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第二章 Lion Heart
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周防が誘われている母校の名前を出すと裕二は驚いた声をあげた。
「知ってる! スポーツをやってる奴なら一度は憧れる学校だよな」
「有名なの?」
蜜に縁がなかっただけで、どのスポーツも全国に名を連ね勉強もできる文武両道の学校らしかった。
「そこがどうかしたの? もしかして蜜……」
編入を希望するのかと訝しがる視線に慌てて手を振った。
「まさか!」
「だよな。今更っていうか、蜜に何の関係があるんだっていうか」
失礼な言いぐさである。
蜜にだってもしかしたら隠された才能があるかもしれないじゃないか。見当たらないけど。
「周防先生の出身校で、そこにちょっと、って話があるみたいで……まだわかんないけど」
「え、あの人あそこの出身なの? ヤバイ、今日からレオくんを見る目が変わる」
裕二が興奮したように瞳を輝かせた。
「とにかくハンパな奴じゃいけない学校だから。マジで尊敬する」
「そうなんだ」
そんなに有名な学校だったのか。
付き合っているくせに何も知らないままだった。子供だから話してくれないのか、蜜に話す必要はないと思っているのか。
いや。一緒にいるだけで夢中になってしまう蜜が何も聞かないからだ。
「じゃあレオくんもなんかやってたんだ?」
「アメフトだって」
「あーわかる。っぽいよな」
裕二はサクサクとスマホをいじると過去の記事を探して「うわマジだ」と呟いた。
「けっこうすごい選手だったんだ」
三人で小さな画面をのぞき込むと、今よりたいぶ若い周防が真剣な表情でこちらをみている写真があった。
ちょうど今の蜜と同じ年頃なのに大人びていて体もでかい。
全国大会で優勝とかMVPだとか華々しい記事がたくさん見つかった。それのどれもが周防を注目選手として扱っている。
「こんなにすごい人がなんで教師? しかもうち全然スポーツに強くないし、しかも体育教師じゃないって意味わかんなくない?」
その答えはすぐに見つかった。
小石川から聞いたとおりだった。
相手チームの反則により大けがをして激しいスポーツはできなくなったと。選手生命を絶たれた後の記事はどこにもない。
昔途絶えた夢をもう一度見たいと今の周防は願っているのか。
「こんなすごい人だったんだ」
ポツリと呟きが漏れた。
蜜の知ってる周防は、穏やかで甘いものが好きで優しくて日向みたいなひとだった。
でも周防の才能を求めている場所があって、周防もそれに応えたいと思っている。その足を引っ張ろうとしているのが蜜なのだ。
「無理じゃん。行かないでなんていえないよ」
「蜜……」
太一が労わるように肩を抱いてくれた。
優しい声でそっと囁く。
「でもさ。今のレオくんは蜜が好きだって言ってるわけでしょ。あんなに隠し切れない人がさ、蜜を諦めるとは思えないけど。別れたいって言われたの?」
首を振る。
周防はそれでも一緒にいたいと言ってくれている。
「だったらさ、それを信じてあげたら? 俺から見たらレオくんが蜜を捨てることは絶対ないと思うけど。まあ距離がね、離れちゃうけど絶対にいけない場所でもないし……連れてってもらえばいいじゃん。ジャパンに」
「でも、」
離れたら忘れられるんじゃないかと怖い。
引き留め続ける自信がない。
すごい人たちに囲まれて刺激的な日々を送れば蜜のことをつまらない人間だと思う日が来る。なんでこんな子供と付き合ったのかと。
「そん時はそん時だよ。一緒にいたって別れるときは別れるしな。でもマジでそれはないと思うよ。あの人蜜を見るとまるで忠犬みたいにしっぽ振っててさ、おっかしーの。思ってる以上に愛されてるから自信を持てって」
「……そうかな」
「そうだって。保証する。それにあの学校からのオファーってすごい話だよ。選手冥利に尽きる。行かせてあげなきゃ後悔する。おれたちも応援するからさ、がんばれ」
二人に慰められて蜜は何度もうなずいた。
自分の子供じみた考えで周防の未来をつぶしたくない。
別れたいなんて言われていない。
これからも一緒にいたいから、考えようって言ってくれた言葉を信じたい。
それには蜜ももっと大人にならなきゃ。
離れていても好きでいてもらえるように。つまらない男にならないように。ひねくれて拗ねている場合じゃないのだ。
「ありがと」
ようやく吹っ切ることができた。
口元を上げると太一も裕二もホッとしたように笑った。
「蜜を振るバカはいないと思うぜ」
「そんなことしたらおれたちが許さないから安心しろ」
「うん、じゃあ大丈夫だね」
押された背中で一歩を踏み出したい。蜜は心を決めた。
「知ってる! スポーツをやってる奴なら一度は憧れる学校だよな」
「有名なの?」
蜜に縁がなかっただけで、どのスポーツも全国に名を連ね勉強もできる文武両道の学校らしかった。
「そこがどうかしたの? もしかして蜜……」
編入を希望するのかと訝しがる視線に慌てて手を振った。
「まさか!」
「だよな。今更っていうか、蜜に何の関係があるんだっていうか」
失礼な言いぐさである。
蜜にだってもしかしたら隠された才能があるかもしれないじゃないか。見当たらないけど。
「周防先生の出身校で、そこにちょっと、って話があるみたいで……まだわかんないけど」
「え、あの人あそこの出身なの? ヤバイ、今日からレオくんを見る目が変わる」
裕二が興奮したように瞳を輝かせた。
「とにかくハンパな奴じゃいけない学校だから。マジで尊敬する」
「そうなんだ」
そんなに有名な学校だったのか。
付き合っているくせに何も知らないままだった。子供だから話してくれないのか、蜜に話す必要はないと思っているのか。
いや。一緒にいるだけで夢中になってしまう蜜が何も聞かないからだ。
「じゃあレオくんもなんかやってたんだ?」
「アメフトだって」
「あーわかる。っぽいよな」
裕二はサクサクとスマホをいじると過去の記事を探して「うわマジだ」と呟いた。
「けっこうすごい選手だったんだ」
三人で小さな画面をのぞき込むと、今よりたいぶ若い周防が真剣な表情でこちらをみている写真があった。
ちょうど今の蜜と同じ年頃なのに大人びていて体もでかい。
全国大会で優勝とかMVPだとか華々しい記事がたくさん見つかった。それのどれもが周防を注目選手として扱っている。
「こんなにすごい人がなんで教師? しかもうち全然スポーツに強くないし、しかも体育教師じゃないって意味わかんなくない?」
その答えはすぐに見つかった。
小石川から聞いたとおりだった。
相手チームの反則により大けがをして激しいスポーツはできなくなったと。選手生命を絶たれた後の記事はどこにもない。
昔途絶えた夢をもう一度見たいと今の周防は願っているのか。
「こんなすごい人だったんだ」
ポツリと呟きが漏れた。
蜜の知ってる周防は、穏やかで甘いものが好きで優しくて日向みたいなひとだった。
でも周防の才能を求めている場所があって、周防もそれに応えたいと思っている。その足を引っ張ろうとしているのが蜜なのだ。
「無理じゃん。行かないでなんていえないよ」
「蜜……」
太一が労わるように肩を抱いてくれた。
優しい声でそっと囁く。
「でもさ。今のレオくんは蜜が好きだって言ってるわけでしょ。あんなに隠し切れない人がさ、蜜を諦めるとは思えないけど。別れたいって言われたの?」
首を振る。
周防はそれでも一緒にいたいと言ってくれている。
「だったらさ、それを信じてあげたら? 俺から見たらレオくんが蜜を捨てることは絶対ないと思うけど。まあ距離がね、離れちゃうけど絶対にいけない場所でもないし……連れてってもらえばいいじゃん。ジャパンに」
「でも、」
離れたら忘れられるんじゃないかと怖い。
引き留め続ける自信がない。
すごい人たちに囲まれて刺激的な日々を送れば蜜のことをつまらない人間だと思う日が来る。なんでこんな子供と付き合ったのかと。
「そん時はそん時だよ。一緒にいたって別れるときは別れるしな。でもマジでそれはないと思うよ。あの人蜜を見るとまるで忠犬みたいにしっぽ振っててさ、おっかしーの。思ってる以上に愛されてるから自信を持てって」
「……そうかな」
「そうだって。保証する。それにあの学校からのオファーってすごい話だよ。選手冥利に尽きる。行かせてあげなきゃ後悔する。おれたちも応援するからさ、がんばれ」
二人に慰められて蜜は何度もうなずいた。
自分の子供じみた考えで周防の未来をつぶしたくない。
別れたいなんて言われていない。
これからも一緒にいたいから、考えようって言ってくれた言葉を信じたい。
それには蜜ももっと大人にならなきゃ。
離れていても好きでいてもらえるように。つまらない男にならないように。ひねくれて拗ねている場合じゃないのだ。
「ありがと」
ようやく吹っ切ることができた。
口元を上げると太一も裕二もホッとしたように笑った。
「蜜を振るバカはいないと思うぜ」
「そんなことしたらおれたちが許さないから安心しろ」
「うん、じゃあ大丈夫だね」
押された背中で一歩を踏み出したい。蜜は心を決めた。
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