桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第17章  動き出した歯車

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「帰ってきなさい」
 問答無用とばかりに、電話の向こうで母さんは言う。
父さんに相談の電話をしたら、まさか一番知られたくない相手、
母さんに即効でバレたのだ。
「えっ」
瞬殺で言われてしまうと…
てっきり杏子の住むアパートにでも、とりあえず引っ越そうと
思っていたので…すぅっと血の気が引く思いがした。

「でも…」
父さんには、自分の気持ちをハッキリと言えたのに、
母さんにはどうしても、ハッキリと自分の気持ちが言えない。
「もう、気が済んだでしょ?」
ズバリと切り返されると、言い返す言葉も見つからない。
でも、違うのだ、そうじゃない…と、心が叫ぶのだ。
あまりにも悔しいので、言葉が付いて出てこない…
もどかしくて、悲しくて、
歯がゆくて、悔しくて、涙があふれて来る…
「ここから通えば、いいじゃない」
鼻のつまった声で、しゃべっていると…
やはりこの人には…反対しても、無理かぁ~
待子は少し、悲しくなってきた。

「で、どうするの?」
久しぶりに杏子が、待子のバイト先に、会いに来た。
「ね、彼とはうまくいってるの?」
早速にこやかに待子が言うと
「もちろんよ」
負けじとばかりに、堂々と杏子は言う。
 誕生日にもらった…という指輪を、これみよがしに、掲げて見せる。
「いいなぁ~」
 これといって、浮足立った出来事が、全く何もないので、
むしろにこやかにして、待子は羨ましそうに言った。

 引っ越し
 ストーカー騒ぎ、
 そうして起こった、ボヤ騒ぎ。
 しかも下宿屋からの追い出しの危機・・・
 思い返すだけで、頭の痛いことばかりだ。
「でも何だか…待子、最近、とってもイキイキしてるよ!」
励ますように、杏子が言うと
「ホント?」
明るい顔で、聞き返しながらも、
それって、杏子のことなんじゃないか、とすっかり女らしくなった
友の顔を見つめた。
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