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定番の始まり ~アルケオ~
夜の街ふたたび
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冒険者ギルドを後にして、儂は日が沈む前にリリさんの店に立ち寄った。
リリさんに立て替えてもらった住民登録手数料を手渡したあと、毛染めがうまくいかなかった話になり、それなら、虹色に染まる毛染め液を使ってるって事にすればいいと言われ、その手があったかと思わず手を打った。
そしてリリさんから、儂から買い取った魔蚕布を売るために、近いうちに行商に出る話を聞いた。
「ヘラさんもしばらくここに滞在したら、旅に出るんでしょ?どこに行くの?」
「まだはっきり決めてませんけど、とりあえず、海に行きたいです。」
「海。それはまたどうして。」
「海棲の魔物というのに興味がありまして。」
「まだ毛染めを諦めてないのね。」
「はは…。そういう事です。」
その後、リリさんは店じまいするという事なので、そこでお別れし、儂はまだ見ていない平野部の街の散策をする事にした。
とにかくこの街の夜は、至るところに灯りが点っていて、とても明るい。どこの通りにも街灯が立っているのはもちろん、石畳の中にまで灯りが仕込まれているし、建物の外壁にもイルミネーションがふんだんに使われている。良くみると運河の水底にも灯りが等間隔に点っている。
そのうち面白い光景を見た。観光客とおぼしき通行人が、まだ点灯していない街灯に近づき、何かハンドルのようなものを操作すると、街灯がふわっと点灯したのだ。え、それいじっていいものなの!?
見れば、同じような事があちこちで、時には通行人、時には通りに面した店の店員が、同じようにハンドルを操作して街灯を点けている。
この街の街灯はセルフサービスなの?
「この街の街灯は誰が操作してもいいんですか?」
「ああ、気付いた人が勝手に点けたり消したりするんですよ。ちょっとお見せしましょうか。」
そう言って儂の前で街灯の操作方法を実演してくれた。ハンドルを操作すると、ちょうどカメラの絞りのように街灯の明るさを変えられるのだそうだ。明るさだけでなく、色を変えるハンドルもついている。
「街灯の色には意味があって、勝手に変えちゃいけない決まりです。災害時の誘導などに使います。年一回の避難訓練の時以外、今まで使われた事はないですけどね。」
促されて儂も操作させてもらったが、薄明かりからびっくりするほどの明るさまで、自在に変える事ができる。面白がって点けたり消したりしていたら、街灯で遊ばないでくれと怒られた。中央広場に行けば、灯りを使った遊具があるから、そっちに行ってみなさい、と教えてくれた。
中央広場は、高台の展望公園の落ち着いた雰囲気とはまた違った佇まいと賑わいがあった。周囲を水底が色とりどりに光る細い水路で囲まれ、広場の要所要所にもライトアップされた噴水が設置されている。足元の石畳や手すり、ベンチや花壇にもイルミネーションが取り入れられている。イルミネーションを使った遊具もあり、子供が灯りを操作して遊んでいるのが見えた。
街の灯りについて解説したパネルがあったので、観光客に混じって読んでみた。
なんでも、アルケオの街の地下深くには自光石の鉱脈が通っているんだとか。自光石は地中で光輝いている鉱石で、街の街灯は、地下までまっすぐ穴を堀り、ガラスのような丈夫で透明な長い棒を突き刺して作られているんだとか。だから、街灯をつけるのに全くエネルギーを使わないという事らしい。
ちなみに、自光石を地下から掘って地上に持ってくると、一日も経たたずに光を失ってしまうそうで、鉱脈の回りにある何かをエネルギー源にしていると考えられているそう。
「自光石に直接手で触れると、熱くもないのに火傷するらしいよ」と誰かが言った。
それって、放射性物質なのでは…。その真上に街があるんでしょ、大丈夫なの?
と思ったらパネルの解説図にその答えがあった。すなわち、自光石の鉱脈の上に、金属を含んだ厚くて重い粘土の層があるらしい。これが放射線を遮蔽するのだろう。とても、自然にできたとは思えない。恐らく人間の手によって人工的に作られた設備なのだろう。このアルケオの街も、人間の遺物とともに発展したという事か。
美しい夜景を堪能しつつ、人混みの中をのんびり歩いていたら、急に脇の方からごつい人の手が伸びてきて、儂の腕をつかみ、無理矢理細い路地の方へ引っ張り込んだ。
路地に入ると前後を風体のあまりよろしくない感じの、冒険者風の者、数人に挟まれてしまった。
「あんた、上質な生地の服を着ているな。」
「それ、純魔蚕製かい?」
「いいとこの娘さんだろう?」
「ちょっとおじさん達に付き合ってくれないかい?」
にたにた笑いながら、なんかいろいろ勝手な事を言って来る。これはもしかして、異世界名物の『盗賊団』というやつなのでは。平和そうな街にもやっぱりならずものはいるんだね。
「おい、何嬉しそうに笑ってやがる。」
「お前はこれから身代金の人質になるんだ。」
「おい、さっさと縛りあげろ。」
儂はだまってされるがままに後ろ手にしばられ、猿ぐつわを噛まされ、さらに頭からすっぽり大きな袋をかぶせられた。そして誰かに担ぎ上げられ、どこかに運ばれて行くのを感じた。
リリさんに立て替えてもらった住民登録手数料を手渡したあと、毛染めがうまくいかなかった話になり、それなら、虹色に染まる毛染め液を使ってるって事にすればいいと言われ、その手があったかと思わず手を打った。
そしてリリさんから、儂から買い取った魔蚕布を売るために、近いうちに行商に出る話を聞いた。
「ヘラさんもしばらくここに滞在したら、旅に出るんでしょ?どこに行くの?」
「まだはっきり決めてませんけど、とりあえず、海に行きたいです。」
「海。それはまたどうして。」
「海棲の魔物というのに興味がありまして。」
「まだ毛染めを諦めてないのね。」
「はは…。そういう事です。」
その後、リリさんは店じまいするという事なので、そこでお別れし、儂はまだ見ていない平野部の街の散策をする事にした。
とにかくこの街の夜は、至るところに灯りが点っていて、とても明るい。どこの通りにも街灯が立っているのはもちろん、石畳の中にまで灯りが仕込まれているし、建物の外壁にもイルミネーションがふんだんに使われている。良くみると運河の水底にも灯りが等間隔に点っている。
そのうち面白い光景を見た。観光客とおぼしき通行人が、まだ点灯していない街灯に近づき、何かハンドルのようなものを操作すると、街灯がふわっと点灯したのだ。え、それいじっていいものなの!?
見れば、同じような事があちこちで、時には通行人、時には通りに面した店の店員が、同じようにハンドルを操作して街灯を点けている。
この街の街灯はセルフサービスなの?
「この街の街灯は誰が操作してもいいんですか?」
「ああ、気付いた人が勝手に点けたり消したりするんですよ。ちょっとお見せしましょうか。」
そう言って儂の前で街灯の操作方法を実演してくれた。ハンドルを操作すると、ちょうどカメラの絞りのように街灯の明るさを変えられるのだそうだ。明るさだけでなく、色を変えるハンドルもついている。
「街灯の色には意味があって、勝手に変えちゃいけない決まりです。災害時の誘導などに使います。年一回の避難訓練の時以外、今まで使われた事はないですけどね。」
促されて儂も操作させてもらったが、薄明かりからびっくりするほどの明るさまで、自在に変える事ができる。面白がって点けたり消したりしていたら、街灯で遊ばないでくれと怒られた。中央広場に行けば、灯りを使った遊具があるから、そっちに行ってみなさい、と教えてくれた。
中央広場は、高台の展望公園の落ち着いた雰囲気とはまた違った佇まいと賑わいがあった。周囲を水底が色とりどりに光る細い水路で囲まれ、広場の要所要所にもライトアップされた噴水が設置されている。足元の石畳や手すり、ベンチや花壇にもイルミネーションが取り入れられている。イルミネーションを使った遊具もあり、子供が灯りを操作して遊んでいるのが見えた。
街の灯りについて解説したパネルがあったので、観光客に混じって読んでみた。
なんでも、アルケオの街の地下深くには自光石の鉱脈が通っているんだとか。自光石は地中で光輝いている鉱石で、街の街灯は、地下までまっすぐ穴を堀り、ガラスのような丈夫で透明な長い棒を突き刺して作られているんだとか。だから、街灯をつけるのに全くエネルギーを使わないという事らしい。
ちなみに、自光石を地下から掘って地上に持ってくると、一日も経たたずに光を失ってしまうそうで、鉱脈の回りにある何かをエネルギー源にしていると考えられているそう。
「自光石に直接手で触れると、熱くもないのに火傷するらしいよ」と誰かが言った。
それって、放射性物質なのでは…。その真上に街があるんでしょ、大丈夫なの?
と思ったらパネルの解説図にその答えがあった。すなわち、自光石の鉱脈の上に、金属を含んだ厚くて重い粘土の層があるらしい。これが放射線を遮蔽するのだろう。とても、自然にできたとは思えない。恐らく人間の手によって人工的に作られた設備なのだろう。このアルケオの街も、人間の遺物とともに発展したという事か。
美しい夜景を堪能しつつ、人混みの中をのんびり歩いていたら、急に脇の方からごつい人の手が伸びてきて、儂の腕をつかみ、無理矢理細い路地の方へ引っ張り込んだ。
路地に入ると前後を風体のあまりよろしくない感じの、冒険者風の者、数人に挟まれてしまった。
「あんた、上質な生地の服を着ているな。」
「それ、純魔蚕製かい?」
「いいとこの娘さんだろう?」
「ちょっとおじさん達に付き合ってくれないかい?」
にたにた笑いながら、なんかいろいろ勝手な事を言って来る。これはもしかして、異世界名物の『盗賊団』というやつなのでは。平和そうな街にもやっぱりならずものはいるんだね。
「おい、何嬉しそうに笑ってやがる。」
「お前はこれから身代金の人質になるんだ。」
「おい、さっさと縛りあげろ。」
儂はだまってされるがままに後ろ手にしばられ、猿ぐつわを噛まされ、さらに頭からすっぽり大きな袋をかぶせられた。そして誰かに担ぎ上げられ、どこかに運ばれて行くのを感じた。
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