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紫丁香花
しおりを挟む「知ってる?この花の花びらは4枚だけど、稀に5枚の花びらをつけることがあるんだよ。その花びらをね__」
そんなことを聞いたのはいつだったか。朝を告げるアラーム音のする場所を探り当てながら考えた。寝ぐせのついた髪を手櫛でとかし、身支度を済ませに洗面台へと足を向けた。今日も同じ時間に家を出て、業務内容の変わらない仕事を繰り返す。楽しみや余裕など社会に出て10年以上たってしまった今では考えることもなくなった。周りの同僚や地元の友人たちは早々に結婚し、早いもので中学生の子どもがいる。自分には縁のない話だと婚活もせずいまだに独身生活を満喫している。「行ってきます」とつぶやいても返事は一切帰ってこない。わかってはいるが昔からの習慣としてつぶやいてしまうのだ。3月の日差しはまだ肌寒い。駅のホームへ向かう道すがら、ふと塀の上に咲いた花のつぼみが目についた。
「花はお好きですか?」
そんな声が聞こえ、振り向けば人のよさそうなおじいさんがにこりと笑いかけ立っていた。
「ええ、昔これと似たような花のつぼみを見たことがあったもので。どんな花が咲くのですか?」
「きりもどきと言う花でね。私もいつからここにあるのかは知りませんが、毎年綺麗な花を咲かせてくれるんです。紫色がきれいでね。5月ごろになれば咲き始めるでしょう」
「そうなんですか。あ、仕事の時間なのでこの辺で」
軽く会釈し仕事に向かう途中ふと考えを巡らせた。そういえば、あの花も5月ごろに咲く花だったような__
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