頭喰いのだらだら記

kuro-yo

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定番の始まり ~アルケオ~

鑑定人のお仕事

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 私はウイル。冒険者ギルドで素材鑑定人として働く傍ら、かつて人間が残した遺物の研究もしている。

「ここはギルドの素材保管庫です。この街で発掘された、人間の遺物や、古文書なんかもここに保管されてます。」

 今日は昨夕知り合ったばかりのヘラさんを、素材保管庫に案内した。ヘラさんは興味深げに保管庫をきょろきょろと見回している。

「すごいですね。ここにあるものはみんなウイルさんが鑑定したものなんですか?」
「さすがに全部は無理ですね。定番の素材は私の他にも鑑定できる人がいます。」

 私は棚から古文書を一冊抜き出して、ヘラさんに見せた。

「私はどちらかと言えば遺物の分類とか、古文書の解読とかが主ですかね。これなんか、面白いですよ。」
「あ、昨夕言ってた、料理の本じゃないですか?」
「すごい!良くわかりましたね。ヘラさん、んですか?」
「え」

 ふふふ、あからさまにヘラさんが慌てている。

「ヘラさん、本当は放浪者じゃないんじゃないですか?放浪者が人間の遺物を目にする事ってあまりないですから。ましてや古文書の文字が読めたりはしません。」
「うう、ここでそれを訊きますか…。」

 そしてヘラさんは何か考え込むような素振りを見せる。
 
「あれれ、困らせちゃっいました?…別に無理に聞き出すつもりはありませんから、安心してください。…でも、時々古文書の解読を手伝ってくれると嬉しいかな。」
「…ふふ。居候の身ですし、そういう事なら喜んでお手伝いしますよ。」

 その後、発掘品を見せたり、古文書を読み合ったりして、楽しく過ごした。



 そろそろ日が傾いて来た頃、ヘラさんがリリさんの店に寄って帰ると言うので、ギルドの外まで見送った。そういえば、毛染めがどうなったのか、聞きそびれたね。

 さて、そろそろ、今朝出掛けた冒険者達が素材を持ってギルドに押し掛ける時刻。今日も気合い入れてお仕事しますか。

 ギルドの買い取りカウンターには冒険者が集まり初めていた。私は他の鑑定人に混じって、ひたすら持ち込まれた素材の鑑定をする。出所を確認し、品質を見定め、評価額を設定する。持ち込まれるものの大部分は定番素材、すなわち、薬草類、鉱物類、魔物の死骸などである。

 そしてまれに遺物が持ち込まれる事がある。今日残念ながら遺物はなかった。もう何年も新しい遺物の持ち込みはない。

 買い取り作業が一段落したので、帳簿もつけ終わったので、私は倉庫に戻って古文書の続きを読む。いつも、ギルドが閉まるまでのつかの間の時間を、趣味の古文書の解読に費やすのだ。



 夕刻、受け付けカウンターには、夜間受け付けを除いて全てカーテンがひかれ、ギルドの営業が終了した。正門前のギルドではテーブル席が夜間も開放されていて、今も数組の冒険者が屋台で買ってきたらしい飲み物や食い物を持ち込んで談笑している。

 私がギルドを出ようと思った頃、リリさんが訪ねてきた。私たちはギルドの空いたテーブルに二人で向かい合わせに座る。

「さっき、ヘラさんがお店に顔を出してくれて、今朝立て替えたお金を払ってくれたわよ。もう、こういうのは勘弁してよね。」
「はは、悪かったよ。」
「そうそう、ヘラさん、なんか海の魔物に興味あるみたいだったわよ。」
「海の魔物?ひょっとして毛染めの素材探し?」
「かもよ。面白い子。あ、そうそう、私もまた行商に出る事にしたのよ。出発は三日後か四日後、もう商業ギルドには届け出してきたわ。」
「ふーん、それはやっぱり、魔蚕布まさんぷを商うのに?」
「うん、この街にいても魔蚕布なんて買える人、たぶんいないからね…、ああいう布地を買ってくれそうな人を訪ねようと思ってね。」
「あなたはいいわね、自由に街の外に出られて。」
「あなたこそ、どうせ暇なんだから出ようと思えばいつでも出られるじゃない?そうよ、いっそ私と一緒に行かない?せっかくならあの子、ヘラさんも誘って三人で行きましょうよ。」
「…ごめん、ちょっと街の外は苦手って言うか…」
「あれ?街の外にっていうのはそういう意味なの?」

 そう、私は街の外に出る事ができないのだ。精神的に。

「うん。まだ無理かな。…寂しくなるけど、二人で旅を楽しんでおいで。」

 もっとも、そんな話をした翌日に、ギルドの命令で出張する事になるなど、この時は全く予想してなかったけど。



 家に戻ると、ヘラさんはまだ街を散策してるらしく、戻っていなかった。私も、厨房の奥の倉庫から食材をいくつか準備して、自分の屋台を開くために公園へと向かう。

「よう、ウイル。おや、昨日の姉ちゃんは一緒じゃないのかい?」

 屋台を準備していると、いつも私の古文書料理を酷評するおっちゃんが声をかけてきた。

「今晩は他所を観光してるんじゃないかな。」
「ふーん、滞在中、うちの屋台にも来てほしいね。」
「どうかな、あの子、あんまり食べ物に興味ない…みたいだし?」

 そういえばあの子、いつご飯食べてるのかしら?

「帰ってきたら一応、伝えておくよ。」
「そうかい、頼まあ。」



 公園から見える街の灯りに引き寄せられるように、今夜も人々が集まってくる。私はこの街のこの感じが好きだ。あの子のように、この街にいても新しい出会いや別れはあるのだ。できればいつまでもここを離れずに過ごしたい。

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