頭喰いのだらだら記

kuro-yo

文字の大きさ
9 / 17
定番の始まり ~アルケオ~

ギルドふたたび

しおりを挟む
 街の中の旅行者ギルドの建物は、昨夜の場外の建物と違って、歴史を感じさせる石造りの立派なものだ。おそるおそる扉をあけて中をうかがうと、前世の銀行のような雰囲気の、天井の高い荘厳な造りだった。中は、混雑というほどではないが、それなりに旅行者だろう人々で活気ある賑わいを見せている。やはり、昨夜のあれが普通ってわけではないか。

 どこへ行けばいいのか迷ってると、カウンターの一つに、昨夜応対してくれた職員がいるのがわかったので、誘われるようにそこに向かった。

「こんにちは、昨夜はどうも。」
「おや、昨夜の放浪者の方。無事に現金はご用意できましたか?」
「え?ああ、はい。今日は旅行者ギルドに加入させてもらおうと思って伺いました。」
「ありがとうございます。では早速ですが、こちらの書類に必要事項をご記入下さい。ところで、出資額はいかほどにしますか?」

 旅行者ギルドは互助組織だからか、出資という形で加入料金を払うらしい。出資額によっては受けられないサービスもあるようだ。
 儂はとりあえず、ごく一般的なプランで加入する事にした。
 その後、よくあるありふれた申請書類を埋め、また写真撮影。

「こちらはギルドご利用の手引きです。それから、加入者全員に当座預金口座をお作りします。いますぐご利用できますが、どうなさいますか。」
「なら、この小切手からそのまま預金したいんですが。」
「拝見いたします…すみません、ちょっと額が大きいようですので、一旦、小切手のまま預からせていただきます。この小切手は商業ギルド加盟店のものですので、一度、商業ギルドに照会してからの入金になります。それまでは、こちらで口座から現金を引き出しますと、自動的に旅行者ギルドからの借り入れになりますので、ご注意下さい。」

 よかった、とりあえず現金はすぐに手にできるようだ。ギルドへの出資分は口座からそのまま引き落としてもらい、ついでに住民登録でリリさんに立て替えてもらった分の現金をその場で引き出した。

「お疲れさまでした。こちらが登録証です。お好みのものをお選びください。」

 旅行者ギルドの登録証もアクセサリーだ。いろいろなタイプがあり、好きなものを選べるそうだ。長い耳に似合うだろうと思い、耳たぶに挟むアクセサリーにした。たしか、イヤーカフとかいうんだっけか。

 職員が儂にお辞儀をして見送ってくれるのを背中に感じながら、儂はギルドの外に出て、次の目的地、雑貨屋へと向かう。



 前世のアーケード街のような屋根付きの通りを、店構えを見物しながら歩いて行くと、目当ての雑貨屋の看板が目に入った。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ」

 店主に、リリさんの紹介で来た事と、毛染めが欲しい旨を告げると、店の奥の部屋に案内された。部屋に入ると、壁に作り付けの棚に、種々様々な色の瓶がびっしり、隙間なく並べてあった。

「ひょっとして、これ全部毛染め液ですか?」
「はい、全てお試し用で、お好みのものを選んでいただければ、こちらで染めてみる事もできますよ。気に入っていただけたものがあれば、倉庫から品物をお持ちします。在庫の無いものは受注生産ですので数日お待ちいただきますけども。」

 うーん、適当に置いてある色で染めようと思っていたが、これほどバリエーションがあると逆に迷ってしまうな。単色はもちろん、どういう仕組みなのか、柄染めができるものもあるようだ。また、一度染めると生え替わるまで色落ちしないもの、一時的に着色するだけで水で簡単に洗い流せるものもある。
 とりあえず、前世と同じ黒でいくつか試してみる事にした。店主には、綺麗な髪の毛なのにそめるなんてもったいないと残念がられたが。

 …結論から言おう。儂の髪を染める事は不可能だった。

「…やっぱり、毛染め液が弾かれちゃいますね。髪の毛に浸透する様子もありません。こんな事は初めてですね…」

 うーん、さすがは龍の鱗。毛染めのダメージすら跳ね返すらしい。
 儂はじっと、毛染め液の入った瓶を見入っていたが、ふと思い付いて聞いてみた。

「この毛染め液って、ひょっとして魔物の素材から作られていませんか?」
「あら、よくお分かりですね!ええ、海棲の魔物の素材から作られているんですよ。」

 海の魔物か。そういえば喰った事はないな。

「ありがとう。とりあえず、この毛染め液を下さい。」

 雑貨屋を出ると、まだ日が高かった。次は、冒険者ギルドのウイルを訪ねる事にしよう。



 冒険者ギルドは街の門のすぐ側にあった。ウイルが居るのは、儂がこの街に入る時に通った川上側ではなく、川下側の門の冒険者ギルドだ。
 それにしても川下側の門は立派だ。門の幅も、川上側の三倍くらいある。おそらくこちら側がこの街の正面という事になるのだろう。
 街の方から門の方へ向かうと、例によって門の道幅と同じくらいの立派な橋が堀にかけられていた。川上とは違い、橋の上は屋台が並び、街の外から来たらしい人々が買い食いしたり見物したりして賑わっている。

 いかにも役所という感じの冒険者ギルドの建物を見つけ、儂が冒険者ギルドに足を踏み入れると、しかし予想と違って中は人の姿がなく、静まり返っていた。

 周囲を見渡してみると、手前側はフードコートのように6人掛けくらいのテーブルと椅子が並べられ、奥の方に受付カウンターが見える。カウンターの横からやたらと横長の掲示板が伸び、何枚もの紙が張り出されていた。おそらくこれがあの『依頼掲示板』に違いない。
 掲示板はいくつかのブロックに分けられており、それぞれに一桁の数字が書かれた大きな札が打ち付けられている。

「すみません、掲示板の札の数字はどういう意味なんですか?」

 儂が受付カウンターにいる職員の一人に尋ねてみたところ、あの数字は依頼を回数を表しているのだそうだ。

「依頼を引き受けても達成出来なかった場合、冒険者は違約金を納めます。そして、次にその依頼を引き受けた冒険者が依頼を達成した場合、前の冒険者が納めた違約金の一部を依頼料に上乗せした報酬を受けとります。」

 つまり、数字は依頼の難易度を表しているわけだ。数字が大きいほど、達成が難しく、報酬も多い、という事になるわけだ。うまくできてる。ちなみに、ギルドからの依頼は達成できなくても違約金を納める必要はないらしい。初心者向けの常設依頼などはその例だ。

「あ、ヘラさん、早速来ましたね!どうぞこちらに。」

 掲示板の前で依頼を物色していると、奥のドアからウイルが出て来て、儂に声をかけてくれた。促されるままにウイルの後に従って行くと、いくつも大きな棚が並ぶ、広い倉庫のような部屋に通された。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!

忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。 生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。 やがてリオは、 一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。 しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...