最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
41 / 141
入学編

第40話 クラブ(五)

しおりを挟む
「――あれは……『状態異常解除リカバー』の術式を効率化しているのか?」

 研究室の一角で壁に掲げてある大きくえがいた術式の前で、複数の部員が陣取って議論を交わしている姿を見たジルヴェスターが呟く。

「わかりますか? そうです。彼らは『状態異常解除リカバー』の効率化を図っています」
「ええ。だいぶ弄っているようですが、根幹の部分には変更を加えていないようですから」

 サラが頷いて肯定すると、それに対してジルヴェスターが理由を述べた。

 ――『状態異常解除リカバー』は第四位階の聖属性魔法であり、状態異常を治癒又は解除する効果を持つ治癒魔法だ。

「……確かに良く見ると、『状態異常解除リカバー』の原型が見て取れるわね」

 術式に目を通したオリヴィアが、その正体を見抜いた。

「俺には全くわからん」
「わたしはなんとなくしかわからない」

 アレックスは門外漢だと言わんばかりに思考を放棄している。
 そしてステラは一生懸命術式を読み取ろうとしているが苦戦しているようだ。

「少々意見を述べても構いませんか?」
「ええ。もちろんです」
「では遠慮なく」

 サラに確認を取ったジルヴェスターは、議論を交わしている部員たちのもとへ歩み寄る。

「――失礼します。少々よろしいですか?」
「ん?」

 背後から聞こえて来た声に振り返った部員たちの視線に、ジルヴェスターは狼狽えることなく向き合う。

 部員はジルヴェスターの後方にサラの姿を捉えた。
 そのまま流れるように視線を向けると、彼女が頷いた。
 彼らはそれだけで状況を一瞬で理解する。

「あ、ああ。なんだ?」
「自分にも興味深い研究でしたので、一つ意見を述べさせて頂きたいのですが」
「そうか。君もの人間なんだな。それで意見とは?」

 国立魔法教育高等学校は、キュース魔法工学院以外は魔法技能師志望の生徒の方が多い。絶対数では魔法工学技師志望の生徒の方が圧倒的に少ないのが現実だ。
 もちろん魔法技能師でも魔法の研究などに興味を持つ者はいるが、やはり珍しい部類になる。
 故に、研究者肌の人間に出会うと親近感を抱く傾向が少なからずある。魔法研究クラブの部員もその例に漏れず、心が少し開いたようだ。

「少し難しく考えすぎではないかと。先人が積み上げてきたものは侮れませんからね」

 ジルヴェスターはそう言うと、傍らにあった筆記用具を手に取って『状態異常解除リカバー』の本来の術式を書き込む。
 そして――

「もっとシンプルでいいと思いますよ。ここをこうして――」

 術式に少しだけ修正を加える。

「これで現状での最良の効率化を図れるのではないかと」

 図形や文字が複雑に組み合っている術式に少しだけ変更を加えただけだ。本当にシンプルな修正だった。――もっとも、造詣のある者でないと容易に理解はできないが。

「これは――」
「凄い! 確かにこれなら発動速度の向上や、魔力消費を抑えられるのでは!?」

 部員たちは驚きと共に好奇心や探求心が刺激され、修正を加えられた術式をまじまじと見入る。

「実際に試してみれば実感できると思いますよ」
「そうだな! 早速試してみよう!」
「MACを用意しろ!」

 ジルヴェスターの言葉に条件反射するかのように相槌を打つと、準備に取り掛かる為に慌ただしく駆け出した。

 その間にジルヴェスターはサラたちのもとに戻る。

「良く一目見ただけで改良点がわかりましたね」
「いえ、ただちょっと得意なんです。こういうの」

 サラがジルヴェスターのことを褒めると、彼は威張るでもなく苦笑を浮かべた。

「ジルは一級技師のライセンスを持っていますから」

 何故かステラが誇らしげに告げる。

「え、本当ですか?」

 ステラの何気ない一言にサラは衝撃を受ける。
 はしたなくならないように控え目に驚いているが、内心は衝撃が駆け巡っていた。

「ええ。一応持っていますね」
「……そうですか。私も四級技師のライセンスを有していますが、一級とは凄いですね」

 サラも四級技師のライセンスを有しているが、それでも学生の身分では充分凄いことだ。

「兼部でも構わないので、是非とも我がクラブに入部して頂けると嬉しいです」

 サラはすかさず勧誘を試みる抜け目なさを備えていた。

 クラブの掛け持ちは認められている。
 魔法研究クラブと工学クラブを兼部している生徒は多い。その他のクラブでも掛け持ちをしている生徒は一定数いる。

「そうですね。興味のある分野なので前向きに検討させて頂きます」
「期待していますね」

 ジルヴェスターとしても魔法の研究に関しては趣味でもあり、仕事にも関わることだ。なので、特別断る理由はなかった。

「私も検討させて頂きます」

 オリヴィアも同調する。

 元々歴史好きで考古学研究の選択科目を専攻する彼女は、元来研究者気質だ。魔法研究にも興味があり、普段から研究をしている。

「私たちはいつでも歓迎致しますよ。是非お待ちしておりますね」

 サラは歓迎の意を示す。

 魔法研究に興味を持つ者の入部を断る理由などない。
 研究者の数だけ視点や考察がある。数の暴力ではないが、人の数だけ知恵が集まるのだ。

 その後、軽く挨拶を交わした一同は、魔法研究クラブの部室を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...