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入学編
第12話 反魔法主義(三)
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◇ ◇ ◇
入学式の片付けが一段落したところで、生徒会室には二人の少女の姿があった。
髪の長い方の少女は椅子に腰掛け、もう一人の髪が短い方の少女は腕を組んで立っている。
「今年の新入生は粒揃いなんだろ?」
「ええ」
「それは楽しみだな」
髪が短い方の少女が尋ねると、もう一人の少女が頷いた。
すると、髪が短い方の少女は口元をにやけさせて、楽しみを隠し切れない様子をあらわにする。
「今年の対抗戦はランチェスター学園の三連覇が懸っている。新人戦のポイントも重要になるな」
「そうね」
「何より今年から本戦にはあいつが出てくる。本戦は厳しくなるから、より新人戦のポイントが肝になってくる」
「プリム女学院のあの娘ね」
「ああ」
対抗戦には新人戦と本戦でそれぞれポイントが設けられており、ポイントを得る条件は細かく設定されている。その中で最終的に最も多くのポイントを獲得した学校が優勝を勝ち取ることができる仕組みだ。如何に多くのポイントを得るかが優勝への分かれ道となる。
プリム女学院はウォール・トゥレス内の南西に位置し、ウィスリン区、ランチェスター区と並んで最も富裕層が集まる区の一つであるプリム区に所在する、国立魔法教育高等学校の十二校ある内の一校だ。
プリム区は十三区の中で最も綺麗な街並みをしていると言われており、最も治安の良い区でもある。そんなプリム区には十二校の中で唯一の女子校であるプリム女学院が存在する。
プリム女学院はランチェスター学園と同じ三大名門に数えられる内の一校だ。唯一の女子校であり、お嬢様学校でもある。
女学生が憧れる学院で、国立魔法教育高等学校に入学することを考えている女子の八割近くは、プリム女学院を志望しているとも言われている。専願併願問わず受験する女子が多い憧憬を向けられる学院だ。
プリム女学院の生徒は、他校の女子生徒から羨望の眼差しを向けられることが多々ある。
教員や事務員、警備員などの学院に勤める者も全員女性で構成されている徹底ぶりだ。
女性はもちろん、男性からも別の意味で憧憬を向けられている。――男性の場合は男子禁制の場所に対する興味本位の視線や、完全に下心満載の不埒な視線などと様々だが。
そしてプリム女学院には、淑女としての礼儀作法や、花嫁教育などを学ぶ授業が設けられている。所謂、フィニッシングスクールというやつだ。専門の学校ではないので、正確にはフィニッシングスクールではないのだが、スクール自体がプリム女学院の教育課程に組み込まれているようなものである。
「確かに本戦は熾烈な争いになるわね」
「――なあ、クラウディア。正直私は対抗戦にあいつが出るのは反則だろうと言いたいよ」
「カオル、気持ちはわかるけれど仕方ないわよ。他校とはいえ、あの娘も私たちと同じ国立魔法教育高等学校の生徒なのだから」
溜息を吐いて思わず愚痴を零すカオルを、クラウディアは苦笑しながら窘める。
どうやらプリム女学院には要注意人物がいるようだ。
ランチェスター学園の優勝を阻む敵として二人が要警戒している者とは、いったいどのような人物なのか。
「いずれにしても対抗戦までまだ時間はあるわ。選手選考も含めてしっかりと準備をしていきましょう」
「そうだな」
その人物のことは対抗戦を迎えれば自ずとわかることだ。
今は選手選考などの事前準備に注力することの方が重要だろう。
ランチェスター学園は自主性を重んじる校風なので、対抗戦に出場する選手の選考は基本的に生徒主導で行われる。生徒会などの要職に就いている者たちが中心となって選手選考を行うのが伝統だ。
「――そういえばお前もプリム女学院を受験したんだよな?」
カオルは以前聞いたことをふと思い出す。
「ええ。受験したわよ。一応、六校受験したもの」
クラウディアは魔法師界の名門であるジェニングス家の令嬢なので、当然プリム女学院も受験していた。
「結果はどうだったんだ?」
「ありがたいことに六校全て受かっていたわ」
「……さすがだな」
クラウディアが受験した全ての学校の試験に合格したという事実に、カオルは素直に感嘆した。
「それでもランチェスター学園に来たんだな」
六校から合格を貰っていたということは、入学する学校を六校の中から選べるということだ。
そしてクラウディアはその六校の中からランチェスター学園を選択した。
プリム女学院という大半の女性が憧れる学院に合格していたのにも拘わらずだ。
「ええ。私は元々ランチェスター学園が第一志望だったもの。他は保険で受験しただけよ」
クラウディアの本命は初めからランチェスター学園だった。
あくまで不合格だった場合のことを考慮して、ランチェスター学園以外の五校を受験したのである。
「プリム女学院は第二候補だったわ」
もしランチェスター学園が不合格で他の学校に合格していたら、その中からプリム女学院を選んでいた。
「お前がランチェスター学園に来てくれて良かったよ。もしお前までプリム女学院に行っていたら、対抗戦とか目も当てられない結果になっていただろうな……」
クラウディアがプリム女学院を選んでいた場合の対抗戦を想像したカオルは、現実逃避しているかのように遠い目をして肩を竦める。
「あなたはプリム女学院受けなかったのよね?」
「ああ。あそこはな……私は性に合わん。むしろ私があそこで勉学に励む姿を想像できるか?」
「ふふ。きっと女の子たちからモテモテだったでしょうね」
「おい。私は女なんだが……。勘弁してくれ」
カオルはプリム女学院に憧れを抱かなかった少数派だ。元々性格的に毛色が合わないので、端から眼中になかったのである。
仮にプリム女学院に通っていた場合の自分の姿を想像したカオルは小さく身震いをし、クラウディアの揶揄うような台詞には顔を顰めて深く溜息を吐きながら肩を竦めた。
「……そうか。お前がランチェスター学園に来ることを決めていたのは、例のお前の王子様が来ることをわかっていたからか?」
少しの間思考を巡らせていたカオルは、合点がいったというように確認の意味も込めてクラウディアのことを弄りながら尋ねる。
「ええ、そうよ。私の全てはあの御方に捧げているもの」
「……」
「対抗戦もあの御方がおられるのだから何も恐れることはないわ」
だが、カオルの弄りは全くと言っていいほど通用しなかった。
クラウディアはさも当然のこととして真顔で肯定したのだ。彼女の瞳には微塵も濁りがなく、むしろ輝きに満ちてすらいるとカオルは思った。
カオルはクラウディアが件の王子様に敬慕しているのを知っていたが、ここまで澄んだ瞳を恥じることなく向けられるとさすがにたじろいでしまう。
「話には聞いていたが、そんなに凄い奴なのか?」
クラウディアから王子様のことを何度か聞かされていたが、ここだけの話、聞いていたカオルは親友の話には話半分で付き合っていたので、あまり鵜呑みにしていなかった。
改めてクラウディアに問い掛けたカオルだったが、彼女はこの時の言動を悔いることになる。
「それはもう素晴らしい御方よ!」
良くぞ訊いてくれましたと言わんばかりに瞳を輝かせて口を開いたクラウディアは、その後しばらく力説することになる。
何故かクラウディアに謎のオーラのような物を幻視したカオルは、瞼を閉じて目頭の辺りを摘まむ行為を数回繰り返し、自分の視界を疑う羽目になった。
その後カオルは長時間も拘束されることとなり、クラウディアの王子様に対する想いを甘く見ていたことにただただ後悔したのであった。
入学式の片付けが一段落したところで、生徒会室には二人の少女の姿があった。
髪の長い方の少女は椅子に腰掛け、もう一人の髪が短い方の少女は腕を組んで立っている。
「今年の新入生は粒揃いなんだろ?」
「ええ」
「それは楽しみだな」
髪が短い方の少女が尋ねると、もう一人の少女が頷いた。
すると、髪が短い方の少女は口元をにやけさせて、楽しみを隠し切れない様子をあらわにする。
「今年の対抗戦はランチェスター学園の三連覇が懸っている。新人戦のポイントも重要になるな」
「そうね」
「何より今年から本戦にはあいつが出てくる。本戦は厳しくなるから、より新人戦のポイントが肝になってくる」
「プリム女学院のあの娘ね」
「ああ」
対抗戦には新人戦と本戦でそれぞれポイントが設けられており、ポイントを得る条件は細かく設定されている。その中で最終的に最も多くのポイントを獲得した学校が優勝を勝ち取ることができる仕組みだ。如何に多くのポイントを得るかが優勝への分かれ道となる。
プリム女学院はウォール・トゥレス内の南西に位置し、ウィスリン区、ランチェスター区と並んで最も富裕層が集まる区の一つであるプリム区に所在する、国立魔法教育高等学校の十二校ある内の一校だ。
プリム区は十三区の中で最も綺麗な街並みをしていると言われており、最も治安の良い区でもある。そんなプリム区には十二校の中で唯一の女子校であるプリム女学院が存在する。
プリム女学院はランチェスター学園と同じ三大名門に数えられる内の一校だ。唯一の女子校であり、お嬢様学校でもある。
女学生が憧れる学院で、国立魔法教育高等学校に入学することを考えている女子の八割近くは、プリム女学院を志望しているとも言われている。専願併願問わず受験する女子が多い憧憬を向けられる学院だ。
プリム女学院の生徒は、他校の女子生徒から羨望の眼差しを向けられることが多々ある。
教員や事務員、警備員などの学院に勤める者も全員女性で構成されている徹底ぶりだ。
女性はもちろん、男性からも別の意味で憧憬を向けられている。――男性の場合は男子禁制の場所に対する興味本位の視線や、完全に下心満載の不埒な視線などと様々だが。
そしてプリム女学院には、淑女としての礼儀作法や、花嫁教育などを学ぶ授業が設けられている。所謂、フィニッシングスクールというやつだ。専門の学校ではないので、正確にはフィニッシングスクールではないのだが、スクール自体がプリム女学院の教育課程に組み込まれているようなものである。
「確かに本戦は熾烈な争いになるわね」
「――なあ、クラウディア。正直私は対抗戦にあいつが出るのは反則だろうと言いたいよ」
「カオル、気持ちはわかるけれど仕方ないわよ。他校とはいえ、あの娘も私たちと同じ国立魔法教育高等学校の生徒なのだから」
溜息を吐いて思わず愚痴を零すカオルを、クラウディアは苦笑しながら窘める。
どうやらプリム女学院には要注意人物がいるようだ。
ランチェスター学園の優勝を阻む敵として二人が要警戒している者とは、いったいどのような人物なのか。
「いずれにしても対抗戦までまだ時間はあるわ。選手選考も含めてしっかりと準備をしていきましょう」
「そうだな」
その人物のことは対抗戦を迎えれば自ずとわかることだ。
今は選手選考などの事前準備に注力することの方が重要だろう。
ランチェスター学園は自主性を重んじる校風なので、対抗戦に出場する選手の選考は基本的に生徒主導で行われる。生徒会などの要職に就いている者たちが中心となって選手選考を行うのが伝統だ。
「――そういえばお前もプリム女学院を受験したんだよな?」
カオルは以前聞いたことをふと思い出す。
「ええ。受験したわよ。一応、六校受験したもの」
クラウディアは魔法師界の名門であるジェニングス家の令嬢なので、当然プリム女学院も受験していた。
「結果はどうだったんだ?」
「ありがたいことに六校全て受かっていたわ」
「……さすがだな」
クラウディアが受験した全ての学校の試験に合格したという事実に、カオルは素直に感嘆した。
「それでもランチェスター学園に来たんだな」
六校から合格を貰っていたということは、入学する学校を六校の中から選べるということだ。
そしてクラウディアはその六校の中からランチェスター学園を選択した。
プリム女学院という大半の女性が憧れる学院に合格していたのにも拘わらずだ。
「ええ。私は元々ランチェスター学園が第一志望だったもの。他は保険で受験しただけよ」
クラウディアの本命は初めからランチェスター学園だった。
あくまで不合格だった場合のことを考慮して、ランチェスター学園以外の五校を受験したのである。
「プリム女学院は第二候補だったわ」
もしランチェスター学園が不合格で他の学校に合格していたら、その中からプリム女学院を選んでいた。
「お前がランチェスター学園に来てくれて良かったよ。もしお前までプリム女学院に行っていたら、対抗戦とか目も当てられない結果になっていただろうな……」
クラウディアがプリム女学院を選んでいた場合の対抗戦を想像したカオルは、現実逃避しているかのように遠い目をして肩を竦める。
「あなたはプリム女学院受けなかったのよね?」
「ああ。あそこはな……私は性に合わん。むしろ私があそこで勉学に励む姿を想像できるか?」
「ふふ。きっと女の子たちからモテモテだったでしょうね」
「おい。私は女なんだが……。勘弁してくれ」
カオルはプリム女学院に憧れを抱かなかった少数派だ。元々性格的に毛色が合わないので、端から眼中になかったのである。
仮にプリム女学院に通っていた場合の自分の姿を想像したカオルは小さく身震いをし、クラウディアの揶揄うような台詞には顔を顰めて深く溜息を吐きながら肩を竦めた。
「……そうか。お前がランチェスター学園に来ることを決めていたのは、例のお前の王子様が来ることをわかっていたからか?」
少しの間思考を巡らせていたカオルは、合点がいったというように確認の意味も込めてクラウディアのことを弄りながら尋ねる。
「ええ、そうよ。私の全てはあの御方に捧げているもの」
「……」
「対抗戦もあの御方がおられるのだから何も恐れることはないわ」
だが、カオルの弄りは全くと言っていいほど通用しなかった。
クラウディアはさも当然のこととして真顔で肯定したのだ。彼女の瞳には微塵も濁りがなく、むしろ輝きに満ちてすらいるとカオルは思った。
カオルはクラウディアが件の王子様に敬慕しているのを知っていたが、ここまで澄んだ瞳を恥じることなく向けられるとさすがにたじろいでしまう。
「話には聞いていたが、そんなに凄い奴なのか?」
クラウディアから王子様のことを何度か聞かされていたが、ここだけの話、聞いていたカオルは親友の話には話半分で付き合っていたので、あまり鵜呑みにしていなかった。
改めてクラウディアに問い掛けたカオルだったが、彼女はこの時の言動を悔いることになる。
「それはもう素晴らしい御方よ!」
良くぞ訊いてくれましたと言わんばかりに瞳を輝かせて口を開いたクラウディアは、その後しばらく力説することになる。
何故かクラウディアに謎のオーラのような物を幻視したカオルは、瞼を閉じて目頭の辺りを摘まむ行為を数回繰り返し、自分の視界を疑う羽目になった。
その後カオルは長時間も拘束されることとなり、クラウディアの王子様に対する想いを甘く見ていたことにただただ後悔したのであった。
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