真実【完結】

真凛 桃

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56話 迷い

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久美子は慌ててチスンを起こし上げた。


「チスン‼︎どうしたの⁈大丈夫⁈」 

「う…うん…」

「頭押さえているけど痛いの⁈病院行こう!」

「…大丈夫だから…ちょっと休むね…」


チスンは寝室に行き、薬を飲んでベッドに横になった。

心配になった久美子とジスンが寝室に入って来た。


「パパ…大丈夫?頭を痛いの?」

「うん…大丈夫だよ。心配かけてごめんね。パパはちょっと休むから、ご飯食べておいで」

「チスン…本当に大丈夫?」

「うん」

「明日も治ってなかったら、病院に行こうね」

「わかった…」

「ジスン…パパ、休ませてあげようね」

「うん…」


久美子とジスンはリビングに戻って行った。



これからもこういうことが続いたら、心配させるだけだ…

いったいどうしたらいいんだ…


久美子とジスンとずっと一緒にいたいチスンは、これからどうしていったらいいか分からなくなった。



チスンが翌朝目を覚ますと、久美子とジスンが両端で寄り添って寝ていた。


クミ…    ジスン…


チスンは2人を愛おしく思い、2人のおでこにキスをした。


「チスン…」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「ううん。それより頭はもう大丈夫?痛くない?」

「うん。寝たら治ったよ」

「よかったぁ。心配したんだから」

「ごめん」

「みんな元気でいなきゃね」
 
「そうだね…クミ、そろそろ撮影に行く準備をするよ」

「うん、わかった。あまり無理しないようにね」


チスンは久美子にもらった時計をはめて、ジスンが描いた絵を写真に残した。


「何してるの?」

「いつでも見られるように持ち歩きたいけど、折り曲げたくないから…写真撮った」

「アハハ…そこまでして…」

「俺にとって宝物だから」



チスンは現場に向かった。

撮影中、何度か頭が痛くなったが必死で耐えて、なんとか終わった。


「お疲れ様でした。体調は大丈夫ですか?」

「マネージャー…今は大丈夫だけど昨日、家で症状が出たんだ」

「え⁈そ、それで?」

「寝たら治ったけど、クミとジスンに心配させてしまった…」

「チスンさん…これから同じことが起きるでしょうけど、その度に何て説明するんですか?久美子さんも何か感じるはずですよ」

「分かってる…クミは今1人だけの体じゃないし心配かけたくない。病気のこと知ったら…って考えたらどうしても話せない。だからって何も言わずに俺がクミとジスンの前から姿を消しても2人を苦しめてしまう。俺、クミとジスンを心から愛してるから、離れるなんて…考えたくもない…」

「チスンさん…」


帰宅途中の車内は沈黙が続き、チスンのマンションに着いた。


「ありがとう、マネージャー」

「チスンさん、何かあったらいつでも連絡下さいね」

「うん。また明日」


チスンは車を降りマネージャーと別れた。


チスンはマンションには入らず、タクシーを拾うと行きつけのバーに行った。


「チスンさん!久しぶりです!」

「オーナー、久しぶり」

「お1人ですか?」

「うん。ウイスキーロックで」

「え?あっ、はい…」


医者から飲酒は止められていたが、チスンは飲まずにはいられなかった。


このまま帰ってもまた昨日のようなことが起きたら、クミは病院に連れて行くだろう…

どうしてこんなふうになってしまったんだ…


チスンはウイスキーを一気に飲み干し、何度も頼んだ。


「チスンさん、ペース早くないですか⁈」

「飲みたい気分なんだ…」


いつもと違うチスンにオーナーは戸惑った。


「オーナー、今幸せ?」

「え、今ですか?幸せですよ」

「どんな時に幸せ感じる?」

「どんな時?そうですね~こうやって仕事してる時や、奥さんと子供の笑顔見た時ですね」

「…そうだよね」

「チスンさんも家庭持ったらいいですよ。子供がいたら毎日楽しいですよ」


「…そうだね」


チスンは携帯を取り出し、ジスンが描いてくれた絵をずっと見ていた。


この絵のようにずっと笑っていたい。ずっと…
でも俺にはもう、残された時間が長くない…
クミとジスン、それとお腹の子はこれからもずっと幸せであって欲しい…

それが俺の願いだ…



3時間後、チスンは酔って寝てしまった。

オーナーはマネージャーに連絡して迎えに来てもらった。


「チ、チスンさん⁈」


チスンは起きれずにカウンターで寝ている。


「チスンさんはいつから飲んでたんですか?」

「3時間前からずっと飲んでましたよ。しかもウイスキーロックで。こんなチスンさん初めて見ました」


そんな…
飲まないように言われてるのに…

マネージャーはチスンを抱えて車に乗せると、チスンが目を覚ました。


「チスンさん!!大丈夫ですか⁈」

「…マネージャー?」

「どうして飲んだりしたんですか⁈こんなになるまで!症状が悪化するからお酒は止められてるでしょ⁈」

「何も考えたくなかったんだ…何も…」

「気持ちは分かりますが、お酒は止めて下さい!」

「酒もダメだなんて…俺はもう死ぬんだ。どんなに生きたくても、先はないんだ…」


マネージャーは何も言えず、悔しかった。


「チ…チスンさん、このまま私の家に行きますよ」

「…うん」


しばらく車を走らせていると、チスンは携帯を取り出しジスンが描いた絵を見た。

続けて久美子からもらった時計を見て、2人に会いたくなった。


「マネージャー、ごめん。やっぱり帰る」

「え⁈大丈夫ですか?」

「うん。クミとジスンに会いたい…」

「…わかりました。ではマンションに向かいますね」


マンションに着き、チスンが車から降りるとマネージャーも一緒に降りた。


「ここで大丈夫だよ。ありがとう」

「いえ、久美子さん心配してるでしょうし…今まで私が一緒だったことにしておきますから、一緒に行きましょう」


玄関のドアを開けると、ジスンが待ち構えていた。


「ジスン!!」

「パパー!!遅いーっ!」

「ジスン、ずっとここにいたの⁈」


声を聞き付けて久美子がやって来た。


「チスン、遅かったね!あっ、マネージャーさん‼︎」

「遅くにすみません。ずっとチスンさんと一緒でした。私はこれで失礼します」

「えっ、お茶でも飲んで行って下さい!」

「ありがとうございます。でももう遅いので…また。ではチスンさん、また明日」

「うん、ありがとう」


マネージャーが帰るとジスンが抱きついて来た。


「パパ、お酒臭ーい!」

「飲んで来たの?」

「うん…それよりジスンはずっと玄関にいたの?」

「そうよ。寝る時間なのにパパを待ってるって言って玄関から離れなくて…」

「ジスン…そんなにパパのこと好き?」

「好き!大好き!!」

「ジスン、パパもジスンのこと大好きだよ。でもこれからはパパを待たないで」

「え?どうして?」

「パパも色々お付き合いで遅くなる日もあるし、今日みたいにジスンが寝ないで待ってたら気になっちゃうから…」

「でもぉ…」

「クミも、これからは待たなくていいから。寝たい時は寝ててね」

「…うん。でも何だか寂しい…」

「自分たちの時間も大事にしてってことだよ」


チスンはそう言うとシャワーを浴びに行った。


本当は待っていたジスンを見た瞬間、嬉しくて思い切り抱きしめたかった。
素直にそう出来ない自分が悲しかった。


「ジスン、ベッドに行こうか」

「うん…ねぇママ、何かパパ今日変だよ」

「パパはママとジスンのことを思って言ったんだよ。もう寝なさい」

「…うん」


久美子はジスンを寝かせると、リビングに戻りチスンを待っていた。


しばらくして、シャワーを浴び終えたチスンがリビングに入って来た。


「スッキリした?」

「うん」

「チスン、何かあったの?」

「え?何で?」

「ずっと飲みには行ってなかったし、行くとしても今までは連絡してくれてたから」

「あっ、ごめん。急だったし…特に何もないよ」

「それならいいんだけど…」


するとチスンが久美子のお腹に顔を当てた。


「チスン…」

「スクスク育ってるかな」

「うん」

「元気に産まれて来てくれよっ」


そう言いながら久美子のお腹をさすった。


パパと会えるか分からないけど…
一目だけでいい…
会いたい…

君が生まれて育っていく時…
パパはいないけどママを支えてあげてね…

頼りないパパでごめんね…


チスンは心の中でお腹の子に願いを伝えた。







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