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第二章 Lion Heart
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イルカショーの案内がかかると愛衣は一番前で見たいと言い張った。
「でもすっごく水がかかるよ。濡れちゃうけどいいのか?」
「いいの。いるかちゃんをちかくでみたいの」
「ぼくも見たいです!」
駄々をこねる愛衣に三和まで同調し、蜜までが乗り気になった。ワクワクした瞳でみつめられると断れない。
こういうのを楽しめるのは若さの特権なのか。周防にしてみれば後ろにいたほうがよく見えるし安全だと思うのだけど。
仕方ない。
濡れるのを覚悟で一番前に陣取った。ポンチョを手に入れて準備は万端だ。
「でも危ないから抱っこな」
ふたりともまだ小さくて水の勢いでひっくり返りそうで危ない。それぞれが膝の上に抱っこする形になった。
蜜と隣同士でピタリとくっつき合った。
ポンチョに隠れているのと子供を抱っこしているどさくさに紛れて手を繋いだ。
指先に触れると驚いたようにひっこめて、伺うように周防を横目で見る。「ヤダ?」と小声で聞くと恥ずかしがりながらも指を絡めてきた。
周りから見えていないか不安そうに見渡すから、安心させるように強く力を入れた。
「誰も見てないよ」
囁くと、ちいさく頷く。ささやかなデートの時間だ。
ショーが始まっていないというのに、愛衣も三和も興奮して大きな水槽の中を凝視する。足をばたつかせ今か今かとイルカの登場を待ちわびている。
「いるかちゃんは?」
「いま準備してるからすぐ来るよ」
突然音楽の音量が高くなり、マイクをつけたお姉さんがハイテンションであいさつに現れた。
「みんな元気―?」というお決まりのセリフに「げんきー!」とノリノリで応えている。身を乗り出して今にも膝から転げ落ちそうな二人を抱き留めながら、手はずっと離さないでいた。
大きなイルカはスイスイと水の中を泳ぎはじめた。
ぎゅうんとジャンプをしたかと思えば輪をくぐり、激しくダイブするたびバシャーンと水が飛びはねた。
頭から大波をかけられて全身がびしょびしょだ。
「きゃー」っとひと際高く声をあげたのは三和だった。
普段大人しいのがウソのようにジタバタと暴れ、まるでイルカに乗っているかのように身を跳ねらせた。目は真剣そのもの。
「三和楽しそう」
蜜が嬉しそうに呟いた。
「いつも大人しくてそういうタイプなのかと思ってました。こんなに激しい三和、はじめて見た……」
「そっか」
確かに最初に会った時も志穂さんに抱っこされてじっとしていた。声を聴くこともなかったかもしれない。
「よかったな」
「はい。この姿を動画に収めたいけどカメラがダメになりそうだし。ぼくだけの思い出にします」
蜜はイルカより三和をじっとみつめ、彼がはしゃぐ姿を優しく見守っている。普段見ることのないお兄ちゃんの姿だった。
蜜が幸せそうにしてくるならなんでもしてあげたいなと思った。
こんな風に穏やかに心安くいてくれるなら。周防のできることなら何でもしてあげたい。
ポンチョの意味がないくらい全身びしょぬれになったショーは盛り上がりおしまれつつ終わってしまった。
「いるかちゃんばいばいー」
手を振って別れを告げると誰もいなくなった水槽がちゃぷちゃぷと余韻を残して揺れている。三和はショーが気に入ったのか、最後まではなれようとしなかった。
「いるかちゃんもご飯の時間だって。君たちもおなかがすいただろ?」
「すいたーおべんとうたべたい!」
「よし。じゃあシートを敷いて芝生の上で食べよう!」
周防の提案にみんなが「さんせーい」と手をあげた。
みんなで準備をしてお弁当を広げると、わあっと歓声が上がる。
「ママのおべんとうだ! おいしそう~」
ニコニコとした顔の形のおにぎりやたこさんウィンナー、チューリップ型に開いた唐揚げなどぎゅうぎゅうにつめられている。
朝早くから作ってくれたのだ。
「ほんとに美味しそう。こんなお弁当を食べるの初めてです」
「蜜のお弁当はシンプルっていうか豪快だもんなあ」
ラインチタイムにのぞいたお弁当は各家庭のカラーがよくわかった。作られたものは製作者をよく表していることが多い。
蜜の弁当はどーんと迫力のあるのり弁だったり、いさぎよい日の丸弁当だったりした。もちろんおかずもモリモリに詰め込まれている。
つまんでみたらめちゃくちゃ美味しくて驚いたんだった。
「みわちゃんもたくさんたべてね」
愛衣は世話を焼くのが楽しいらしく三和のお皿にチマチマとおかずを取り分けてあげている。
「ありがとう愛衣ちゃん。優しいね」
蜜に褒められてまんざらでもなさそうにあごをあげ、得意げな顔をしている。
4人で囲んだお弁当はとても美味しかった。
いつも以上に旺盛な食欲で愛衣も三和もよく食べた。お腹がいっぱいになったら眠たくなったらしくウトウトとし始めている。
「でもすっごく水がかかるよ。濡れちゃうけどいいのか?」
「いいの。いるかちゃんをちかくでみたいの」
「ぼくも見たいです!」
駄々をこねる愛衣に三和まで同調し、蜜までが乗り気になった。ワクワクした瞳でみつめられると断れない。
こういうのを楽しめるのは若さの特権なのか。周防にしてみれば後ろにいたほうがよく見えるし安全だと思うのだけど。
仕方ない。
濡れるのを覚悟で一番前に陣取った。ポンチョを手に入れて準備は万端だ。
「でも危ないから抱っこな」
ふたりともまだ小さくて水の勢いでひっくり返りそうで危ない。それぞれが膝の上に抱っこする形になった。
蜜と隣同士でピタリとくっつき合った。
ポンチョに隠れているのと子供を抱っこしているどさくさに紛れて手を繋いだ。
指先に触れると驚いたようにひっこめて、伺うように周防を横目で見る。「ヤダ?」と小声で聞くと恥ずかしがりながらも指を絡めてきた。
周りから見えていないか不安そうに見渡すから、安心させるように強く力を入れた。
「誰も見てないよ」
囁くと、ちいさく頷く。ささやかなデートの時間だ。
ショーが始まっていないというのに、愛衣も三和も興奮して大きな水槽の中を凝視する。足をばたつかせ今か今かとイルカの登場を待ちわびている。
「いるかちゃんは?」
「いま準備してるからすぐ来るよ」
突然音楽の音量が高くなり、マイクをつけたお姉さんがハイテンションであいさつに現れた。
「みんな元気―?」というお決まりのセリフに「げんきー!」とノリノリで応えている。身を乗り出して今にも膝から転げ落ちそうな二人を抱き留めながら、手はずっと離さないでいた。
大きなイルカはスイスイと水の中を泳ぎはじめた。
ぎゅうんとジャンプをしたかと思えば輪をくぐり、激しくダイブするたびバシャーンと水が飛びはねた。
頭から大波をかけられて全身がびしょびしょだ。
「きゃー」っとひと際高く声をあげたのは三和だった。
普段大人しいのがウソのようにジタバタと暴れ、まるでイルカに乗っているかのように身を跳ねらせた。目は真剣そのもの。
「三和楽しそう」
蜜が嬉しそうに呟いた。
「いつも大人しくてそういうタイプなのかと思ってました。こんなに激しい三和、はじめて見た……」
「そっか」
確かに最初に会った時も志穂さんに抱っこされてじっとしていた。声を聴くこともなかったかもしれない。
「よかったな」
「はい。この姿を動画に収めたいけどカメラがダメになりそうだし。ぼくだけの思い出にします」
蜜はイルカより三和をじっとみつめ、彼がはしゃぐ姿を優しく見守っている。普段見ることのないお兄ちゃんの姿だった。
蜜が幸せそうにしてくるならなんでもしてあげたいなと思った。
こんな風に穏やかに心安くいてくれるなら。周防のできることなら何でもしてあげたい。
ポンチョの意味がないくらい全身びしょぬれになったショーは盛り上がりおしまれつつ終わってしまった。
「いるかちゃんばいばいー」
手を振って別れを告げると誰もいなくなった水槽がちゃぷちゃぷと余韻を残して揺れている。三和はショーが気に入ったのか、最後まではなれようとしなかった。
「いるかちゃんもご飯の時間だって。君たちもおなかがすいただろ?」
「すいたーおべんとうたべたい!」
「よし。じゃあシートを敷いて芝生の上で食べよう!」
周防の提案にみんなが「さんせーい」と手をあげた。
みんなで準備をしてお弁当を広げると、わあっと歓声が上がる。
「ママのおべんとうだ! おいしそう~」
ニコニコとした顔の形のおにぎりやたこさんウィンナー、チューリップ型に開いた唐揚げなどぎゅうぎゅうにつめられている。
朝早くから作ってくれたのだ。
「ほんとに美味しそう。こんなお弁当を食べるの初めてです」
「蜜のお弁当はシンプルっていうか豪快だもんなあ」
ラインチタイムにのぞいたお弁当は各家庭のカラーがよくわかった。作られたものは製作者をよく表していることが多い。
蜜の弁当はどーんと迫力のあるのり弁だったり、いさぎよい日の丸弁当だったりした。もちろんおかずもモリモリに詰め込まれている。
つまんでみたらめちゃくちゃ美味しくて驚いたんだった。
「みわちゃんもたくさんたべてね」
愛衣は世話を焼くのが楽しいらしく三和のお皿にチマチマとおかずを取り分けてあげている。
「ありがとう愛衣ちゃん。優しいね」
蜜に褒められてまんざらでもなさそうにあごをあげ、得意げな顔をしている。
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