雪の王と雪の男

乃木のき

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「ホンモノだよ」

 柔らかな口調と笑みが雪華の怒りの深さを思い知らせた。
 渦巻く雪が男たちに絡みつき捕える。

「ねえカメラってどれ?」

 雪華は艶やかな笑みと共にカメラを奪うと「ふうん」と面白くもなさそうに回し見た。

「これでさあ、色々撮って動画にあげるんだ? それで不幸になる人がいても、誰かを傷つけることになってもかまわないってスタンスでいいんだよね?」

 ひたすら下がっていく気温に人間たちは歯の音も合わない。ガタガタと震えるのは寒さからなのか、恐怖からなのか。
 晃成の背筋も凍り付いていく。
 こんなに雪華に対して恐怖心を抱くのは初めてのことだ。

「撮ってあげようか。君たちがどうやって凍え死んでいくのか」

 スウっと向けられた眼差しは刃物よりも鋭く、人間たちはヒっと声をあげた。

「た、助けて、ください……」

 手を合わせ震えながら雪華に命乞いをする。
 それは死を目前にしたからに違いなかった。自分の命を握られていることを本能的に察したのだろう。

 雪華はじっくりと人間たちを見ると「なぜ?」と聞いた。

「お前たちは晃成を殺そうとした。それをカメラにうつし面白おかしく拡散しようとした。それと同じことをしようとして何が悪い?」

 低く冷え切った声。
 触れたら間違いなく凍死するだろうほどの冷酷がそこにはある。

 いつの間にかささめがそばにいて、晃成を抱きとめていた。まるで毛布に包まれたような安堵があって晃成は驚きながらもホッと息を吐いた。
 細は傷をふさぐためか冷たい手をあて冷気を注ぎ込んだ。凝固した血液が傷をふさぎ出血が弱くなる。

 晃成なんかいなくなればいいと思っているくせにいざとなればこうして助けてくれる。

「細さん」
 
 声をかけると細は表情を変えずに晃成を見た。

「……ずいぶん深く手負いましたね。あなたは王の大事な人なんだと自覚してください」

「大事な、ひと?」

 信じられない言葉をかけられて問いかけるとうんざりしたように見返された。

「認めるつもりはありませんよ、でもあなたに何かあれば王はそれを許しません。わたしたちもそれに従うのみです」

 ビュウビュウと荒れ狂う雪の中、晃成は雪華を見た。
 可愛くて強くてだらしない、愛おしい晃成の王。

「そっか。うん、もうしない。これが最後だ」
 なによりも大切なのは雪華だから。

 人間と対峙する雪華の声が厳かに聞こえてくる。

「お前たちがどうなろうとどうでもいい。ここで殺してやるのは簡単だ」

 だが、と雪華は続けた。

「おれの男が助けようと願った命だ。見逃してやろう。お前たちの記憶を全て消す。それでも自力で帰れるなら助かるだろう」

 長い指が男たちの額に当てられた。スっと光の矢が頭に刺さっていく。
 毒気が抜けたように口を開け、呆けた顔のその瞳にはキラキラとダイヤモンドダストを纏う雪の王がうつる。

「さて、どうなるかな」

 この先の運命は自分たち次第。
 だけどすべての記憶を失った状態で雪山に捨てられるのは死刑宣告とおなじことになるだろう。

「これがギリギリの妥協案です」

 細が晃成に告げた。
 これ以上この問題に関わるなと言うことだ。晃成はわかったと頷いた。

「細、さん……迷惑を、かけてごめんなさい」

 謝る晃成を訝しげに見た細は眉を寄せた。

「晃成さん?」

 結末を見届けて安心したからだろうか。ふっと気が遠くなる。血を流しすぎたのだろうか、頭の芯がひどく冷たい。

「晃成さん?! しっかりしてください」

 細の声が遠くなっていく。

「うん、なんか、ちょっと、眠たくて……」

 最後に見た雪の王は誇り高く美しくて、この人を好きになってよかったと晃成は思った。真っ暗な底に沈んでいく手前で、雪華の強い腕に掴まれた気がした。
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