31 / 76
31話 思い出の場所
しおりを挟むその頃、眠そうにしているジスンをベッドに寝かせたチスンは、となりでジスンを見つめていた。
「ママは~?」
「迎えに来るから寝てていいよ」
ジスンは気持ちよさそうに眠った。
本当に可愛い顔してるな…
ホンユには似てないな…
クミに似てるのかな…
23時を回りチスンも眠りにつきそうになった頃、チャイムが鳴った。
玄関のドアを開けると久美子が立っていた。
「ごめんなさい。ジスンを預かってくれてたみたいで…」
「入って」
「う、うん」
リビングにはジスンの姿はない。
「俺の部屋で寝ているよ」
寝室に行くとジスンはぐっすり眠っていた。
「ごめんね。直ぐ連れて帰るから」
久美子がジスンを抱え上げようとすると、チスンが引き止めた。
「気持ちよさそうに寝てるのに可哀想だよ。もうちょっと寝かせてあげよう」
そう言うとチスンは久美子をリビングのソファーに座らせた。
一緒に暮らしていた頃と全然変わってない部屋に、久美子は懐かしさを感じた。
「驚いたでしょ?俺がジスン預かってたから」
「うん…本当にごめん。私がもっと早く帰っていれば…」
「ホンユといたの?」
「…うん」
「そっか…ホンユがちゃんといるのに、なんだかシングルマザーみたいだね」
「それは…そ、それよりチスンは何で美容室の近くにいたの?」
「ちょっとクミに聞きたいことがあったから、家まで行こうと思って店の前を通っただけ。この前送った時に通ったから」
「そうなんだ…」
「ごめん。連絡先も知らないから」
「う、うん。聞きたいことって?」
「もういいよ」
「何それ…」
「ところでジスンって今3歳なんだね」
「うん」
「今年で4歳か…」
「うん」
「俺たちも別れて3年…」
「…そうだね」
うつむく久美子の横顔をチスンはじっと見ていた。
沈黙が続き、部屋の中には重たい空気が流れていた。
「そういえば店長のお父さん大丈夫だったの?」
「血圧が急に上がったみたいで…2~3日入院したら退院出来るみたい」
「そっか。よかった」
ジスンが起きて来た。
「ママー」
「ジスン、起きたのね」
「お兄ちゃん」
ジスンはチスンに寄り添い、手を握る。
「ジスンは俺の手が気に入ったのかな」
「そうみたい…ジスンそろそろ帰ろっか」
「えー、イヤだー。お兄ちゃんといたい!」
「ダメよ。帰るよ、ジスン」
久美子がジスンの手を引くと、ジスンが泣き出した。
「明日の朝送ろうか?今日は俺、ビール飲んだから送れないし。明日仕事は何時から?」
「仕事は一応、明後日まで休みだけど…」
「じゃあ泊まって行きなよ。もう遅いし」
「え…でも」
「客室空いてるから使って」
「ママ、ここに泊まりたい‼︎」
「ジスン、お兄ちゃんの家に泊まって行くか?」
「うんっ!」
ジスンは嬉しくてはしゃぎ出す。
「ありがとう…じ、じゃあ明日の朝…帰ります」
「じゃ俺は部屋に行くから、客室好きに使って」
自分の部屋に行こうとするチスンの後をジスンがついて行く。
「ジスン、私たちはこっちよ!」
「お兄ちゃんのベッドがいい!」
「わがまま言わないの!」
「アハハ。じゃあ俺が客室で寝るから、2人は俺の部屋で寝ていいよ」
「ちがうー!お兄ちゃんとママと一緒に寝るのー!」
「えっっ?」
「な、何言ってるのよ!」
ジスンは久美子とチスンの手を引っ張りながら、チスンの部屋に行く。
「ちょっ、ちょっとジスン‼︎」
「ママー、早くぅー」
「ジスン、ダメだってば」
久美子に言われたジスンは、今にも泣き出しそうになる。
「じ、じゃあ…3人で寝るか」
「わーい!」
3人はジスンを間にし、ベッドに入った。
ジスンは安心したのか、直ぐに寝てしまった。
ジスンを間に2人はお互い向き合っていた。
「懐かしいでしょ、このベッド」
「…うん」
「まさか、またクミと同じベッドで寝るとは思わなかったよ」
「チスン…」
「ん?」
「色々と…ごめんね」
「謝らないで…」
チスン…そんなに優しく言わないで…
「クミ、本当に…」
「え?」
「いや…何でもない…」
チスンは、自分と付き合っている時からホンユとそういう関係だったのか聞こうとしたが、心のどこかで久美子を信じていたので聞けなかった。
そして2人はいつの間にか眠りについた。
6
あなたにおすすめの小説
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~
美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。
叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。
日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!?
初回公開日*2017.09.13(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.03.10
*表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ある日、憧れブランドの社長が溺愛求婚してきました
蓮恭
恋愛
恋人に裏切られ、傷心のヒロイン杏子は勤め先の美容室を去り、人気の老舗美容室に転職する。
そこで真面目に培ってきた技術を買われ、憧れのヘアケアブランドの社長である統一郎の自宅を訪問して施術をする事に……。
しかも統一郎からどうしてもと頼まれたのは、その後の杏子の人生を大きく変えてしまうような事で……⁉︎
杏子は過去の臆病な自分と決別し、統一郎との新しい一歩を踏み出せるのか?
【サクサク読める現代物溺愛系恋愛ストーリーです】
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる