頭喰いのだらだら記

kuro-yo

文字の大きさ
11 / 17
定番の始まり ~アルケオ~

夜の街ふたたび

しおりを挟む
 冒険者ギルドを後にして、儂は日が沈む前にリリさんの店に立ち寄った。
 リリさんに立て替えてもらった住民登録手数料を手渡したあと、毛染めがうまくいかなかった話になり、それなら、虹色に染まる毛染め液を使ってるって事にすればいいと言われ、その手があったかと思わず手を打った。
 そしてリリさんから、儂から買い取った魔蚕布まさんぷを売るために、近いうちに行商に出る話を聞いた。

「ヘラさんもしばらくここに滞在したら、旅に出るんでしょ?どこに行くの?」
「まだはっきり決めてませんけど、とりあえず、海に行きたいです。」
「海。それはまたどうして。」
「海棲の魔物というのに興味がありまして。」
「まだ毛染めを諦めてないのね。」
「はは…。そういう事です。」

 その後、リリさんは店じまいするという事なので、そこでお別れし、儂はまだ見ていない平野部の街の散策をする事にした。

 とにかくこの街の夜は、至るところに灯りが点っていて、とても明るい。どこの通りにも街灯が立っているのはもちろん、石畳の中にまで灯りが仕込まれているし、建物の外壁にもイルミネーションがふんだんに使われている。良くみると運河の水底にも灯りが等間隔に点っている。

 そのうち面白い光景を見た。観光客とおぼしき通行人が、まだ点灯していない街灯に近づき、何かハンドルのようなものを操作すると、街灯がふわっと点灯したのだ。え、それいじっていいものなの!?
 見れば、同じような事があちこちで、時には通行人、時には通りに面した店の店員が、同じようにハンドルを操作して街灯を点けている。
 この街の街灯はセルフサービスなの?

「この街の街灯は誰が操作してもいいんですか?」
「ああ、気付いた人が勝手に点けたり消したりするんですよ。ちょっとお見せしましょうか。」

 そう言って儂の前で街灯の操作方法を実演してくれた。ハンドルを操作すると、ちょうどカメラの絞りのように街灯の明るさを変えられるのだそうだ。明るさだけでなく、色を変えるハンドルもついている。

「街灯の色には意味があって、勝手に変えちゃいけない決まりです。災害時の誘導などに使います。年一回の避難訓練の時以外、今まで使われた事はないですけどね。」

 促されて儂も操作させてもらったが、薄明かりからびっくりするほどの明るさまで、自在に変える事ができる。面白がって点けたり消したりしていたら、街灯で遊ばないでくれと怒られた。中央広場に行けば、灯りを使った遊具があるから、そっちに行ってみなさい、と教えてくれた。

 中央広場は、高台の展望公園の落ち着いた雰囲気とはまた違った佇まいと賑わいがあった。周囲を水底が色とりどりに光る細い水路で囲まれ、広場の要所要所にもライトアップされた噴水が設置されている。足元の石畳や手すり、ベンチや花壇にもイルミネーションが取り入れられている。イルミネーションを使った遊具もあり、子供が灯りを操作して遊んでいるのが見えた。

 街の灯りについて解説したパネルがあったので、観光客に混じって読んでみた。
 なんでも、アルケオの街の地下深くには自光石の鉱脈が通っているんだとか。自光石は地中で光輝いている鉱石で、街の街灯は、地下までまっすぐ穴を堀り、ガラスのような丈夫で透明な長い棒を突き刺して作られているんだとか。だから、街灯をつけるのに全くエネルギーを使わないという事らしい。
 ちなみに、自光石を地下から掘って地上に持ってくると、一日も経たたずに光を失ってしまうそうで、鉱脈の回りにある何かをエネルギー源にしていると考えられているそう。

「自光石に直接手で触れると、熱くもないのに火傷するらしいよ」と誰かが言った。

 それって、放射性物質なのでは…。その真上に街があるんでしょ、大丈夫なの?
 と思ったらパネルの解説図にその答えがあった。すなわち、自光石の鉱脈の上に、金属を含んだ厚くて重い粘土の層があるらしい。これが放射線を遮蔽するのだろう。とても、自然にできたとは思えない。恐らく人間の手によって人工的に作られた設備なのだろう。このアルケオの街も、人間の遺物とともに発展したという事か。



 美しい夜景を堪能しつつ、人混みの中をのんびり歩いていたら、急に脇の方からごつい人の手が伸びてきて、儂の腕をつかみ、無理矢理細い路地の方へ引っ張り込んだ。

 路地に入ると前後を風体のあまりよろしくない感じの、冒険者風の者、数人に挟まれてしまった。

「あんた、上質な生地の服を着ているな。」
「それ、純魔蚕まさん製かい?」
「いいとこの娘さんだろう?」
「ちょっとおじさん達に付き合ってくれないかい?」

 にたにた笑いながら、なんかいろいろ勝手な事を言って来る。これはもしかして、異世界名物の『盗賊団』というやつなのでは。平和そうな街にもやっぱりならずものはいるんだね。

「おい、何嬉しそうに笑ってやがる。」
「お前はこれから身代金の人質になるんだ。」
「おい、さっさと縛りあげろ。」

 儂はだまってされるがままに後ろ手にしばられ、猿ぐつわを噛まされ、さらに頭からすっぽり大きな袋をかぶせられた。そして誰かに担ぎ上げられ、どこかに運ばれて行くのを感じた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベル1の地図士は、世界の裏側を知ってしまった

あめとおと
ファンタジー
異世界に転移した主人公が得たスキルは【地図作成】。 戦闘能力ゼロ、初期レベル1。 冒険者ギルドでは「外れスキル」と笑われ、 新人向けの雑用クエストしか回ってこない。 しかしそのスキルは、 ダンジョンの隠し通路、未踏破エリア、消えた古代文明の痕跡まで“地図に表示する” という、とんでもない能力だった。 生き残るために始めた地味な探索が、 やがて世界の秘密と、国家すら動かす大冒険へ――。 これは、 戦えない主人公が“冒険そのもの”で成り上がる物語。 同作品を「小説家になろう」で先行配信してます。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

国王像にヒゲを生やしただけで無人島に送られました!

忍絵 奉公
ファンタジー
国王像にヒゲを一本描いただけ。それだけの理由で青年リオは「国家反逆罪」というとんでもなくくだらない冤罪を着せられ、島流しにされてしまう。だが護送中の船は嵐に遭遇し、辿り着いたのは地図にも載らない完全な無人島だった。 生存能力ゼロ、知識ゼロのポンコツ状態で始まったサバイバル生活は、なぜか喋るカニや歪む空間など、次第におかしな方向へ転がり始める。 やがてリオは、 一番偉い悪魔、四大神獣、そして偉そうな神様たちが軽く喧嘩しながらバーベキューをしている場所に辿り着く。 しかも、国王像ヒゲ事件は――実は宇宙規模の因果の一部だったと知らされる。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...