地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉

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第四章

4-23 ガールズ・トーク②~パラレル:視点変更ナズナ~

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時は少し遡り、琥珀亭での出来事…

困ったことになりました…。

 ニノマエ様のことはカルム様から聞いておりましたが、ディートリヒさんのことは聞いていません。
それにニノマエ様はディートリヒさんと私を二人きりにして何処かに行かれてしまいました。
多分、カルム様の店であり、もしかすると私を返そうとしているのではないでしょうか…。

 心配です。命令に失敗したことになります。

「ねぇ、ナズナさん。先ほど言ってた事は本当の事ですか?」
「何の話でしょうか。」
「カズ様をお守りするという事です。」
「はい。カルム様がそうお命じされました。」

 命令は絶対ですから。

「では、カズ様の力を知っておられますか?」
「いえ、私は帝国に居たので、何も存じておりません…。」
「そうですか…。あの方は誰よりもお強いです。Aランクの冒険者であっても、暗殺者であっても、例え何十人、何百人襲ってきても、恐らくはカズ様の方がお強いです。
なので、守るという事は必要無いと思います。」

 え、そこまで強いの? でも命令は守るってどういう事?

「では、何故カルム様はそのような命令をされたのでしょうか。」

ディートリヒさんは、ニノマエ様が仰った言葉を一言一句間違えずに話す。
このヒトはご主人様の一挙手一投足を覚えているんだと感じた。
しかし、このヒトは何を言いたいんだろう…。ヒトの役に立つことは何故いけないのか。

「どうしてでしょうか。ヒトから親切にされることは嬉しいことではありませんか。」
「では、ナズナさん、今あなたはお腹がいっぱいで、もう動けないといった状況でも、誰かから食べ物を差し出されたら、それを受けて食べますか?」
「上司からの命令であれば食べます。しかし、部下から者であれば断ります。」
「そこなのです。
カズ様は両方とも断る方です。お腹がいっぱいなのに食べる必要がない、それなのに食べる必要があるのか、を考える方なのです。
食べる必要が無いのに食べなければいけない…、そんな理不尽な事を嫌うのです。
部下からのものであれば、部下に食べてもらいます。そして上司からの命令であればその命令に対し本気で怒ります。それは、カズ様自身の考えに基づいて動かれておられるからです。」

 上司の命令に逆らっても問題ないですって!?
そんな事したら懲罰者となってしまいます。誰も懲罰者となることを望んでおりません。

 その後、ディートリヒさんの過去を打ち明けられました。
それはそれは酷い過去でした…。でもそれが奴隷として生きていく上で当たり前ではないのでしょうか。
主人である者の命令には背けません。
そんなことをすれば、激痛が走ります。
その激痛がイヤで主人に従うのです。
 しかし、このディートリヒというヒトは違います。奴隷の根幹を変えています。
そうまでさせたニノマエ様とはどんなヒトなんでしょうか。

「ディートリヒ様、私は奴隷です。
奴隷の私がこんな事を考えてはいけないと思いますが、奴隷とは一体何でしょうか。」
「私には分かりません。でも、カズ様であればそれを解決してくださいます。
 私は元奴隷です。でもカズ様が思う奴隷は私たちが思う奴隷ではないと思います。」
「私は奴隷という身分に落ちる事にショックを受けました。
 そこまで成り下がる必要があるのかとも…。
今の私であれば少しくらいご主人様のお役に立てると思います。それなのに、何故奴隷に落ちてまで命令を受けなくてはいけないのか…。」

 とうとう、自分が思っていたことを告げてしまいました。
私は職務を全うするだけに生きてきました。
それに職務に誇りを持っています。その職務を行うために奴隷でなくてはいけないのでしょうか。

「つまり、あなたは奴隷でなくてもご主人様を守ることができると自負されている。
 そして、奴隷に落ちてまで命令を受けなければいけないご自分を嘆いておられるのですね。」
「そのような仕事は、奴隷でなくてもできると思います。」

 パシッ!

 痛い…。いつの間にか頬を打たれていました。
いつもであればすぐかわすのですが、何故かわせなかったのか…。
そして、今一度ニノマエ様の言葉を繰り返しております。

「自惚れないでください。
 先ほどカズ様が仰られた言葉が全く耳に入っておられませんね。
 カズ様は、あなたにこれから生きていく中で2つの大切な言葉を言われました。
一つ目は、主人から命令された事だけをして、それで満足なのかという事。
 そして二つ目は、あなたの意志を尊重する事。
カズ様は、あなたの葛藤を見抜き、このままで良ければお金を稼いでくれたら解放すると伝えた上で、真に信頼を勝ち取ることができれば、お互い助け合って生きていきたい。とまで仰っています。これは主人と奴隷という関係で言っているのでは無い事に気づきなさい。
カズ様は、あなたを対等の立場として扱っているという事なのです。
さっきも言いましたが、あなたよりもカズ様の方が断然強いです。
それにつけてあなたは何ですか!
自分が惨めな身分に落ち、命令で守れと言われただけです。
他人から『可哀そうだね』と同情してもらおうとしているだけじゃないですか。
それにあなたが奴隷になったのはつい最近の事…、私は1年間奴隷として四肢を切られ獣のようにあられもない姿を見せ、したくも無い行為を大勢の貴族の前で見られていたのです…。」

 あ、このヒト…心の闇が深い…。
多分、私よりももっと深い…。でも、ここ折れれば私のプライドが許さない。

「もういい!ディートリヒやめるんだ。これ以上自分を虐げるな…。」

 あ…、いつの間にかニノマエ様が戻って来られていた。
でも、このヒトも何故私の索敵に引っ掛からなかったのだろう。
私はニノマエ様とディートリヒさんの姿を見て驚くとともに、何故か涙が溢れてきました。

 ニノマエ様はディートリヒさんをを抱きしめ、何か仰っています。
そして、ディートリヒさんの頭に優しいキスをされました。
なんて、美しい光景なのでしょう。

「ナズナさん、自分は今カルムさんの所に行き、すべてを話してきました。
 口下手だから、説明が悪かったら、その、すまん。
 自分は君が命令で動くのであれば不要だと伝えた。それが答えだ。
 君がカルムさんに命令されたように、カルムさんもとある偉い方に命令されていたようだ。
 職務に忠実になることは問題ない。でも、そこに自我はあるのかい?」

 え?命令に自我なんてある訳ない…。何を言ってるの?

「命令に忠実に動くだけなら、それはゴーレムだってできることだ。
という事は、君はゴーレムと同じだって事だよ。」

「え…、ゴーレムと同じ?」
「そうだ。守れと言われて守るだけ。会話も無ければ感情も無い。ただ単に息をして飯を食い、仕事をし、糞して寝る。そんな人生が面白いのか?
ナズナさんは200年以上生きてるよね。200年間そんな生活をしてきて、何も感じないのか?
自分をさらけ出して笑い泣く。毎日毎日が楽しくてしょうがない。そんな生き方もあっていいんじゃないか。」

私は驚愕した。ニノマエ様は私の事を考えて、私の為に行動し、私を守ろうとされている。
いつの間にか口に手をあて鳴き声を押さえていた。
何故これほどまでに私を助けるの?私があなたにとってどんな存在でいればいいの?

「さっき、カーレルさんにも会って来たよ。彼にもびっくりされたけど、君自身が考える道に進めば良いって言ってくれた。落ち着いたら一度会って来ると良いよ。」

え、影である父が姿を見せる事なんて滅多にないことなのに、何故カルム様まで巻き込んでまで、私を助けようとされるの?私は奴隷だよ…。奴隷は屈辱だよ…。そこまで落ちて仕事なんてしたくないよ…。

「ナズナさん、私はそんな奴隷として生活して悲観した日は毎日で、いっその事殺してほしいと思ったことは毎日です。
でも、それでも今が一番幸せですよ。この幸せを壊す者がいれば全身全霊で倒します。」

 奴隷であり、死んでも良いと思っていたディートリヒさんをここまで導いている方であれば、今の私を助けてくれるの?

「ディートリヒ様、苦しい思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
 私も捕縛されてからの毎日は苦痛でした…。
毎夜毎夜守衛の男におもちゃのように犯され続け、もう子供も産めないほど下腹部をズタズタにされました。
 それでも、任務だと思い我慢し、漸く助けに来てもらった結果が奴隷落ちでした。
 もう自分自身がイヤになっていたんです。
 そんな中、新しい主人に仕え主人を守れと言われても、もうどうでも良くなったのです。
 命令に従うことが一番だと思っていた結果が女としての役目も果たせず奴隷として暮らす…。
 私が今まで生きてきた200年は何だったのでしょう…。
 そんな状態で何をすべきなのでしょうか?」

 ニノマエ様にも私の胸の内を話してしまいました。
凌辱され、子どもも産めず、これから何百年も生きていかなければならない。
もう楽しい事なんて何もない…。だから、私はゴーレムとなるというの?

助けて…。

「カズ様と一緒に生き、笑顔になればいいんです。
 それにねナズナさん、カズ様が治療してくださった魔法ですけど、あれはヒーレスなんですよ。」
「え!?ヒーレス!?」
「そう。だから、あなたは私と同じで子供を産めない状況から回復しています。これからも子供を産める身体になったという事です。一か月もしないうちに月のモノが来ますよ。」

このお方は一体何者なんでしょうか…。
奴隷を奴隷とも思わずに普通に接していただける。
ヒーレスというこの国でも数人しかいない治癒魔法をいとも簡単にかけてしまう。

私は頭の中が真っ白になりました…。
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