1 / 35
序章
久遠竜也
しおりを挟む
風になびくカーテンの隙間から差し込む眩い光が、僕を眠りから覚ました。
いつもは心臓にまで響く目覚まし時計に驚かされて起きる目覚めの悪い朝だが、久しぶりに静かな空間を暖かく包み込む日の光を浴びた僕の目覚めはとても良かった。
一人で寝るには無駄に広いベッドの上に胡坐をかき、散らかった布団を手に取り無造作に畳んだ。無駄に広いベッドなのは、それ自体が元々一人用に作られていない家具だからだった。僕の親は、僕に一緒に寝る相手がいないことを分かりながらもこのダブルベッドを選んだ。僕は買って貰う立場だったから何も口にはしなかったが、僕の予想どおりベッドを買ってから一度もそれが本来の目的を果たしたことはなかった。今となっては狭い部屋の一角を占めるだけの邪魔ものになっている。
しかも寝相が悪いがために、毎朝散らかる布団を畳まなければいけなかった。そこに僕の綺麗好きな性格が混ざり、それを畳むのに十分以上もかけてしまっていた。僕はいつも布団を畳み終えると駆け足で階段を下りる。僕の場合は、起きるのが遅いという典型的な理由の急ぎではなく、かなりその枠から外れた遅刻ギリギリの理由がある。そう、それは何故か毎朝二人分の布団を畳まないといけないからである。
ただ、今日はいつもと違って、台所に顔を出した時に母がちょうど朝ご飯の支度を終えたところだった。
「あら、今日は珍しく早いわね」
僕と話しながらも、母は手を止めることなくテーブルの上に朝食を並べ始めていた。
ご飯に味噌汁、そして焼き鮭、もはや定番ともいえる朝ご飯だった。母が朝食を並べている間に、僕はコップにお茶を注ぎ、二人分の箸を持って料理が置かれた前の席に座った。
「昨日の寝相が良かったのかな。布団畳むのが楽だったんだ」
「いつもそうならいいのにね。だって竜也も大変だよね。毎日同じことの繰り返しで、どうしたら寝相が良くなるのかしら。知りたいものね」
母は僕の向かいに座り、一緒に朝ご飯を食べた。
いつもは遅刻ギリギリのためパンを流し込むように食べて、すぐに身支度を済ませて母に「行ってきます」とだけ言って、返事を聞く前にすでに足が学校に向かっている。
朝ご飯を食べている間に母と会話を交わすことはなく、僕は真向かいにあるテレビを眺めていた。
僕の家ではテーブルがリビングの中央ではなく、壁の角に沿うように置かれている。壁とテーブルに囲まれた場所に僕はいつも座る。親にはそこは窮屈だとよく言われるが、僕はその窮屈な空間でも悪くないと思っている。僕は束の間の朝ご飯の時間に、ニュースを見て学校に行くのが日常的になっていて、その席がそのテレビを見るのに最適な場所だったからだ。
今日も朝早くから生放送をしているニュースを見ていた。
ニュースでは毎朝のように今の政治のままでは駄目だと政治評論家が出演して語っているが、結局のところは政治評論家一人が何を言おうが政治を変えることはできない。それを知りながらもテレビに出てまで語る評論家の考えることは僕には到底理解できない。
しかし、ニュースを見ている人の立場からすれば、この人たちの言っていることはあながち間違ってはいないのだと思う。しかし、実際のところ国会議員や総理大臣にはそれなりの考えがあって政治を行っているのだから、評論家が一人ニュースに出て語っているようじゃ話にならない。
僕自身、政治のことは良く分からないが先の人たちは頑張ってくれていると思う。ただもう少し国民の意見を取り入れ参考にすればいいのではないかと思うときもある。
ニュースも毎日放送されるが犯罪を報道しない日はない。平和になりつつある日本でも未だに犯罪は減らない。誰もがいつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない日々を過ごしているのだ。
そんなことを考えていると朝ご飯を食べ終わっていた。母は僕から少し経って食べ終わった。
母は自分が食べ終わると僕がすでに食べ終わっていることを確認し、自分と僕の分の食器をシンクに運び洗っていた。
僕は学校へ行く準備を始めた。顔を洗って、歯を磨いて、トイレを済ませて、そして制服に着替える。全ての準備を終えると玄関に行き靴を履く。
「いってきます」
そう母に学校へ行くことを伝えて家を出る。母はこの頃には既に食器洗いを終え、各部屋の掃除を始めている。
その掃除機はごみだけではなく僕の声までも吸い込んでいた。
いつもは心臓にまで響く目覚まし時計に驚かされて起きる目覚めの悪い朝だが、久しぶりに静かな空間を暖かく包み込む日の光を浴びた僕の目覚めはとても良かった。
一人で寝るには無駄に広いベッドの上に胡坐をかき、散らかった布団を手に取り無造作に畳んだ。無駄に広いベッドなのは、それ自体が元々一人用に作られていない家具だからだった。僕の親は、僕に一緒に寝る相手がいないことを分かりながらもこのダブルベッドを選んだ。僕は買って貰う立場だったから何も口にはしなかったが、僕の予想どおりベッドを買ってから一度もそれが本来の目的を果たしたことはなかった。今となっては狭い部屋の一角を占めるだけの邪魔ものになっている。
しかも寝相が悪いがために、毎朝散らかる布団を畳まなければいけなかった。そこに僕の綺麗好きな性格が混ざり、それを畳むのに十分以上もかけてしまっていた。僕はいつも布団を畳み終えると駆け足で階段を下りる。僕の場合は、起きるのが遅いという典型的な理由の急ぎではなく、かなりその枠から外れた遅刻ギリギリの理由がある。そう、それは何故か毎朝二人分の布団を畳まないといけないからである。
ただ、今日はいつもと違って、台所に顔を出した時に母がちょうど朝ご飯の支度を終えたところだった。
「あら、今日は珍しく早いわね」
僕と話しながらも、母は手を止めることなくテーブルの上に朝食を並べ始めていた。
ご飯に味噌汁、そして焼き鮭、もはや定番ともいえる朝ご飯だった。母が朝食を並べている間に、僕はコップにお茶を注ぎ、二人分の箸を持って料理が置かれた前の席に座った。
「昨日の寝相が良かったのかな。布団畳むのが楽だったんだ」
「いつもそうならいいのにね。だって竜也も大変だよね。毎日同じことの繰り返しで、どうしたら寝相が良くなるのかしら。知りたいものね」
母は僕の向かいに座り、一緒に朝ご飯を食べた。
いつもは遅刻ギリギリのためパンを流し込むように食べて、すぐに身支度を済ませて母に「行ってきます」とだけ言って、返事を聞く前にすでに足が学校に向かっている。
朝ご飯を食べている間に母と会話を交わすことはなく、僕は真向かいにあるテレビを眺めていた。
僕の家ではテーブルがリビングの中央ではなく、壁の角に沿うように置かれている。壁とテーブルに囲まれた場所に僕はいつも座る。親にはそこは窮屈だとよく言われるが、僕はその窮屈な空間でも悪くないと思っている。僕は束の間の朝ご飯の時間に、ニュースを見て学校に行くのが日常的になっていて、その席がそのテレビを見るのに最適な場所だったからだ。
今日も朝早くから生放送をしているニュースを見ていた。
ニュースでは毎朝のように今の政治のままでは駄目だと政治評論家が出演して語っているが、結局のところは政治評論家一人が何を言おうが政治を変えることはできない。それを知りながらもテレビに出てまで語る評論家の考えることは僕には到底理解できない。
しかし、ニュースを見ている人の立場からすれば、この人たちの言っていることはあながち間違ってはいないのだと思う。しかし、実際のところ国会議員や総理大臣にはそれなりの考えがあって政治を行っているのだから、評論家が一人ニュースに出て語っているようじゃ話にならない。
僕自身、政治のことは良く分からないが先の人たちは頑張ってくれていると思う。ただもう少し国民の意見を取り入れ参考にすればいいのではないかと思うときもある。
ニュースも毎日放送されるが犯罪を報道しない日はない。平和になりつつある日本でも未だに犯罪は減らない。誰もがいつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない日々を過ごしているのだ。
そんなことを考えていると朝ご飯を食べ終わっていた。母は僕から少し経って食べ終わった。
母は自分が食べ終わると僕がすでに食べ終わっていることを確認し、自分と僕の分の食器をシンクに運び洗っていた。
僕は学校へ行く準備を始めた。顔を洗って、歯を磨いて、トイレを済ませて、そして制服に着替える。全ての準備を終えると玄関に行き靴を履く。
「いってきます」
そう母に学校へ行くことを伝えて家を出る。母はこの頃には既に食器洗いを終え、各部屋の掃除を始めている。
その掃除機はごみだけではなく僕の声までも吸い込んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
睿国怪奇伝〜オカルトマニアの皇妃様は怪異がお好き〜
猫とろ
キャラ文芸
大国。睿(えい)国。 先帝が急逝したため、二十五歳の若さで皇帝の玉座に座ることになった俊朗(ジュンラン)。
その妻も政略結婚で選ばれた幽麗(ユウリー)十八歳。 そんな二人は皇帝はリアリスト。皇妃はオカルトマニアだった。
まるで正反対の二人だが、お互いに政略結婚と割り切っている。
そんなとき、街にキョンシーが出たと言う噂が広がる。
「陛下キョンシーを捕まえたいです」
「幽麗。キョンシーの存在は俺は認めはしない」
幽麗の言葉を真っ向否定する俊朗帝。
だが、キョンシーだけではなく、街全体に何か怪しい怪異の噂が──。 俊朗帝と幽麗妃。二人は怪異を払う為に協力するが果たして……。
皇帝夫婦×中華ミステリーです!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる