15 / 18
15
しおりを挟む
「ホンモノだよ」
柔らかな口調と笑みが雪華の怒りの深さを思い知らせた。
渦巻く雪が男たちに絡みつき捕える。
「ねえカメラってどれ?」
雪華は艶やかな笑みと共にカメラを奪うと「ふうん」と面白くもなさそうに回し見た。
「これでさあ、色々撮って動画にあげるんだ? それで不幸になる人がいても、誰かを傷つけることになってもかまわないってスタンスでいいんだよね?」
ひたすら下がっていく気温に人間たちは歯の音も合わない。ガタガタと震えるのは寒さからなのか、恐怖からなのか。
晃成の背筋も凍り付いていく。
こんなに雪華に対して恐怖心を抱くのは初めてのことだ。
「撮ってあげようか。君たちがどうやって凍え死んでいくのか」
スウっと向けられた眼差しは刃物よりも鋭く、人間たちはヒっと声をあげた。
「た、助けて、ください……」
手を合わせ震えながら雪華に命乞いをする。
それは死を目前にしたからに違いなかった。自分の命を握られていることを本能的に察したのだろう。
雪華はじっくりと人間たちを見ると「なぜ?」と聞いた。
「お前たちは晃成を殺そうとした。それをカメラにうつし面白おかしく拡散しようとした。それと同じことをしようとして何が悪い?」
低く冷え切った声。
触れたら間違いなく凍死するだろうほどの冷酷がそこにはある。
いつの間にか細がそばにいて、晃成を抱きとめていた。まるで毛布に包まれたような安堵があって晃成は驚きながらもホッと息を吐いた。
細は傷をふさぐためか冷たい手をあて冷気を注ぎ込んだ。凝固した血液が傷をふさぎ出血が弱くなる。
晃成なんかいなくなればいいと思っているくせにいざとなればこうして助けてくれる。
「細さん」
声をかけると細は表情を変えずに晃成を見た。
「……ずいぶん深く手負いましたね。あなたは王の大事な人なんだと自覚してください」
「大事な、ひと?」
信じられない言葉をかけられて問いかけるとうんざりしたように見返された。
「認めるつもりはありませんよ、でもあなたに何かあれば王はそれを許しません。わたしたちもそれに従うのみです」
ビュウビュウと荒れ狂う雪の中、晃成は雪華を見た。
可愛くて強くてだらしない、愛おしい晃成の王。
「そっか。うん、もうしない。これが最後だ」
なによりも大切なのは雪華だから。
人間と対峙する雪華の声が厳かに聞こえてくる。
「お前たちがどうなろうとどうでもいい。ここで殺してやるのは簡単だ」
だが、と雪華は続けた。
「おれの男が助けようと願った命だ。見逃してやろう。お前たちの記憶を全て消す。それでも自力で帰れるなら助かるだろう」
長い指が男たちの額に当てられた。スっと光の矢が頭に刺さっていく。
毒気が抜けたように口を開け、呆けた顔のその瞳にはキラキラとダイヤモンドダストを纏う雪の王がうつる。
「さて、どうなるかな」
この先の運命は自分たち次第。
だけどすべての記憶を失った状態で雪山に捨てられるのは死刑宣告とおなじことになるだろう。
「これがギリギリの妥協案です」
細が晃成に告げた。
これ以上この問題に関わるなと言うことだ。晃成はわかったと頷いた。
「細、さん……迷惑を、かけてごめんなさい」
謝る晃成を訝しげに見た細は眉を寄せた。
「晃成さん?」
結末を見届けて安心したからだろうか。ふっと気が遠くなる。血を流しすぎたのだろうか、頭の芯がひどく冷たい。
「晃成さん?! しっかりしてください」
細の声が遠くなっていく。
「うん、なんか、ちょっと、眠たくて……」
最後に見た雪の王は誇り高く美しくて、この人を好きになってよかったと晃成は思った。真っ暗な底に沈んでいく手前で、雪華の強い腕に掴まれた気がした。
柔らかな口調と笑みが雪華の怒りの深さを思い知らせた。
渦巻く雪が男たちに絡みつき捕える。
「ねえカメラってどれ?」
雪華は艶やかな笑みと共にカメラを奪うと「ふうん」と面白くもなさそうに回し見た。
「これでさあ、色々撮って動画にあげるんだ? それで不幸になる人がいても、誰かを傷つけることになってもかまわないってスタンスでいいんだよね?」
ひたすら下がっていく気温に人間たちは歯の音も合わない。ガタガタと震えるのは寒さからなのか、恐怖からなのか。
晃成の背筋も凍り付いていく。
こんなに雪華に対して恐怖心を抱くのは初めてのことだ。
「撮ってあげようか。君たちがどうやって凍え死んでいくのか」
スウっと向けられた眼差しは刃物よりも鋭く、人間たちはヒっと声をあげた。
「た、助けて、ください……」
手を合わせ震えながら雪華に命乞いをする。
それは死を目前にしたからに違いなかった。自分の命を握られていることを本能的に察したのだろう。
雪華はじっくりと人間たちを見ると「なぜ?」と聞いた。
「お前たちは晃成を殺そうとした。それをカメラにうつし面白おかしく拡散しようとした。それと同じことをしようとして何が悪い?」
低く冷え切った声。
触れたら間違いなく凍死するだろうほどの冷酷がそこにはある。
いつの間にか細がそばにいて、晃成を抱きとめていた。まるで毛布に包まれたような安堵があって晃成は驚きながらもホッと息を吐いた。
細は傷をふさぐためか冷たい手をあて冷気を注ぎ込んだ。凝固した血液が傷をふさぎ出血が弱くなる。
晃成なんかいなくなればいいと思っているくせにいざとなればこうして助けてくれる。
「細さん」
声をかけると細は表情を変えずに晃成を見た。
「……ずいぶん深く手負いましたね。あなたは王の大事な人なんだと自覚してください」
「大事な、ひと?」
信じられない言葉をかけられて問いかけるとうんざりしたように見返された。
「認めるつもりはありませんよ、でもあなたに何かあれば王はそれを許しません。わたしたちもそれに従うのみです」
ビュウビュウと荒れ狂う雪の中、晃成は雪華を見た。
可愛くて強くてだらしない、愛おしい晃成の王。
「そっか。うん、もうしない。これが最後だ」
なによりも大切なのは雪華だから。
人間と対峙する雪華の声が厳かに聞こえてくる。
「お前たちがどうなろうとどうでもいい。ここで殺してやるのは簡単だ」
だが、と雪華は続けた。
「おれの男が助けようと願った命だ。見逃してやろう。お前たちの記憶を全て消す。それでも自力で帰れるなら助かるだろう」
長い指が男たちの額に当てられた。スっと光の矢が頭に刺さっていく。
毒気が抜けたように口を開け、呆けた顔のその瞳にはキラキラとダイヤモンドダストを纏う雪の王がうつる。
「さて、どうなるかな」
この先の運命は自分たち次第。
だけどすべての記憶を失った状態で雪山に捨てられるのは死刑宣告とおなじことになるだろう。
「これがギリギリの妥協案です」
細が晃成に告げた。
これ以上この問題に関わるなと言うことだ。晃成はわかったと頷いた。
「細、さん……迷惑を、かけてごめんなさい」
謝る晃成を訝しげに見た細は眉を寄せた。
「晃成さん?」
結末を見届けて安心したからだろうか。ふっと気が遠くなる。血を流しすぎたのだろうか、頭の芯がひどく冷たい。
「晃成さん?! しっかりしてください」
細の声が遠くなっていく。
「うん、なんか、ちょっと、眠たくて……」
最後に見た雪の王は誇り高く美しくて、この人を好きになってよかったと晃成は思った。真っ暗な底に沈んでいく手前で、雪華の強い腕に掴まれた気がした。
1
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる