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第10章 運命の歯車が回り始める

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「あ、ちょっとあんた!何をするんだ」
 いきなり自分の酒を飲まれて、男はカァッと顔を赤く染めて、
怒鳴りつける。
すると女は、まったく悪びれる様子もなく、胸をぐぃっと突き出すと、
「なぁに、小さいこと、言ってるのよぉ。
 これくらい、いくらでもおごるわよぉ」
いけしゃあしゃあと女はそう言うと、いきなりすくっと立ち上がり、
おもむろに目の前のカウンターに、ゴトッと皮の袋を置く。
その時に、石でも入っているのか、やけに重たそうな鈍い音がした。
「ねぇ、この人に、好きなだけ飲ませてあげてよぉ」
ちょっと酔っぱらっているのか、やけに大きな声を張り上げると、
先ほどからチラチラと、こちらを見ていた店主が、黙ってうなづいた。

「ほほぉ~」
 もしや、この女…どこかの田舎の金持ちの奥方なのか、
それとも金持ちの後家さんなのか…
男は無遠慮な目で、まるで下着姿を透かして見るような目付きで、
ジロジロと女の身体を嘗め回すように眺める。
服装は…一応高価そうなものだが、かなり時代遅れの古びたドレスだ。
きれいな顔をしているが、よくよく見ると、目尻に小じわもあり、
首元にもしわが見える。
その体もよく見ると、少し痩せぎすだが、ほどよく肉付きもあり、
見事な曲線の持ち主だ、と男は見てとった。
「姉さん、年増でも…中々いい女じゃないかぁ。
 何ならオレが、相手をしてやってもいいゼ!」
 もしかしてこの女…自分を誘惑しているのだろうか、と馴れ馴れしい
手付きで、すぃっと女の手にふれる。
(さすがに、いきなり尻を触るのは、ダメだろうな)
ここは紳士的に、とかっこを付けていたのだが、
「いい気にならないでよ!」
かなり気の強い女だ。
バシッとその手を容赦なく、大きな音をたてて、はねのけた。
まさかそんなことになるとは思いもせずに、キョトンとする男を見ると
ガハハハ…
いやぁ、やるねぇ~
この時ばかりは、店主が大きな声で笑う。
「兄さん、ここはあんたの負けだねぇ」
からかうように、そう言った。
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