私の愛する人【完結】

真凛 桃

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18話 セナの想い

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翌朝、テソンはセナを起こしに行った。

「おい!俺もう仕事行くから、お前も一緒に出るぞ!」

「もう、眠いのにー。もうちょっと寝かせてくれよー」

「俺が行ったら、お前とスミだけになるだろう!」

「何もしねーよ!」

「私が仕事に行く時、一緒に出ようか?」

「スミ…悪い。起こしちゃったな」

「こんな朝早くから、ホテルには入れないだろうし、どうせ私は14時ごろ仕事に行くから」

「そうしよ。俺もうちょっと寝るわ」

テソンは仕方なく、玄関へ向かう。

「スミ、本当に大丈夫?」

「私なら大丈夫だよ」

「わかった。じゃあ行ってきます」

テソンは不満げに家を出た。

14時になり、寿美子とセナはマンションを出た。

「乗れよ」

セナは車の助手席のドアを開けた。

「バスで行きますから、大丈夫です」

「いいから、送らせろ!」

「は、はい…」

そして、車を走らせる。

「セナさんはこれからどうするんですか?ずっとホテル暮らしするつもりですか?やっぱり実家に帰った方が…」

「実家には帰らないって。ババア…あ、いや、母親は俺を見下しているし、昔から合わなかった。わかるだろ?考え方がおかしいんだよ。汚いことだって平気でする人だから」

「でも…ホテル暮らしだとお金が…私が言うのもアレなんですけど、お金あるんですか?」

「心配してくれてんの?お前優しいんだな。金くらいあるよ。一応仕事はしてるから。今はカードしかないけど…」

「そうなんですね」

「スミコはテソンのこと、心底、信じてるんだな」

「はい。信じてます」

「あいつがうらやましいよ。ここまで信じてくれる人がいて。俺なんか、誰もいない…」

「セナさん…」

セナは悲しげな目をしていた。

「テソンのことは信じていいよ。見ててもスミコのこと想っているのがわかった。あいつは裏切ったりするような奴じゃないからな。頑張れよ」

(セナさんって…悪い人じゃない。でもどこか寂しそう…)

寿美子が働く店に着いた。

「あっ、そこの店です!」

「ここ⁈テソンの事務所の近くじゃん」

「そうなんですよ」

セナが、道路を挟んだテソンの事務所を見ると、外にはマスコミが大勢集まっていた。

「あいつも大変だな」

「もうちょっとの辛抱って言ってましたよ。では私、仕事に行ってきます。ありがとうございました。セナさん、お元気で」

「ああ。スミコもな」

セナはしばらく店の近くに車を止めていた。
寿美子が店に入ると、店員が手招きをする。

「どうしたんですか?」

「あの席に座っている男の人知ってる?」

「え?知らないけど」

「寿美子さんいますか?って言われて、もうすぐ来ますって言ったら、来たら教えてくださいって言われたんだけど」

「私に何か用かなぁ…ちょっと行ってくる」

寿美子はその男の人の席に行った。

「あの…私に何か?」

「寿美子さんですか?」

「は、はい。そうですが」

「◯◯マンションに住んでるんですよね?」

「え…?は、はい…」

すると、男はカメラを取り出し、寿美子を撮り出した。

「え⁈ちょっ、ちょっと何なんですか?やめてください!」

「あなたテソンさんの元恋人ですよね?テソンさんは婚約者がいるのに、マンションから出て行かずに付きまとってるんでしょ?相手に悪いと思わないんですか⁈」

(マスコミだ…)

「何言ってるんですか⁈やめてください!」

寿美子は顔を隠すのに必死だった。

「ひどいことをしてると思わないんですか⁈」

顔を隠す寿美子の手を払おうと男が手を出すと、その瞬間、男は突き飛ばされた。
セナが入ってきたのだ。

「セナさん⁈」

「何するんですか、あなた‼︎…え…テソンさん…?」

「違う‼︎勝手に写真撮っていいと思ってんのか⁈こっちに来い!」

セナは男を外に連れ出した。

「離して下さい!」

「誰の指示だ⁈」

「、、、」

「おい!答えろよ!」

セナは男の胸ぐらをつかみ、殴ろうとする。

「わかりました!言いますから~!」

「誰だ⁈」

「ただ… 指示じゃないんです。ある女性から聞いたんです。ここで働く寿美子さんって人が付きまとってるから、テソンさんはお相手の女性と結婚できずに困ってるって」

「はぁ⁈誰がそんなこと!一体誰だよ」

「そ、それは…」

「それに、なんで、お前がスミコのところに行くんだよ!」

「ぼ、僕は記者ですから。記事にするのが仕事ですし」

「結局金ってことか。で、誰がそんなこと話したんだよ!」

「…ほ、本人です」

「本人って?ロックホテルの娘か?」

「…はい」

(マジかよ…)

すると、寿美子の店にマスコミが殺到してきた。

「なんだ⁈おいっ、お前マスコミに話したのか⁈」

「いっ、いいえ!僕は独り占めしたかったから言ってません!もしかしたらロックホテルの娘さんが他にも話したんじゃ…」

「あー!もうめんどくせー‼︎」

マスコミは寿美子にまとわりつく。

「寿美子さんですね?なんでテソンさんに付きまとうんですか⁈」

「婚約者に申し訳ないと思わないんですか⁈」

「テソンさんと同じマンション内に住んでいるって本当ですか⁈」

「ちょっと!スミちゃん!どういうこと⁈」

「すみませんっ。お店に迷惑かけちゃって…」
(もう…どうすればいいの?…)

「行くぞ!」

マスコミを押しのけ、セナは寿美子の手を引き、外へ連れ出す。

「ちょっとあなた何ですか⁈寿美子さん!答えてください!」

「うるせえ、どけ!」

寿美子を車に乗せ、セナは車を走らせた。

「…すみません」

「大丈夫か?」

寿美子はうつむいたまま、何も言葉が出なかった。
セナも何も話さず、ひたすら車を走らせた。
3時間ほど車を走らせ、ようやく止まった。

「降りて」

「ここは?」

「釜山」

「ぷ、釜山⁈どうしてこんなところまで⁈」

「とりあえず、この店に入ろう。何も食ってないから腹が減った」

2人は冷麺家に入る。

「あれじゃ、ソウルにいられないでしょ。特に今日は。もうマスコミの興味はテソンよりスミコの方に向いてるから。マンションにも帰れないだろ」

「ていうか…私って、テソンに付きまとってる女になってるんですね…」

今にも泣き出しそうな寿美子を、セナはじっと見つめる。

「私…どうしたらいいんでしょうか」

「とりあえず、何も考えるな」

「お待たせしました。はい冷麺2杯ねー」

2人は黙って食べる。

「ほら、食えよ」

セナは、寿美子の器にキムチとゆで卵を入れた。

「あ、ありがとうございます」

「もう18時か。これ食ったら泊まるとこ探しに行くぞ」

「えっ?」

「ここら辺は民宿ばっかりだからなぁ。別に民宿でいいよな?」

「私、帰ります!」

「お前、人の話聞いてる?マンションには帰れないって言っただろ!」

「あ…でも帰らなかったらテソンが心配します…」

寿美子はテソンに電話をしようと携帯を取り出すと、充電が切れていた。

「うわ。充電してなかった…」

「テソンには俺が後で電話するから安心しろ」

食べ終えた2人は、いくつか民宿を回るが空いていなかった。

「こんなに空いてないのかよ」

「もういいですよ」

「あそこに行ってみよう」

最後の民宿へ行ってみると、ひと部屋だけ空いていた。

「カード使える?」

「使えるよー」

「泊まるのはこの子だけだから」

「そうかい。じゃこれ部屋のカギねー」

2人で部屋を見に行った。

「セナさんは他に泊まるとこ探すんですか?」

「もう他は空いていないだろうし、車で寝るよ」

「じゃあ、私が車で寝るから、この部屋使ってください」

「女を車で寝させるか⁈危ないだろ!お前はここで寝ろ!」

「じゃ、じゃあまだ19時だし、目の前海なので行ってみません?」

「ああ」

2人は歩いて海辺へ行った。


その頃、テソンはマネージャーと事務所で打ち合わせをしていると、マネージャーの携帯が鳴った。

「はい、もしもし。はい…はい…」

マネージャーの顔が険しくなっていく。

「わかりました…」

「何かあった?」

「テソンさん!マスコミが寿美子さんの職場に殺到したみたいです‼︎」

「え⁈マスコミが⁈どうしてスミのところに⁈」

「なぜか、寿美子さんがテソンさんに付きまとってるせいで、ロックホテルの娘と結婚が進まないってことになっています」

「う、嘘だろ…なんでそうなるんだよ!まだスミは店にいる時間だから、ちょっと行ってくる」

「それが…マスコミが来て、寿美子さん仕事できずにどこかに行ったみたいです」

テソンは寿美子に連絡するが、何度電話をかけても繋がらない。

「マンションにもマスコミがいると思うので、帰られてないと思います」

(まさか…)
テソンはセナに電話をかけた。

「もしもし」

「セナ…今、スミと一緒じゃないよな?」

「一緒にいるけど。俺も電話しようと思ってた」

「どこにいるんだよ!スミに代わってくれ」

「心配するな。スミコは俺が守るから」

「お前!何言ってるんだ!」

「とにかく今日は、そっちに居るとスミコが大変だから戻らない。安心しろ」

そう言うとセナは電話を切り、電源を落とした。

「おい!セナ‼︎セナ‼︎」

この時、テソンは決断した。

「マネージャー、俺、明日ラジオの生放送
入ってるけど、どれだけ聞く人がいると思う?」

「そ、それは…今世間はテソンさんに注目しているし、マスコミもそうだし、明日はかなりたくさんの人がラジオ聴くと思います」

「だよね」
 
テソンは、もう隠さずに寿美子のことを話そうと決めた。


電話を切ったセナは、海辺に座っている寿美子のところに戻った。

「もしかして、テソンからですか?」

「ああ。俺から電話する前にあいつから電話あった。スミコのところにマスコミが来たことを知ったんだな」

「…心配してたでしょ」

「…うん。でも大丈夫だから。今日の事はもう忘れろ」

「セナさん、なんでそこまでしてくれるんですか?」

「…なんでだろ…」
(スミコのこと、放っておけない…から)

2人はしばらく海を眺めていた。

「夜の海って落ち着きますね」

「…ああ」

「そろそろ戻りましょうか。寒くなってきました」

「そうだな」

民宿に戻る途中、セナは車に向かう。

「じゃ、ゆっくり休めよ」

「…は、はい」

部屋に戻った寿美子はセナに申し訳なく感じた。
(セナさんはマスコミから私を守ってくれた。私のために3時間も運転して疲れているはずなのに、車で寝るなんて…)

寿美子はセナの車まで戻った。
中を覗くと、セナは眠っていた。
寿美子が窓を叩くと、気づいたセナはドアを開けた。

「どうしたんだ?」

「部屋で寝てください」

「で、お前が車で寝るのか?ダメだって」

「布団を離して寝ましょう。テソンの弟さんだし、信用してますから」

「わからないよ。俺だって男だから」

「…え?」

「冗談だよ。じゃ、一緒の部屋で寝てやるよ」

(セナさんは悪い人じゃない。本当は心優しい人だもの…)

2人は部屋に行き、離れて布団を敷いた。

「明日どうしたい?職場には行かない方がいいよ」

「はい。とりあえずテソンの家に帰ります」

「じゃ、明日は後部座席に乗れよ。マスコミにバレないように」

「わかりました。それよりテソン心配してないかな…あれから電話ないんですか?」

「あ…うん」
(電源切ってるし…)

「怒ってるのかな…テソン意外とやきもち焼きだからなぁ」

(俺それらしいこと言ったし、それもあるかも…)

「でも、テソンは自分にイラついてると思う。寿美子に迷惑かけてるから」

「テソンは悪くないのに…。しかしここ寒くないですか?」

「確かに。布団に入ったらいいよ。お前が寝付くまでここにいるから」

セナは寿美子の近くに座った。

「え…」

「心配するな。お前なんかに興味ねぇし」

「わ、わかってます…」

寿美子は布団に入った。

「最近お前、色々あって疲れただろ…お前も大変だな…」

「、、、」

「スミコ?」

寿美子を見ると、気持ち良さそうに寝ていた。

(寝ちゃったか…。スミコ…お前のこと放っとけないよ。…初めて会った時から…。俺の気持ち、どうしてくれるんだよ…)


この日、セナは一睡もせずに寿美子を見守っていた。
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