3 / 25
3
しおりを挟む
初めて訪れた国立駅の改札口で、私は出口を確認しひと息吸う。頬を触れる空気がなんだか練馬駅で電車に乗りこんだ時より、少しひんやりと気がした。
「こんな天気の日に用もないのにわざわざ、坂を歩きに来るのは私だけでしょうね」
見渡しても梅雨本番の雨の土曜日で学生の姿もまばらだ。
目的の坂は多摩蘭坂という。国立から国分寺方向に上りの坂だとラジオのパーソナリティーが話していたので、私は敢えて国立駅からアタックすることにした。
「この坂の由来は、たまらんたまらんって言いながら学生たちが坂を上がるので多摩蘭坂と呼ばれるようになったらしいですよ? 漢字は当て字ですけどね。」と言ってラジオが流し始めた曲は松永くんがうちでよくかけていたバラードだった。
駅のロータリーに出ると目の前には、放射線状に道が分かれており、さっき駅で確認した地図だとスリーピースの人差し指にあたる道を進んでいくのであっているはずだ。大学らしき建物の横を通り過ぎ、左折した先に目的地が現れる予定だ。
角を曲がって先を見るとそこは,思っていたより普通の住宅街っぽい緩やかな坂が続いていた。
「思っていたよりもずいぶんと早く着いたな。もっと遠いどこかってイメージだったのに」
いつも、彼がうちのデッキで流していた曲で、どんな坂なのかなと思っていた。今度行ってみようねと話したきりなかなか行く機会がないままになっていた。ふいに思いつきで出てきてしまったけど来ないほうがよかったかもしれない。
「一緒に行くって話してたのに、ひとりで来ちゃったじゃないか」
前方を見ると、なんだかこの坂、普通なのだ。歌になるくらいの坂なのだから、もっと雰囲気があるのかと思っていた。いたって普通の住宅街にある坂だったことに驚いた。
法面が断崖絶壁なわけでもなく、桜並木やアジサイロードが何キロも続いているわけでもなく、レトロな街並みってわけでもない。
「とりあえず歩いてみますか」傘を片手に進みだした。
私が勝手に妄想したのもいけないのだけれど、尾道を舞台にした映画のような風景だとばかり思ってたので、少し拍子抜けの気分ではあったが、普通の街の日常の風景が目の前を過ぎていくのを眺めていた。
そうだ、あの日も駅から大学へ行く道を雨の中、私は歩いていた。江古田駅から大学へ向かう道は、住宅や喫茶店に居酒屋、銀行という日常の風景のなかを彼だけが切り取られたようにはっきりみえたら。でも、彼は故意に私を風景の一部にしていた。確かに松永くんはこっちに気づいていたはず、でもこちらには目を向けず友達と歩いて行った。
「トウコちゃんはなんでオレとつきあったの?」そう言われた次の日だった。
「こんな天気の日に用もないのにわざわざ、坂を歩きに来るのは私だけでしょうね」
見渡しても梅雨本番の雨の土曜日で学生の姿もまばらだ。
目的の坂は多摩蘭坂という。国立から国分寺方向に上りの坂だとラジオのパーソナリティーが話していたので、私は敢えて国立駅からアタックすることにした。
「この坂の由来は、たまらんたまらんって言いながら学生たちが坂を上がるので多摩蘭坂と呼ばれるようになったらしいですよ? 漢字は当て字ですけどね。」と言ってラジオが流し始めた曲は松永くんがうちでよくかけていたバラードだった。
駅のロータリーに出ると目の前には、放射線状に道が分かれており、さっき駅で確認した地図だとスリーピースの人差し指にあたる道を進んでいくのであっているはずだ。大学らしき建物の横を通り過ぎ、左折した先に目的地が現れる予定だ。
角を曲がって先を見るとそこは,思っていたより普通の住宅街っぽい緩やかな坂が続いていた。
「思っていたよりもずいぶんと早く着いたな。もっと遠いどこかってイメージだったのに」
いつも、彼がうちのデッキで流していた曲で、どんな坂なのかなと思っていた。今度行ってみようねと話したきりなかなか行く機会がないままになっていた。ふいに思いつきで出てきてしまったけど来ないほうがよかったかもしれない。
「一緒に行くって話してたのに、ひとりで来ちゃったじゃないか」
前方を見ると、なんだかこの坂、普通なのだ。歌になるくらいの坂なのだから、もっと雰囲気があるのかと思っていた。いたって普通の住宅街にある坂だったことに驚いた。
法面が断崖絶壁なわけでもなく、桜並木やアジサイロードが何キロも続いているわけでもなく、レトロな街並みってわけでもない。
「とりあえず歩いてみますか」傘を片手に進みだした。
私が勝手に妄想したのもいけないのだけれど、尾道を舞台にした映画のような風景だとばかり思ってたので、少し拍子抜けの気分ではあったが、普通の街の日常の風景が目の前を過ぎていくのを眺めていた。
そうだ、あの日も駅から大学へ行く道を雨の中、私は歩いていた。江古田駅から大学へ向かう道は、住宅や喫茶店に居酒屋、銀行という日常の風景のなかを彼だけが切り取られたようにはっきりみえたら。でも、彼は故意に私を風景の一部にしていた。確かに松永くんはこっちに気づいていたはず、でもこちらには目を向けず友達と歩いて行った。
「トウコちゃんはなんでオレとつきあったの?」そう言われた次の日だった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる