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60話 自分の手を汚さない男
しおりを挟むその後、たまに会うつもりだったシュンとスミは毎日会っていた。
1週間後。
この日、裕二は斉藤という若い男と会っていた。
「明日、ここに行って社長の面接を受けてくれ」
裕二が渡したメモには柳本グループの住所が書かれていた。
「わかりました」
「受付には誰も居ないはずだから、直接8階の社長室に行け」
「分かりました」
「約束してない面接だから突然行ったらあいつは驚くだろうが、今は人材が必要だから受け入れてくれるはず。これが明日使うお前の履歴書だ」
適当に記入した履歴書を斉藤に渡した。
「社長室に入ったら気付かれないように鍵をかけろ。ゆっくり回せば音もしないしバレないから」
「はい」
「あいつが履歴書を見てる最中に襲え。そして顔を殴るんだ。アザが出来るくらいに。」
「わかりました」
「で、言ってやれ。岡田裕二の命令でやったと。いいな?」
「わかりました」
「終わったらこれ持って姿をくらませろ」
裕二は斉藤に300万渡した。
「はい。ありがとうございます」
地曽田は俺の命令だと知ったら怒り狂って俺の元に駆けつけて来るはず…
その日でお前は終わりだ…
「あと、近いうちに俺からお前の携帯に着信があったら警察に連絡して、俺の部屋にすぐに行くように言ってくれ」
「えっ…警察にですか?何と言えば?」
「事件があったとでも言え。とにかく急いで行くように言うんだぞ」
「…わかりました」
ちょうど明日はスミの誕生日だ…
俺が最高のプレゼントをくれてやるよ…
19時過ぎ、スミが会社を出るとシュンから電話がかかってきた。
「もしもし…シュン」
「もう終わった?」
「うん。シュンは?」
「まだ遅くなる」
「そっか。じゃあ今日は真っ直ぐ帰ろうかな」
「そうして。その代わり明日早く切り上げるから明日会おう」
「明日ね」
「スミ、明日誕生日でしょ」
「…あっ、そうだった」
「19時半にレストラン予約するからお祝いさせて」
「ありがとう。レストランってどこの?」
「うちのホテルのレストランだよ」
「わかった」
「スミさえよければ…明日はずっと一緒に居たい」
「…うん。わかった」
「じゃ、明日」
「うん。明日ね」
家に帰ったスミは着替えをバックに詰め、母親が居るリビングに行った。
「お母さん、明日友達の家に泊まるから」
「明日?スミの誕生日でしょ?」
「うん。友達がお祝いしてくれるんだって」
「そうなの…じゃあ、お母さんは明後日祝ってあげるわね」
「本当?ありがとう」
「ところで友達って?」
「あっ…最近仲良くなった女の子だよ」
「そうなの。わかったわ。楽しんで来なさい」
スミは明日が待ち遠しかった。
シュンとずっと一緒に居られる…
今夜はパックしなきゃ…
翌日、18時に仕事を切り上げたシュンは花屋に向かった。
たくさんの花が並ぶ中、ある花が目についた。
この花…スミにぴったりだ…
「彼女さんに…ですか?」
「はい。この花は?」
「これはマリーゴールドです」
「マリーゴールド…この花の花言葉って何ですか?」
「マリーゴールドは 変わらぬ愛 ですよ」
「変わらぬ愛…」
「はい」
「これ下さい」
「はい。何本にしますか?」
「全部下さい」
「えっ…あっ…はい。わかりました」
その頃、スミは社長室に居た。
18時半か…
19時に出れば十分間に合うな…
早く会いたい…
すると社長室のドアを誰かがノックした。
え…今頃…誰だろ…?
「どうぞ」
「失礼します」
斉藤は裕二に言われた通り社長室に入ると同時にそっと鍵を閉めた。
「どちら様ですか?」
「あっ、突然すみません。ここで働かせて頂きたくて面接に来ました」
「えっ?どうしてですか?」
「以前こちらで働いていた社員の知り合いです。今、人が足りないって聞きました」
「うちにいた社員から?」
「はい。僕…営業でも何でも自信ありますので面接だけでもお願いします」
「でも…」
「生活に困ってるんです。働かなくちゃいけないし。お願いします!」
「…わかりました。お座り下さい」
「はい」
斉藤はスミに履歴書を渡した。
スミが履歴書に目を通していると斉藤は突然立ち上がった。
「どうされました?」
「ここからの外の眺め…いいですね」
斉藤はそう言うとスミの背後に回った。
スミが振り返ると斉藤はスミを床に押し倒し顔を殴り付けた。
「何するのっ⁈」
「うるせー!黙ってろ!」
スミは必死で抵抗するが斉藤の力には敵わず、ブラウスを引きちぎられ何度も顔を殴られた。
「やめてっ…」
「岡田裕二の指示だから少し我慢しろ」
えっ…裕二の指示…?
裕二の命令通りに動いた斉藤は出て行った。
殴られて顔が腫れあがりボロボロになったスミは、床に倒れたまま気力をなくして泣いていた。
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