桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

文字の大きさ
上 下
387 / 428
第 16章  転がる石のように…

   8

しおりを挟む
  目の前にはなじみの住宅街が広がっている。
ところどころに、ポワンと灯りをつける街灯…
ポツポツと、家々にオレンジ色の優しい光が漏れている。
今度はゆっくりとペダルをこぐ。
1脚1脚進むごとに、家々が近付いてきて…
どこかで犬の声が聞えてくる。
そうして坂を上り切ったところに、変わらぬ姿で、古びた日本家屋が
見えてきた。

(どうしようか。まずは、大家さん?)
 一瞬立ち止まり、それから自転車から降りると、ゆっくりと
自転車を押して歩く。
「あら、今日は早いのね」
 石段に近付くと、唐突に若い女の声が聞えてきた。
「あっ、こんばんは」
声の方向に向かって、声をかけると
「おかえり」
明るい声が返って来る。
ハンドルを握り締めたまま、振り返ると…
門扉に取り付けられた、ライトに照らし出され、同じ下宿仲間の
マイコの顔が、ポワンと浮かび上がっていた。

「今、帰り?」
「はい」
「お疲れ様ぁ」
 相変わらずのんきなマイコの顔を見ていると、
待子はようやく肩の力が抜けて、ホッとする。
「マイコさんも、今帰り?」
「私もそう」
ニコニコしながら、待子と肩を並べる…
「大家さん…いますかねぇ」
一応マイコに聞いてみると、
「そうね」とうなづいて、
「いると思うけど…なんで?」
キョトンとした顔で、待子を見た。
 さて何と言おうか…待子は一瞬迷う…
けれども、じぃっとこちらを、マイコさんが見ているのを
感じた。
これはもう、下手に隠しても、仕方がない…と半ばあきらめる。
「実はね、佐伯さんのことなんです」
思い切って口に出して言うと、すぐに、1つの疑問が頭をよぎる…
この人は、口が堅いのだろうか…と。
こちらを見る、彼女のことを見ていると…
少しためらう待子なのだった。

しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:14

やっかいな遺言書。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:3

★チートなんだから三行で説明して!★

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

処理中です...