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愛してるー第62話ー
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〈嶺〉
ふうっ!
大きく深呼吸する。
高校に初めて登校する時よりも緊張する。
一学期の期末考査が終わったその日、悪夢の時間から早、約2ヶ月だ。
今までの17年ちょっとの人生が、根底から入れ替わるような、濃い、物凄く長い2ヶ月だった。
僕は今日から半年、普通の高校生だ。
もうお客が来るから、って急いで帰ったり、人と極力関わらないように気を付けたりしなくていい。
前髪も思い切って、サイドで分けて顔が見えるようにした。
母さんが、体育祭も文化祭もスキー合宿も参加していい、って!
ビックリだ。
そんなことにビックリする僕に、湊人くんがビックリしてたから、やっぱり僕は普通じゃなかったんだな、と再認識する。
そして母さんが理事長に、もう仕事は辞めさせたから、あなたもそのことは忘れてくだい、と無理を平気で言い、残り半年、嶺に普通の高校生活をさせたいので万事よろしく、と無邪気に都合の良すぎるお願いをした。
理事長もまた
「ああ、いいよ。麻里がそう言うなら」
と、そんな無茶を承諾し、それならば今日にでも進路指導を行うので、担任に嶺くんと面談するように指示する、ということだった。
今まで閉鎖された世界に閉じこもっていた僕は、戸惑いが大きく不安だけど、湊人くんもいてくれるし、真中くんに偶然出会った時も、全く動揺しなかったし、大丈夫だ。
階下のドアを開けて叫んでいるらしい湊人くんの元気な声が弾む。
「嶺!行くぞ!」
「はい!ちょっと待って!」
僕は慌ててトートバッグに必要な物を入れる。
部屋を出ようとして、空のゴミ箱を一瞬見つめる。
宝物を捨ててしまった日は、また取り出すのが怖くて、ゴミ箱を見ないようにしてた。
翌朝、ちょっと湊人くんと出かけて帰ってくると、母さんが片付けてくれたようで、ゴミ箱は空になっていた。
「ごめんね、待たせちゃって」
部屋を出て、階段を降りていった。
「嶺。おはよ!」
「おはよ。湊人くん」
湊人くんがこれ以上ないくらいの笑顔で立っている。
ダイニングから母さんも出て来た。
「湊人くん、おはよー。よろしくねぇ。ああ、私が緊張しちゃう!」
「何でママが緊張すんだよ」
湊人くんが笑う。
「わかんないー!」
母さんは、手を拱いたまま、かけっこの足踏みをした。
「時間、大丈夫?」
僕は心配になって聞く。
「あっ!やばい!行こ!!」
湊人くんが僕の手を引っ張って走り出す。
「じゃ、母さん、行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい!嶺、何か具合悪い、とかだったらすぐ帰ってくるのよっ?」
―全く、過保護だな、母さん。僕、高校男子だよ?
学校に近づいてくると、制服姿が増えてくる。
「おっはよ~、湊人!」
「おう!」
「はよ!」
「おう、はよ!」
湊人くんは人気者だから、次々声がかかる。
そして次に隣に目を移し、みんな一様に、え?って感じで僕を見て
「お、はよ・・」
みたいな戸惑いの挨拶をしてくる。
「あ・・」
と会釈だけを返し、俯く。
何か・・緊張してきた・・やだな・・スルーして、みんな。
「慎也!」
誰かの声に、ビクッとなる。
「おい、慎也!」
同じ声がした直後。
「はよ、湊人。桜井」
低い声。
ギュッとなる。
僕は北城くんを見ずにコクコクと頭を下げるだけの挨拶をする。
心臓がバックバック鳴るが、震えは来ない。大丈夫だ。
「湊人、はい」
「あ、サンキュ」
「桜井も」
差し出された物を条件反射で受け取る。
さっさと歩いていく、周りから抜け出している長身を見送り、渡された物を凝視する。
僕は手のひらに乗ったみるくいちごをスラックスのポケットに押し込み、布の上からそっと押さえる。
「何て言うか・・・」
みるくいちごを口にいれ、湊人くんがなんとも言えない顔をして僕を見る。
「もう、いいのに」
「嶺に、ごめん、って言いたいんだよ」
「謝ってもらわなくていい。僕の方がバカで悪いんだ」
「嶺、そんなことないよ。慎也は」
「湊人くん」
「は、はい?」
「聞かない。僕は二度と間違えない。バカな考えは持たない、って決めたんだ」
「解った。ごめんな。行こ」
「ううん。いつもありがと、湊人くん」
「バカ」
「うん」
〈慎也〉
だぁああっっ!!
緊張したっっ!!!
また痙攣したら?また倒れたら?いややっぱり声はかけない方が…
湊人の後をずっとつけて、朝イチからずっと嶺を見てたが、声をかけるタイミングも勇気もなく、帰りにしようか…と諦めかけた時、哲のアホがデカい声で俺を呼びやがった。
無視してんのに2回も!
当然嶺も気付いてビクッと肩が揺れ、湊人が振り返る。
行く!
もう考えず声をかけ、みるくいちごを渡してほぼ、逃げる。
何だ、あいつ!あの髪型!!サラッと必殺の斜め45度分けじゃねーか!!
しかも、かなり、かなり顔出てて、可愛い顔が丸見えっ!!
何がしてえんだ、嶺!
お前、襲われたいのか?!
連れ去られるじゃねーか!!
ああ、男が全員、痴漢に見えるぜーーーーー・・・・
みるくいちご、受け取ってくれたな。
俺が呼んでも痙攣おこさなかったな。
嶺、毎日、俺の気持ちをお前に届けることにしたんだ。
嫌がられても、捨てられても、俺は諦めねぇ。
嶺、受け取ってくれな?
お前を・・二度と、傷つけるようなことはしない。
だから頼む、嶺。
俺を怖がらないでくれ。
教室に入り、1番後ろの席にどっかり座る。
理系クラスで数少ない女子の一人、秀才の角田が寄ってくる。
「おはよう、北城」
「あ?なんだ?女王様」
「やあね、その呼び方。大丈夫?もう」
「何が」
「だって、夏休み。体育倉庫の前で」
「あ、ああ。てめ、いたのか」
「いたわよ。テニス部だもん。大型犬でも唸ってるのかと思ったらあなただった」
「うるせ、放っとけ」
角田はクスッと笑った。
「は、何だ。てめぇ、この・・」
「好きだー好きだー、って言ってたから、ヒドく苦しい恋してるのね、って何か」
「うるせぇよ、失せろ」
「何か、今まで嫌いだったあなたに好感持ったわ」
「は、そりゃどーも」
「でも、誰なんだろう・・北城をこんなにしてしまえる女って・・年上?先生・・??とか考えたりして」
「もう、行けよブス」
「はいはい。きっと綺麗な人なんでしょうね、北城を振った人」
「・・・・ああ、最高の美人だ」
眉をシュッと上げ、大袈裟に溜息をついて角田が席に戻った。
―女だと?バカが!嶺より綺麗で可愛い女なんざ、いねぇってんだよ!あの女、案外バカだな。
この学校は、始業式がない。
校長の話しがスピーカーから5分程度流れてきて、あとは普通に授業だ。
「は~、だり~。早く終わんねぇかな・・」
今日の授業は午前で終了だ。
終わったら部室行って、尚輝になんか買ってきてもらって食お。
授業終わりのチャイムが鳴り、大きな伸びをしていると
「北城!」
担任に呼ばれる。
「なんだ?」
席から大声で聞く。
「お前、明日追試な」
「え、何でいきなり明日なんだよ」
「お母さんから、追試受けられんかった事情は聞いてるから、特別に再追試するんだ。文句言うな!」
「チッ、わぁったよ!」
慎也の席まで来た担任の吉田は
「で、お前、足大丈夫なのか?」
「ああ、もう何ともねぇ。抜糸もすんだしな」
「うん。ならいい。言いたくないならいいが、何かあったら言え?卒業できなかったら面倒くせぇぞ~」
「え、それは嫌だな」
「だろ?お前、就職、ったって、出席日数ギリギリだし、成績悪すぎ。卒業ヤバイぞ?追試で何とかしろよ?」
「そうなのか?解ったよ」
―卒業は嶺と一緒にしなきゃな。嶺のいない学校なんてクソだぜ。
考えながら教室を出る。
階段を降りていくと、男子トイレから嶺と湊人が出て来たのが見えた。
―連れションかよ・・湊人、ベッタリだな・・まあ、変な虫がつくよりゃいいか・・しかし・・何でああ可愛いんだ?嶺は。
「よっ!」
部室にはすでに尚輝と真中が弁当を買って待っていた。
「おめ、先行ってんじゃねーよ、薄情な奴だな」
尚輝をひと睨みする。
「いや、だって慎也、吉田に呼ばれて話してたから、チキン南蛮なくなったら嫌だから先行ってきたんだよ。ほら、慎也はこれ、焼肉な」
「おお、そうか、サンキュ。で、何で真中がいるんだ?」
尚輝に弁当の代金を渡しながら聞く。
「まあそう言うな。ダチだろ?」
「やめろ、バカ。予備校行っとけ」
「へ~、この中でただ一人、桜井と同じクラスの俺の報告聞かなくていい、ってんなら帰るわ!お先・・」
「嘘!嘘!真中くん!大好きだよ~、知ってるだろ?お前の声が好きなんだよ~。聞かせて?」
「歌か?」
「・・てめぇ・・」
「解った!解ったから・・いやさ、桜井、髪型変えて来てたんだけど」
「知ってる!!ヤバかった」
「だろ?もう女子がイケメン、イケメンって大騒ぎだよ。桜井って、みんな殆ど顔も見たことなかったから、転入生キターッ!くらいの勢いで、休み時間の度に女子に取り囲まれて、ライン繋げられてモミクチャだったぞ」
「んだとぉ?こら、てめぇ!それ指咥えて見てたのか?!あ?湊人は何してたんだ、湊人は?!」
「だろ~、イケメンだろ~!とかって、ニコニコ自分のモンみたいに自慢してた」
「あんのやろうーーー・・ぅぅ・・・」
「俺なんかさ…」
真中の声色が変わる。
「さっき、教室出ようとしてる桜井に声かけたら、何か用?って冷たいのなんの!心折れたわ、俺」
真中には申し訳ないが、ここにも一人、と少し救われる・・・
そして
「おい、真中。明日俺追試なんだ。お前、今日予備校サボって、俺に勉強教えろ」
と家に連行した。
そして、翌日、そのまた翌日も、俺は嶺を待ち伏せて、自然に見えるようにみるくいちごを渡し続けた。
湊人には
「お前、イタイ」
って言われたけど、かまうもんか!
あれは俺の嶺へのメッセージなんだ!
「俺を信じてくれ」
っていうメッセージなんだ。
嶺・・
いつか、返事を返してくれるか?
ふうっ!
大きく深呼吸する。
高校に初めて登校する時よりも緊張する。
一学期の期末考査が終わったその日、悪夢の時間から早、約2ヶ月だ。
今までの17年ちょっとの人生が、根底から入れ替わるような、濃い、物凄く長い2ヶ月だった。
僕は今日から半年、普通の高校生だ。
もうお客が来るから、って急いで帰ったり、人と極力関わらないように気を付けたりしなくていい。
前髪も思い切って、サイドで分けて顔が見えるようにした。
母さんが、体育祭も文化祭もスキー合宿も参加していい、って!
ビックリだ。
そんなことにビックリする僕に、湊人くんがビックリしてたから、やっぱり僕は普通じゃなかったんだな、と再認識する。
そして母さんが理事長に、もう仕事は辞めさせたから、あなたもそのことは忘れてくだい、と無理を平気で言い、残り半年、嶺に普通の高校生活をさせたいので万事よろしく、と無邪気に都合の良すぎるお願いをした。
理事長もまた
「ああ、いいよ。麻里がそう言うなら」
と、そんな無茶を承諾し、それならば今日にでも進路指導を行うので、担任に嶺くんと面談するように指示する、ということだった。
今まで閉鎖された世界に閉じこもっていた僕は、戸惑いが大きく不安だけど、湊人くんもいてくれるし、真中くんに偶然出会った時も、全く動揺しなかったし、大丈夫だ。
階下のドアを開けて叫んでいるらしい湊人くんの元気な声が弾む。
「嶺!行くぞ!」
「はい!ちょっと待って!」
僕は慌ててトートバッグに必要な物を入れる。
部屋を出ようとして、空のゴミ箱を一瞬見つめる。
宝物を捨ててしまった日は、また取り出すのが怖くて、ゴミ箱を見ないようにしてた。
翌朝、ちょっと湊人くんと出かけて帰ってくると、母さんが片付けてくれたようで、ゴミ箱は空になっていた。
「ごめんね、待たせちゃって」
部屋を出て、階段を降りていった。
「嶺。おはよ!」
「おはよ。湊人くん」
湊人くんがこれ以上ないくらいの笑顔で立っている。
ダイニングから母さんも出て来た。
「湊人くん、おはよー。よろしくねぇ。ああ、私が緊張しちゃう!」
「何でママが緊張すんだよ」
湊人くんが笑う。
「わかんないー!」
母さんは、手を拱いたまま、かけっこの足踏みをした。
「時間、大丈夫?」
僕は心配になって聞く。
「あっ!やばい!行こ!!」
湊人くんが僕の手を引っ張って走り出す。
「じゃ、母さん、行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい!嶺、何か具合悪い、とかだったらすぐ帰ってくるのよっ?」
―全く、過保護だな、母さん。僕、高校男子だよ?
学校に近づいてくると、制服姿が増えてくる。
「おっはよ~、湊人!」
「おう!」
「はよ!」
「おう、はよ!」
湊人くんは人気者だから、次々声がかかる。
そして次に隣に目を移し、みんな一様に、え?って感じで僕を見て
「お、はよ・・」
みたいな戸惑いの挨拶をしてくる。
「あ・・」
と会釈だけを返し、俯く。
何か・・緊張してきた・・やだな・・スルーして、みんな。
「慎也!」
誰かの声に、ビクッとなる。
「おい、慎也!」
同じ声がした直後。
「はよ、湊人。桜井」
低い声。
ギュッとなる。
僕は北城くんを見ずにコクコクと頭を下げるだけの挨拶をする。
心臓がバックバック鳴るが、震えは来ない。大丈夫だ。
「湊人、はい」
「あ、サンキュ」
「桜井も」
差し出された物を条件反射で受け取る。
さっさと歩いていく、周りから抜け出している長身を見送り、渡された物を凝視する。
僕は手のひらに乗ったみるくいちごをスラックスのポケットに押し込み、布の上からそっと押さえる。
「何て言うか・・・」
みるくいちごを口にいれ、湊人くんがなんとも言えない顔をして僕を見る。
「もう、いいのに」
「嶺に、ごめん、って言いたいんだよ」
「謝ってもらわなくていい。僕の方がバカで悪いんだ」
「嶺、そんなことないよ。慎也は」
「湊人くん」
「は、はい?」
「聞かない。僕は二度と間違えない。バカな考えは持たない、って決めたんだ」
「解った。ごめんな。行こ」
「ううん。いつもありがと、湊人くん」
「バカ」
「うん」
〈慎也〉
だぁああっっ!!
緊張したっっ!!!
また痙攣したら?また倒れたら?いややっぱり声はかけない方が…
湊人の後をずっとつけて、朝イチからずっと嶺を見てたが、声をかけるタイミングも勇気もなく、帰りにしようか…と諦めかけた時、哲のアホがデカい声で俺を呼びやがった。
無視してんのに2回も!
当然嶺も気付いてビクッと肩が揺れ、湊人が振り返る。
行く!
もう考えず声をかけ、みるくいちごを渡してほぼ、逃げる。
何だ、あいつ!あの髪型!!サラッと必殺の斜め45度分けじゃねーか!!
しかも、かなり、かなり顔出てて、可愛い顔が丸見えっ!!
何がしてえんだ、嶺!
お前、襲われたいのか?!
連れ去られるじゃねーか!!
ああ、男が全員、痴漢に見えるぜーーーーー・・・・
みるくいちご、受け取ってくれたな。
俺が呼んでも痙攣おこさなかったな。
嶺、毎日、俺の気持ちをお前に届けることにしたんだ。
嫌がられても、捨てられても、俺は諦めねぇ。
嶺、受け取ってくれな?
お前を・・二度と、傷つけるようなことはしない。
だから頼む、嶺。
俺を怖がらないでくれ。
教室に入り、1番後ろの席にどっかり座る。
理系クラスで数少ない女子の一人、秀才の角田が寄ってくる。
「おはよう、北城」
「あ?なんだ?女王様」
「やあね、その呼び方。大丈夫?もう」
「何が」
「だって、夏休み。体育倉庫の前で」
「あ、ああ。てめ、いたのか」
「いたわよ。テニス部だもん。大型犬でも唸ってるのかと思ったらあなただった」
「うるせ、放っとけ」
角田はクスッと笑った。
「は、何だ。てめぇ、この・・」
「好きだー好きだー、って言ってたから、ヒドく苦しい恋してるのね、って何か」
「うるせぇよ、失せろ」
「何か、今まで嫌いだったあなたに好感持ったわ」
「は、そりゃどーも」
「でも、誰なんだろう・・北城をこんなにしてしまえる女って・・年上?先生・・??とか考えたりして」
「もう、行けよブス」
「はいはい。きっと綺麗な人なんでしょうね、北城を振った人」
「・・・・ああ、最高の美人だ」
眉をシュッと上げ、大袈裟に溜息をついて角田が席に戻った。
―女だと?バカが!嶺より綺麗で可愛い女なんざ、いねぇってんだよ!あの女、案外バカだな。
この学校は、始業式がない。
校長の話しがスピーカーから5分程度流れてきて、あとは普通に授業だ。
「は~、だり~。早く終わんねぇかな・・」
今日の授業は午前で終了だ。
終わったら部室行って、尚輝になんか買ってきてもらって食お。
授業終わりのチャイムが鳴り、大きな伸びをしていると
「北城!」
担任に呼ばれる。
「なんだ?」
席から大声で聞く。
「お前、明日追試な」
「え、何でいきなり明日なんだよ」
「お母さんから、追試受けられんかった事情は聞いてるから、特別に再追試するんだ。文句言うな!」
「チッ、わぁったよ!」
慎也の席まで来た担任の吉田は
「で、お前、足大丈夫なのか?」
「ああ、もう何ともねぇ。抜糸もすんだしな」
「うん。ならいい。言いたくないならいいが、何かあったら言え?卒業できなかったら面倒くせぇぞ~」
「え、それは嫌だな」
「だろ?お前、就職、ったって、出席日数ギリギリだし、成績悪すぎ。卒業ヤバイぞ?追試で何とかしろよ?」
「そうなのか?解ったよ」
―卒業は嶺と一緒にしなきゃな。嶺のいない学校なんてクソだぜ。
考えながら教室を出る。
階段を降りていくと、男子トイレから嶺と湊人が出て来たのが見えた。
―連れションかよ・・湊人、ベッタリだな・・まあ、変な虫がつくよりゃいいか・・しかし・・何でああ可愛いんだ?嶺は。
「よっ!」
部室にはすでに尚輝と真中が弁当を買って待っていた。
「おめ、先行ってんじゃねーよ、薄情な奴だな」
尚輝をひと睨みする。
「いや、だって慎也、吉田に呼ばれて話してたから、チキン南蛮なくなったら嫌だから先行ってきたんだよ。ほら、慎也はこれ、焼肉な」
「おお、そうか、サンキュ。で、何で真中がいるんだ?」
尚輝に弁当の代金を渡しながら聞く。
「まあそう言うな。ダチだろ?」
「やめろ、バカ。予備校行っとけ」
「へ~、この中でただ一人、桜井と同じクラスの俺の報告聞かなくていい、ってんなら帰るわ!お先・・」
「嘘!嘘!真中くん!大好きだよ~、知ってるだろ?お前の声が好きなんだよ~。聞かせて?」
「歌か?」
「・・てめぇ・・」
「解った!解ったから・・いやさ、桜井、髪型変えて来てたんだけど」
「知ってる!!ヤバかった」
「だろ?もう女子がイケメン、イケメンって大騒ぎだよ。桜井って、みんな殆ど顔も見たことなかったから、転入生キターッ!くらいの勢いで、休み時間の度に女子に取り囲まれて、ライン繋げられてモミクチャだったぞ」
「んだとぉ?こら、てめぇ!それ指咥えて見てたのか?!あ?湊人は何してたんだ、湊人は?!」
「だろ~、イケメンだろ~!とかって、ニコニコ自分のモンみたいに自慢してた」
「あんのやろうーーー・・ぅぅ・・・」
「俺なんかさ…」
真中の声色が変わる。
「さっき、教室出ようとしてる桜井に声かけたら、何か用?って冷たいのなんの!心折れたわ、俺」
真中には申し訳ないが、ここにも一人、と少し救われる・・・
そして
「おい、真中。明日俺追試なんだ。お前、今日予備校サボって、俺に勉強教えろ」
と家に連行した。
そして、翌日、そのまた翌日も、俺は嶺を待ち伏せて、自然に見えるようにみるくいちごを渡し続けた。
湊人には
「お前、イタイ」
って言われたけど、かまうもんか!
あれは俺の嶺へのメッセージなんだ!
「俺を信じてくれ」
っていうメッセージなんだ。
嶺・・
いつか、返事を返してくれるか?
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