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第一章 First love
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「……ん」
今更誤魔化すのもおかしいと思い頷いた。
自分の気持ちを言葉にするとさらに周防への気持ちを実感する。
好き。
大好きなままだ。
「いいね、蜜、めっちゃ可愛い」
茶化すように三田が背中にのしかかってきた。同じくらいの身長だからじゃれるように絡まり合う。
「やめろって」
「なんか恋しちゃいそうだな。そんな可愛い顔をされるとさ」
「ばーか、ジュースしか飲んでないのに大丈夫か。酔っぱらい」
「いや、マジで。いいよすごく昔より全然いい。中学の時はさ、そういう話題になると興味ありませんってオーラすごかったじゃん。そんな低俗なものは関係ありませんって。あの時の孤高の蜜もかっこよくてよかったけど今の方が可愛くておれはすき」
「そんなひどかった?」
「ひどいっていうか。ニコニコしてるけどあまり他人を寄せ付ける気がなかっただろ。あと、なんだろな、うん……綺麗なアンドロイドみたいな感じだったかな。今は感情がめっちゃ揺れてるのがわかるし、血が通って生き生きしてる」
「そ……それはなんていうか、申し訳ない」
そんな風に見えていたのか。
確かに言われた通りだと思う。
なんでみんなが恋に浮かれているのかわからなかったし、それを知られたくなくて少し距離を置いていたのかもしれない。どこか低俗なものって見下していたのもある。
ばれていたなんて恥ずかしい。
「いーや? 蜜をここまで変えた人ってどんな感じなのか気になるよな。今度会ってみたい」
「絶対だめ」
「なんでケチ。意地悪にはこうしてやる~」
と、ふざけてスリスリと頬を寄せてくる。
盛り上がりすぎだバカと顔を押しのけた。誰とでもイチャイチャする趣味は持ち合わせていない。
「つーか歩きにくいから離れろよ」
「やだ。蜜の事離したくない!」
「もう終わり!」
絡められた腕を無理矢理ひきはがした。
よそ見をしながら歩いていたせいで目の前の人とぶつかりそうになる。ちょうど路地から大きな通りに出るところだったから人通りが多いことを失念していたのだ。
「あ、すみません」
謝りながら相手を見るとそれは図書委員の先輩、吉崎だった。なんて偶然。
マラソン大会以来もちょこちょこと絡まれて少しだけ困っていたのに休日にまで会ってしまうなんて。
だけど吉崎は真っ青な顔のままじっと蜜を見つめている。
唇がワナワナと震えた。
「アバズレ……」
あまりにも小さな呟きを聞き返すと強く腕を掴まれ、しかめられた口元が汚らしく歪んだ。
「この、淫乱!」
「は?!」
ぶつけられた言葉の意味が分からない。
なぜいきなりそんな失礼な言葉を叫ばれるのか。
思わずムッとする蜜に吉崎は口汚く罵った。
「君がこんな真昼間から男とホテルにはいる人だとは思わなかったよ」
「ホテル?! 何を言って……」
蜜の背中を指さした。三田とじゃれていたことかと思ったけどそうではなかった。
ちょうど二人がくっついていた場所がいかがわしいホテルの前だったのだ。
こんなところにホテルがあるなんて知らなかった。
確かに大きな通りから一本入っているし、カラオケや飲み屋の類がいりこんでいた場所だったからこっそり仲間入りしていてもおかしくないのだろう。
それに綺麗な建物だったから全く気がつかなかった。
「や、それは誤解です。違います!」
「は、どうりで他の教師も君にメロメロだもんな。他の男も咥えこんでいるのか」
「ちょっと先輩」
いくらなんでも言いすぎだ。
蜜の事だけじゃなく、ほかの教師と言うことはきっと周防も含まれている。
「ホテルになんて入っていません。誤解です」
「ふん、何とでもいえるよね」
普段の大人しさもかけらも見当たらない吉崎の歪んだ表情に蜜は諦めたように息を吐いた。
「先輩、言っていいことと悪いことがありますよ」
「蜜……?」
心配した三田が話しかけてきたタイミングで吉崎はクルリと方向を変え、そのまま逃げるように姿を消してしまった。
多分誤解したままだろう。
「なにあの人……なんか険悪だった……?」
「学校の先輩。っていうか場所が悪かったね。後ろホテルだった」
三田は振りかえり「休憩」と書かれた文字に「おおっ」とのけぞった。
「まじだ。入り損ねた」
「ばか」
緊張感のないセリフに思わず笑ってしまった。
思い切りはたくと「いて」と大して痛くもないくせにうめき声をあげた。
ふ、と変な力が抜けた。
誤解するなら勝手にすればいい。
本当の事なんか聞こうともしなかったんだから。
だけど、変なことにならなきゃいいと思った不安は最悪な形で具現化する。
今更誤魔化すのもおかしいと思い頷いた。
自分の気持ちを言葉にするとさらに周防への気持ちを実感する。
好き。
大好きなままだ。
「いいね、蜜、めっちゃ可愛い」
茶化すように三田が背中にのしかかってきた。同じくらいの身長だからじゃれるように絡まり合う。
「やめろって」
「なんか恋しちゃいそうだな。そんな可愛い顔をされるとさ」
「ばーか、ジュースしか飲んでないのに大丈夫か。酔っぱらい」
「いや、マジで。いいよすごく昔より全然いい。中学の時はさ、そういう話題になると興味ありませんってオーラすごかったじゃん。そんな低俗なものは関係ありませんって。あの時の孤高の蜜もかっこよくてよかったけど今の方が可愛くておれはすき」
「そんなひどかった?」
「ひどいっていうか。ニコニコしてるけどあまり他人を寄せ付ける気がなかっただろ。あと、なんだろな、うん……綺麗なアンドロイドみたいな感じだったかな。今は感情がめっちゃ揺れてるのがわかるし、血が通って生き生きしてる」
「そ……それはなんていうか、申し訳ない」
そんな風に見えていたのか。
確かに言われた通りだと思う。
なんでみんなが恋に浮かれているのかわからなかったし、それを知られたくなくて少し距離を置いていたのかもしれない。どこか低俗なものって見下していたのもある。
ばれていたなんて恥ずかしい。
「いーや? 蜜をここまで変えた人ってどんな感じなのか気になるよな。今度会ってみたい」
「絶対だめ」
「なんでケチ。意地悪にはこうしてやる~」
と、ふざけてスリスリと頬を寄せてくる。
盛り上がりすぎだバカと顔を押しのけた。誰とでもイチャイチャする趣味は持ち合わせていない。
「つーか歩きにくいから離れろよ」
「やだ。蜜の事離したくない!」
「もう終わり!」
絡められた腕を無理矢理ひきはがした。
よそ見をしながら歩いていたせいで目の前の人とぶつかりそうになる。ちょうど路地から大きな通りに出るところだったから人通りが多いことを失念していたのだ。
「あ、すみません」
謝りながら相手を見るとそれは図書委員の先輩、吉崎だった。なんて偶然。
マラソン大会以来もちょこちょこと絡まれて少しだけ困っていたのに休日にまで会ってしまうなんて。
だけど吉崎は真っ青な顔のままじっと蜜を見つめている。
唇がワナワナと震えた。
「アバズレ……」
あまりにも小さな呟きを聞き返すと強く腕を掴まれ、しかめられた口元が汚らしく歪んだ。
「この、淫乱!」
「は?!」
ぶつけられた言葉の意味が分からない。
なぜいきなりそんな失礼な言葉を叫ばれるのか。
思わずムッとする蜜に吉崎は口汚く罵った。
「君がこんな真昼間から男とホテルにはいる人だとは思わなかったよ」
「ホテル?! 何を言って……」
蜜の背中を指さした。三田とじゃれていたことかと思ったけどそうではなかった。
ちょうど二人がくっついていた場所がいかがわしいホテルの前だったのだ。
こんなところにホテルがあるなんて知らなかった。
確かに大きな通りから一本入っているし、カラオケや飲み屋の類がいりこんでいた場所だったからこっそり仲間入りしていてもおかしくないのだろう。
それに綺麗な建物だったから全く気がつかなかった。
「や、それは誤解です。違います!」
「は、どうりで他の教師も君にメロメロだもんな。他の男も咥えこんでいるのか」
「ちょっと先輩」
いくらなんでも言いすぎだ。
蜜の事だけじゃなく、ほかの教師と言うことはきっと周防も含まれている。
「ホテルになんて入っていません。誤解です」
「ふん、何とでもいえるよね」
普段の大人しさもかけらも見当たらない吉崎の歪んだ表情に蜜は諦めたように息を吐いた。
「先輩、言っていいことと悪いことがありますよ」
「蜜……?」
心配した三田が話しかけてきたタイミングで吉崎はクルリと方向を変え、そのまま逃げるように姿を消してしまった。
多分誤解したままだろう。
「なにあの人……なんか険悪だった……?」
「学校の先輩。っていうか場所が悪かったね。後ろホテルだった」
三田は振りかえり「休憩」と書かれた文字に「おおっ」とのけぞった。
「まじだ。入り損ねた」
「ばか」
緊張感のないセリフに思わず笑ってしまった。
思い切りはたくと「いて」と大して痛くもないくせにうめき声をあげた。
ふ、と変な力が抜けた。
誤解するなら勝手にすればいい。
本当の事なんか聞こうともしなかったんだから。
だけど、変なことにならなきゃいいと思った不安は最悪な形で具現化する。
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