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「俺、実は夕飯係は立候補したんだ。先輩みたいに料理出来ないのにごめんね。」と、話しだした。

「俺、本当はトウコさんのこと前から知ってたんだ。よく前さんたちをアトリエまで迎えに来てるの見てて、なんかカワイイなぁって思ってた」

「あの日、居酒屋に行ったら、トウコさんも来てるから思い切って話しかけたのに、先輩に絡まれて連れてかれちゃったしね」
「そうしたら、部室に寄ったとき先輩たちがこの合宿のこと話してるのが聞こえてきたんだ。トウコさんが夕飯係やるって聞こえたからもう、車出しするから夕飯係にしてくれって立候補したんだ」

 松永くんが
 私のこと
 好き?

 そんなことってあるんだろうか? 
 私のことを好きだなんて…。

 私は私のトラウマに縛られている。

 中学のとき、好きだった男子がいた。
下校しようと下駄箱近くまで行ったとき、
「おっ、コンバースのローカットや。これ誰の?」
 「女子のとこだけど、こいつサイズでかいな! 俺でも履けるんじゃね?」
「履いてみていいかな?」
「いいわけないだろ? やめとけよ」
 私の好きだった男子が他の男子を止めた。すると、
「あー、これ佐藤のだろ? アイツ背デカいし。おまえら、出来てんのか~」
 他の男子がからかい始めた。

 目立たない靴履いておけばよかった。彼までからかわれてる。最悪だ。

 彼は、帰る素振りを見せ、
「そんなんじゃないし、興味ねーよ」と     彼は立ち去っていき、
「本気で怒んなよ~」
 友達もあとに続いていった。

 中学2年のとき、すでに足のサイズが25センチあった私は、自分の靴を男子が笑っているのを見て以来、自分から誰かを好きになっちゃいけないルールを作っていた。
 なので、今回の【トウコ、初カレ作るぞ計画!】も相手を引っ掛けてくるのが目標で、自分から告白するとかはしないつもりだった。

 森を風が渡り、私たちふたりのもとに風が届いた。それと同時に、
「俺、背が高くないからトウコさんから見たら恋愛対象外だろうなって半分諦めてたけど、今日一緒にいるうちにどんどん欲が出ちゃってさ。もっとトウコさんのことを知りたいって思うようになっていった」

「トウコさんは俺のこと…恋愛対象として見てくれる?」と、彼は言った。

 ふたたび吹いた風は、彼の声を半分掻き消しそうになったが、確かに彼はそう言った。


「おーい、何してんだ?」と、先輩が私たちを探す声が聞こえた。
 恥ずかしさで、言葉に詰まった私はその先輩の声に反応してら咄嗟に何も答えず走り出してしまった。

「どうしよう、どうしよう。誰かとつきあいたいと始めたことが、こんなに早く実現するなんて」

 松永くんのこともっと知りたい。
 優しいのか、感じ悪いのか、すかしてるのか、天然なのか? 私はまだ全然、彼のことを知らない、でも私の中の答えは決まっていた。

【トウコ、初カレ作るぞ計画!】が有言実行となりそうです。

 

 夕飯作りを再開させた私たちは、また隣同士になって作業を続けた。

「……」
「……」
「…………」

 当然、逃げた私から切りだすのが礼儀なのはわかっている。でも恥ずかしい。いや、さっきの私の行動は、彼は私に嫌われたと思ってるよね? 
傷つけてるはずだし、最低だよね私。
人としてどうかと思うよねと気持ちを固め、ついに勇気を出して話しかけた。

「あの…さっきは逃げてごめんなさい。動揺してしまって…」

「嫌われたんじゃなかったんだ。よかった」
 彼はほっとした顔をしていた。

 その顔を恐る恐る覗くと、口では不安だったみたいなことを言っていた彼の顔は、全然そんな顔をしていない。
 逆にこっちを含み笑いして見てる。

 えっ、なんだ? その自信満々な表情は、私に断られるなんて思ってないって顔でしょ、それは? 
 さっきまで先輩にヤキモチ妬いていたのは誰だったんだ?

「……」

 私が松永くんのことを好きになり始めていることに確信をもった彼の顔が、憎らしいし悔しいしで、眉間にシワが寄る。
 さらには、
「で、お返事は?」と、詰め寄られる始末だ。

 この状況、耐えられない。
 ちょっと顔が近いんですけど? 
 たまらず両手で彼の胸を押し返してかろうじて出した声は、カラッカラな喉のせいでカスレ気味だった。

「お友達以上ってことで」

「お友達以上かぁ、それってキスはオーケーなの?」
 松永くんは、ぐいぐい近づけてくる。
「君は、お友達以上恋人未満な人とキスするんですか?」と、全力拒否すると

「じゃあ、いつ昇格できるの?」
 まだ食い下がってくる。

「もっとよく知ったら!」
「本当はやな奴かもだし、もっとカッコいい人が現れるかもしれないし…」と、言うと彼が真顔になった。

「……」

 いや、それは私も同じだ。私のこと知ったらやな奴でつまんない奴と思うかもしれない。
「それに私だって、降格するかもしれないでしょ?」

 悶々としている私の顔を見た松永くんは、私の垂れた横髪を後ろに戻しながら、
「トウコさんが降格するなんてことは、ないよ。俺、ぞっこんだから」
 彼は、さらりと欲しい言葉を発してきた。

 この人は! これ以上隣にいたら、息をするのを忘れてしまいそう。

「もう、テーブルのとこに行って、お皿にキャベツとフライを盛り付けてラップしていってくれる?」
 私は、この場から彼を追い払う用事を無理矢理作った。


 私たちは合宿のあと、本当にロールキャベツの店にふたりで行った。

 その後も松永くんから食べ歩きとかな誘われるようになり、「降格」はなかったようで、ごく自然な流れでつきあうことになった。
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