
店主は屋台の明かりを布に近づけて興味深げに見つめた。
「これ、普通の布と違いますね…。織方も独特で見たことがありません。この糸、ひょっとして魔蚕じゃないですか?」
「おお、さすがは鑑定人!」
魔蚕はドワーフやエルフの隠里がある奥深い山中の森などではわりとありふれた魔物で、強靭で独特の糸を吐く事で知られている。龍だった時はよく魔物の脳みそも喰らっていたが、その中に魔蚕もいたので、鱗を魔蚕糸に変化させる事ができた。
「以前訪れた事のあるエルフの隠里で手にいれた(という設定の)ものです。どうです?」
「魔蚕糸は素材になるので、ギルドでも買いとれたんですけども…、そうですね、良かったら今晩は私の家にお泊まりになりませんか?明日、この布を買い取ってくれるお店にご案内しますよ。」
「ほ、本当ですか!やった!」
そう、実は泊まる場所をどうしようと思っていたところだった。高台側の門番さんは、低地側の門に行けば検疫所があるから、そこに泊まればいいよ、どうせ誰も使ってないから、などと言っていたのだが。
「はい、これも何かの縁ですから、ご遠慮なく。そういうわけで今日はもう店じまい。」
と言いながら屋台をぱたぱたと手際よくたたむ。件の男は、お前も物好きだな、とあきれ顔、というか諦め顔だ。聞けばときどきこういう事があるらしい。
「ま、ウイルの事、よろしくたのまあ。」
「え、あ、はい?」
なんか頼まれてしまった。儂、今日始めてこの町に入った新参ものなんだけど?店主も面白いがこの町の人もたいがい面白いのか。みんないい匂いがする。思わず顔がほころんでしまった。
ウイルのあとについて夜の住宅街に入っていく。どの建物も間口が狭く奥行きがある、いわゆる鰻の寝床だった。通りに面した建前は、背の高い三角屋根の平らな漆喰の壁に、木の柱が作る幾何学模様が浮かび上がった、ヨーロッパの田舎の観光地のような景色が連なっている。ウイルはそのうちの一軒のドアを開けて、儂に中にはいるよう、促した。家の中は暗かったが、ウイルがすぐに灯りを点してくれた。
「部屋の用意をしますんで、準備ができるまで居間のソファでくつろいでいてください」
そう言いながらウイルは階段をたたたと軽快に上って行った。
儂はソファに座って家の中を無遠慮に観察する。玄関を入ってすぐが、今いる大きくて広いリビング。三方に窓があって、今はカーテンが引かれているが、日中は明るそうだ。奥の方にはウイルが今上って行った階段と、厨房に続く廊下がある。リビングの奥がカウンターになっていて、きっとその向こう側が厨房だろう。厨房のさらに奥に部屋があるようだが、たぶん貯蔵室だろう。ちょうど、ウイルが階段を降りてきた。
「じゃ、部屋に案内しますね。」
ウイルが用意してくれた部屋は、通りに面したコンパクトな部屋で、やはり三方に窓があるがリビングの四分の一くらいの大きさだった。筆記用具が置かれた簡易の机と椅子に照明用のランプ、シングルのベッドが置いてあった。壁には背の低い書棚があって、本がびっしり入っている。
「本棚の本は自由に読んでもらって構いませんよ。この町の地図は机の上に置いておきますね。」
「なんだか、初対面なのにいろいろ気を遣わせてしまって。」
「ふふ、外から来る人とお話するの好きなんです。」
いいながら、ウイルはベッドの縁に腰かけた。
「ヘラさんはどちらからいらしたんですか?」
おっと、いきなり答えにくい質問だ。
「えっと、山の向こうのドワーフの里の方から来ました」
うん、たぶん嘘は言ってない。
「へー、それ、私の知ってる里かな。結構遠いですよね。ここまで歩いてきたんですか?」
「え、まぁ。」
「それはお疲れでしょう。ゆっくりおやすみ下さい。私は下の台所にいますから、ご用があったらお声がけ下さい。もしお腹がすいてたら何かご用意しますから、ご遠慮なく。」
「ありがとう。」
ウイルは立ち上がって、部屋のドアからでようとして、立ち止まり、こちらに振り返った。
「あ、そうそう、その里にはちょっと変わった伝説がありますよね。〈頭喰い〉って聞いた事ありませんか?私、興味あるんですよ。」
今心臓がぎくりって言った。
「え、ええ、たしか頭だけ食べちゃう龍ですよね…、生憎、儂も詳しくお話できるほど知りませんけど。」
いえ、本当は一番詳しいと思うけど…。でも伝説の方はあんまり知らんので、嘘でもない。
「そうですか…。それじゃ、ごゆっくり。おやすみなさい。また明日。」
「はい、おやすみなさい。」
ウイルはいい匂いを漂わせながら出ていった。好奇心旺盛なのはいいことだね。友達になれたらいいな。
慌てて店主が儂に聞き返した。儂ははっとして、顔の前で手をぶぶん振って弁解する。
「ち、違います!別に食べたりしませんから。ただ美味しそうってだけで。…あれ?」
ギャラリーがさらに一歩退った。店主がふふと微笑む。
「あなた面白い人ですね。私、実は冒険者ギルド所属の素材鑑定人で、ウイルって言います。」
「あ、ご丁寧に。儂の名前はヘラ。ついさっき仮住民登録したばかりで、無一文です。」
店主がまたくすっと笑った。
「私は人間の残した古文書を読むのが趣味で、たまにここでこうやってかつて人間が作ってた料理を再現して振る舞ったり売ったりしてるんです。」
「か、変わったご趣味ですね…。あ、そうだ、儂、素材を売ろうと思って冒険者登録もしたんですけど、」
と言いつつ鱗から作った布を取り出して見せながら、言った。
「これは加工品だから買い取れないって言われて。これ、買ってくれそうなお店を知りませんか?」
店主は屋台の明かりを布に近づけて興味深げに見つめた。
「これ、普通の布と違いますね…。織方も独特で見たことがありません。この糸、ひょっとして魔蚕じゃないですか?」
「おお、さすがは鑑定人!」
魔蚕はドワーフやエルフの隠里がある奥深い山中の森などではわりとありふれた魔物で、強靭で独特の糸を吐く事で知られている。龍だった時はよく魔物の脳みそも喰らっていたが、その中に魔蚕もいたので、鱗を魔蚕糸に変化させる事ができた。
「以前訪れた事のあるエルフの隠里で手にいれた(という設定の)ものです。どうです?」
「魔蚕糸は素材になるので、ギルドでも買いとれたんですけども…、そうですね、良かったら今晩は私の家にお泊まりになりませんか?明日、この布を買い取ってくれるお店にご案内しますよ。」
「ほ、本当ですか!やった!」
そう、実は泊まる場所をどうしようと思っていたところだった。高台側の門番さんは、低地側の門に行けば検疫所があるから、そこに泊まればいいよ、どうせ誰も使ってないから、などと言っていたのだが。
「はい、これも何かの縁ですから、ご遠慮なく。そういうわけで今日はもう店じまい。」
と言いながら屋台をぱたぱたと手際よくたたむ。件の男は、お前も物好きだな、とあきれ顔、というか諦め顔だ。聞けばときどきこういう事があるらしい。
「ま、ウイルの事、よろしくたのまあ。」
「え、あ、はい?」
なんか頼まれてしまった。儂、今日始めてこの町に入った新参ものなんだけど?店主も面白いがこの町の人もたいがい面白いのか。みんないい匂いがする。思わず顔がほころんでしまった。
ウイルのあとについて夜の住宅街に入っていく。どの建物も間口が狭く奥行きがある、いわゆる鰻の寝床だった。通りに面した建前は、背の高い三角屋根の平らな漆喰の壁に、木の柱が作る幾何学模様が浮かび上がった、ヨーロッパの田舎の観光地のような景色が連なっている。ウイルはそのうちの一軒のドアを開けて、儂に中にはいるよう、促した。家の中は暗かったが、ウイルがすぐに灯りを点してくれた。
「部屋の用意をしますんで、準備ができるまで居間のソファでくつろいでいてください」
そう言いながらウイルは階段をたたたと軽快に上って行った。
儂はソファに座って家の中を無遠慮に観察する。玄関を入ってすぐが、今いる大きくて広いリビング。三方に窓があって、今はカーテンが引かれているが、日中は明るそうだ。奥の方にはウイルが今上って行った階段と、厨房に続く廊下がある。リビングの奥がカウンターになっていて、きっとその向こう側が厨房だろう。厨房のさらに奥に部屋があるようだが、たぶん貯蔵室だろう。ちょうど、ウイルが階段を降りてきた。
「じゃ、部屋に案内しますね。」
ウイルが用意してくれた部屋は、通りに面したコンパクトな部屋で、やはり三方に窓があるがリビングの四分の一くらいの大きさだった。筆記用具が置かれた簡易の机と椅子に照明用のランプ、シングルのベッドが置いてあった。壁には背の低い書棚があって、本がびっしり入っている。
「本棚の本は自由に読んでもらって構いませんよ。この町の地図は机の上に置いておきますね。」
「なんだか、初対面なのにいろいろ気を遣わせてしまって。」
「ふふ、外から来る人とお話するの好きなんです。」
いいながら、ウイルはベッドの縁に腰かけた。
「ヘラさんはどちらからいらしたんですか?」
おっと、いきなり答えにくい質問だ。
「えっと、山の向こうのドワーフの里の方から来ました」
うん、たぶん嘘は言ってない。
「へー、それ、私の知ってる里かな。結構遠いですよね。ここまで歩いてきたんですか?」
「え、まぁ。」
「それはお疲れでしょう。ゆっくりおやすみ下さい。私は下の台所にいますから、ご用があったらお声がけ下さい。もしお腹がすいてたら何かご用意しますから、ご遠慮なく。」
「ありがとう。」
ウイルは立ち上がって、部屋のドアからでようとして、立ち止まり、こちらに振り返った。
「あ、そうそう、その里にはちょっと変わった伝説がありますよね。〈頭喰い〉って聞いた事ありませんか?私、興味あるんですよ。」
今心臓がぎくりって言った。
「え、ええ、たしか頭だけ食べちゃう龍ですよね…、生憎、儂も詳しくお話できるほど知りませんけど。」
いえ、本当は一番詳しいと思うけど…。でも伝説の方はあんまり知らんので、嘘でもない。
「そうですか…。それじゃ、ごゆっくり。おやすみなさい。また明日。」
「はい、おやすみなさい。」
ウイルはいい匂いを漂わせながら出ていった。好奇心旺盛なのはいいことだね。友達になれたらいいな。
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