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§1
お披露目前
しおりを挟むついに俺の「聖人お披露目の日」となった。
教会前広場には多くの見物が訪れ、屋台が出て、大道芸が披露され、お祭りのような賑わいとなった。
「…母様、お披露目というのは、もっとこう厳かに行われるべきものなのではないですか?」
広場を臨むテラスの奥の控えの間で、お披露目用の晴れ着に身を包んでお出ましを待つ俺は、そんな素朴な疑問を口にした。
「聖人の誕生は数百年ぶりだから、皆、はしゃいでいるのよ。」
「そういうものですか…」
信心深い昔の人達にとっては存在するだけで有難い聖人も、信仰の薄い現代ではただの物珍しい伝統行事でしかないに違いない。
「良いじゃないか、セイト。文字通りアイドルになったつもりで、適当に愛想を振り撒いて媚びを売っとけば、それで教会は満足であろう。」
魔王エルテリアがソファにふんぞり返り、笑いながらそんな事を言った。
「そうですよ、セイト。愚民にはセイトの尊さが想像できないのですから、適当に喜ばせて束の間の幸せを感じさせて置けば、それで充分です。」
魔王のとなりで、背筋を伸ばしてソファに座る聖女アルマリアがそうあとを続けた。
「…姉様がたの言い様が酷い…」
「そうよ、エリー、アリー。信者の方達も大勢いるのよ。その他の有象無象と十把一絡げにしては可哀想よ。」
「母様も何気に酷い事おっしゃいますね…」
そうこうしているうちにお披露目の時刻となり、教会の鐘楼から澄んだ鐘の音が街中に響き渡ると、それまでの喧騒が波を打ったように鎮まり、広場に集まっていった人々が一斉に教会のテラスに注目した。
この急激な変化に、俺も母も感心せざるを得なかった。
「うわ」「珍しい事もあるものです」
一方、双子達には特に気にする様子も見えず、エルテリアなどは腰に手をあてて誇らしげに胸を張って立っていた。
「…エリ姉。なんかした?」
「良く判ったな、セイト。鐘の音に威圧魔法をちょっと載せたのだ。この世界は魔法に耐性がないからか、効果覿面だ。」
「ソウデスカ」
「やりますわね、魔王さん。」
「ホントデスネ」
俺は明後日の方を向きながら、そう呟いて現実逃避した。
そんな俺たちの様子を眺めながら、母が、ぱん、とひとつ手を叩いて、言った。
「さ、いつまでも呆けてないで、集まっていただいた皆さんにご挨拶いたしましょう!」
そう言いながら母は俺を抱き抱えた。その母の後に姉達が続き、教会の聖職者達と共にテラスに出た。
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