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第9話 裕福な国とは、こういう事を言うのか?

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「しかし…、何でこうなったんだ…?」

 確かに、シロとクロウにはピカピカ光る指輪のようなモノを邪魔なら持ってきてくれと頼んだのだが…。

「なぁクロウ…、この細い金属でぐにゃぐにゃ曲がるモノは何に使ってたんだ?」
「あ、これか?これはな、人間で言う“ハンガー”ってやつだ。
 ここに服をかけて乾かすんだ。」
「いや、そこではなく、ハンガーとやらをこんなにたくさん何に使っていたのかを聞きたいんだが…。」
「そりゃ、巣を作るのには丈夫で長持ちするからだ。
それに巣を作り替える時にも、そこらじゅうにあるからな。便利なモノだぞ。」
「そうではなく、こんな貴重な金属を、この国は有り余るほど持っているという事なのか?」
「そういう事だ。」
「一体、この国はどれだけ豊富な鉱物資源を持っているんだ…。
 流石、勇者が召喚されるだけの国だ。」

 目の前に積まれたハンガーという細い金属が山積みされた光景を見て、ひたすら納得してしまった。





「…という事なんですが、このハンガーってやつをどうすればいいんでしょうか?」
「よくもまぁ、カラスの連中、こんなにため込んだもんだな。
 いさくさんよ、これは鉄くず屋で買い取ってくれるから安心しな。」
「それなら良かったです。
 できれば、これを耕さんたちにお渡ししたいんですが…。」
「そりゃ構わないが、いいのかい?これだけあれば2千円くらいにはなるぞ。
 2千円もあれば2週間は暮らしていけるんだが…。」

 生活に必要なお金は一週間で千円くらいなんだ。
とすると、ソメノさんにもらうお金はとんでもない額になるんじゃないか?

「耕さん、相談があるんですが…。」
「ん?なんだ?」
「ソメノさんから、このアパートを1か月、管理すれば15万くれると言ってたんですが、それってもらい過ぎって事ですよね。」
「一か月15万か…。まぁまぁの生活ができるって事だな。」
「でも、耕さんは2週間で2千円ですよね。」
「俺たちは別格だよ。底辺の底辺だ。上を見りゃキリがねえが、1か月15万は普通に生活できると思うぞ。
それに服とかも買わなきゃいけないし、いさくさんは電気代も払わないといけないからな。」
「電気…?ですか?」
「あぁ。いさくさんの言うところの“光る魔道具”とかを使う時のお金だ。」
「あ、そういう事ですか。
 やはり、あれは大賢者のような方が皆に魔力を供給しているって事なんですね。」
「魔力?大賢者?
 まぁ、そういう事にしておこうか。
 大賢者ってのは、でっかい組織でな、多くのヒトが働いているんだぞ。」
「そのヒト達が電気という魔力を供給してくれているから、そのヒトに魔力分を支払うという事ですね。」
「お!物分かりがいいね。その分は夕映ちゃん名義になってるから、いさくさんが“電気代を払う”って言ってみれば夕映ちゃんも喜ぶんじゃないか?」
「はい!そうします。さすが耕さんですね。
 また、教えてくださいね。」
「良いって事よ。
 で、いさくさん。あっちにある袋は何だ?」
「あ、あれはクローチが入っている袋と、シロたちが集めてくれた金属です。」
「クローチ?って、あのGか?」
「そうです。土管やらいろんな所に居るから、殺してここに持ってきてもらっているんですよ。」
「だからか…。最近、数が減ったなと思っていたが、いさくさんが原因だったんだな。
 こりゃ、みんなから感謝されるぞ。」
「それは勘弁ですよ。
 あ、それと、こっちの袋にあるモノも売れませんかね?」

耕さんが袋の中を覗いて、声が出なくなった。

「お…、おい…。
 いさくさん…、これは一体?」
「シロ達が言うには、土管を詰まらせる原因がこれだって言うんです。
 こんな指輪とかが詰まらせる原因なんですね。」
「まぁ、そうなるかもしれないが、こりゃとんでもない事だぞ。」
「え?何でですか?」
「まぁ、本物かどうかは置いといて、この国でも貴重な金属ってのがあるんだ。
 例えば、この黄色のようなオレンジ色に光ってる奴が“金”という金属だ。」
「金貨にもなりますね。」
「そうだ。この金ってヤツは高いぞ。今いくらぐらいするかは知らんが、1グラム7,8千円すると思う。」
「へ?そんなにするんですか?」
「あぁ。多分それくらいすると思うが…、それがこれだけあるんだぞ。
 メッキってのも含まれていると思うが、この袋の中の1割が本物だとすると…。」
「耕さん達が裕福に暮らすことができますね。」
「あほか!
 俺たちは、こういう金とか人との付き合いがイヤでこういう生活を送ってるんだ。
 あ、こうしよう。いさくさんのパスポートを購入する資金にするんだよ。」
「パスポート?」
「あぁ。この間言ってた、“セン〇クリス〇ファー・ネービ〇”のパスポートだよ。
 これを買えば、いさくさんは晴れて自由の身となるわけだ。」
「でも、そんな簡単にいくんですかね?」
「そりゃ、いろんな伝手を使う必要があるから、おいそれとはいかんと思うが、それでも売れば良いと思うぞ。
 まぁ、これも夕映ちゃんと相談すればいい。」
「耕さん、何から何まで本当にありがとうございます。」
「何、良いって事よ。
 それに、俺たちも、いさくさんのおかげで美味い飯食わせてもらってるからな。
 持ちつ持たれつってところだ。」

 この国でも、親切なヒトは居る。
耕さん、すえさん、コンビニの店長さん、そしてソメノさん。
そんなヒトが笑顔になってくれていることが嬉しい。
この世界では何もできないと思っていた俺でも、少しでも皆の役に立っているんだ、と実感している。

 そんな思いを持ちながら、夕方ソメノさんにその話をした。

「イサークさんは、何でもご自身で片付けてしまうんですね。」
「いや、そんな事はないよ。耕さんにも相談して、最善の策というものも教えてもらったつもりだよ。」
「はぁ…。なんだか、耕さん達が羨ましいです。」

 ソメノさん、少しご機嫌斜めだ。

「もっと、私に頼ってください!
 いいですか!イサークさんは、私が雇ったヒトです。もっと、私に相談してくださいね。」
「あぁ。すまない。
 次回からそうさせてもらうけど、現物は見なくていいのか?」
「あ…。あの小屋は…。」
「クローチか…。」
「そう…です…。」
「しかし、あの重さは流石に俺でも持ち運ぶことができないんだけど…。」
「少し待っててください。私もあの小屋に行けるようにします!」
「なら、クローチが見えないようにしておくよ。」
「はい。お願いします。」

 やはり、クローチというかGが原因のようだ…。
流石の俺でも一匹や二匹なら対処できるが、数百匹の死骸を見るのは…。
そんな事を思いながら、クローチの入った袋を縛って、中身が見えないようにする。

「お待たせしました!」
「おぅ、って…、誰?」

 ソメノさん…、全身白い服を着て眼鏡やら口を覆う布までつけているが…。

「ソメノさん…、その服は?」
「これですか?
 これは防護服と言って、悪いモノを通さない服です!」

 ふんすかしているように感じるが、白い物体がゴソゴソしているだけにも見える。
クローチが黒なら、今のソメノさんは白いデカい物体だ…。

「で、これがシロさん達が集めてきた金属ですね。
 分類は色別ですか…。では、業者に見てもらって査定してもらうのが一番ですね。」
「そう…ですか…。
 しかし、ソメノさん…、その服って動き難くないですか?」
「普段着よりは動き難いですが、これもイサークさんを雇っている雇用主として当然の事ですけど。」

 ソメノさん、辛そうだ。

「じゃ、この状態のままにしておくって事でいいですか?」
「盗られるんじゃないですか?
 この辺りも物騒になってますから、カギをかけましょうか。」
「カギは必要ないですよ。シロやクロが見張ってくれてますからね。
 それよりも、もう出ましょう。ソメノさん辛そうです。」
「はい…。そうしていただけるとありがたいです…。」

 小屋を出た瞬間、ソメノさんがぶっ倒れた。

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