滅びの国のアリス

√月

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ocean

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アリスを探しはじめた私『有清』と、
元ウサギのラビ。私達は、出会った場所から30分程歩いて、oceanという町へ辿り着いた。

「ここは、他のワンダーランドとの貿易港なんだ。情報収集なら、きっとここが一番早いと思う。」


oceanという名は、そもそもこのワンダーランドの名前らしく、私達がいる町は、いわゆる、首都らしい。風景は私が見た事のないもので、ふと、昔の漁港、酒場を連想させた。

「やぁ、嬢ちゃん!」

突然肩を掴まれ振り返ると、無精ひげの目立つ大柄な男が立っていた。顔は笑顔だったので、印象はそこまで悪くない。

「どうも…私は…ちょっと旅してる者なんですけど…」

知らない人に名前を言ってはいけない、それは、昔からの母の教えだった。
でも、彼は名前を聞きたかったんじゃないらしい。

「ちょっと近くでパーティーをするんだが、バイトの人手が足りなくてな。良かったら、嬢ちゃんうちで2時間だけ働かんか?顔立ちが良いからお客さんは大喜びだよ!」

正直、俗に言うナンパやスカウトかと思い、かなり戸惑った。知らない人について行くなって言われてるし、パーティーってなんの…?

「ねぇ、ラビ…どうしたら…?」

ラビに助けを求めようと声をかける、が、彼は呑気そうに市場を見て回っていた。
私はラビを捕まえて、もう一度助けを求めた。
「えぇ…?別に良いんじゃない?あのおじさん、パーティーの主催者として有名だし、彼のとこには色んな人が集まるから情報収集には打ってつけだよ。俺は街を見て回るから有清は情報収集と、ついでにお金稼いでおいで。言っとくけど、俺はあんまりお金は出さないからね。」

そう言って、ラビは一目散に私の手から逃げていった。なんて素っ気ない奴だろう。さっき申し訳なく思ったわたしが馬鹿だったかしら。

「よし、そうと決まれば行くぞ!えーっと…」

今度は名乗っていいときだ!!

「あ、ありすです。有に清いって書いて有清…」

大男は首を傾げた。

「有りに清い…?ごめんな嬢ちゃん。異国の文字の使い方はわからねぇんだ。」

どうやら漢字は異国の文字らしい。言葉は通じるのに、書き方は違うのか…なんだか変な感じ。ってことは私、文字は書けないのね…


とりあえず、大男は名前さえ分かれば良かったらしく、すぐさま私を店に連れて行き、メイド服に着替えさせられた。

メイド服なんて着なれないけど、思ったより私、似合うんじゃない?

「ファッションショーしてんじゃないんだが…よし、行くぞ。指導はあそこにいる猫目のカナエに聞きな。」

彼の指差す方向に居たのは、確かに猫目で、髪の毛は天然パーマの可愛らしい女性だった。

「君が今日手伝いの子?私はカナエ。とりあえずお客さんと話してたらいいんだが、分からない事があれば言ってきてくれ。」

カナエさんは見た目の割に男っぽい喋り方で、とても惹きつけられる人だった。

だが、のんびりしている間もなく、私のoceanでの初仕事が幕を開ける…
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