最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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入学編

第46話 襲撃(五)

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 ◇ ◇ ◇

『――委員長!!』

 風紀委員会の執務室で待機していたカオルのもとに、突如念話テレパシーが飛んできた。

『何があった?』

 カオルは慌てることなくすぐさま返事をする。
 念話テレパシーを飛ばしきた相手の声音で、何かが起こったのだと瞬時に判断していた。

『連中を発見しました! 現在西門前で交戦中です!』
『良く見つけた!』
『それと何故か西門が開かれており、続々と侵入されています!』
『何!? それは確かか?』
『はい!』
『……』

 後輩は矢継ぎ早に目の前で起こっていることを伝えていく。

(西門が開かれただと!?)

 カオルは後輩の委員からもたらされた情報に少なくない動揺を受けた。

(学内に連中の協力者が紛れていたというのか!?)

 カオルは思考を巡らすが――

(いや、考えるのは後だ。今は優先すべきことがある)

 一旦思考を放棄し、侵入者に対する対応を優先する為に思考を切り替える。

『――わかった。お前達は引き続き連中を引き付けろ! すぐに応援を向かわせる』
『了解です!』
『無理はするなよ。引き際を見誤るな』
『もちろんです!』

 カオルは念話テレパシーを飛ばしてきた後輩に指示を出した。
 そして念話テレパシーを切ると、風紀委員室にいる委員に指示を飛ばす。

「――西門が破られた!! 現在西門前で交戦中だそうだ! 総員西門に向かえ!!」

 指示を受けた委員は一瞬動揺するが、すぐに気持ちを切り替えて各自速やかに行動に移る。

 西門へ駆け出す者、見回りに出ている委員へ念話テレパシーを飛ばしてカオルの指示を伝える者など複数いる。
 
 当のカオルは風紀委員室を出ると、足早に移動しながら目的の人物へ念話テレパシーを飛ばす。

『――キサラギか?』
『ああ』

 確認するように誰何すいかする声は重低音の渋い声だった。
 カオルが念話テレパシーを飛ばした相手はオスヴァルドであった。

『――単刀直入に言う。西門が破られた』
『何?』
『うちの連中を向かわせたが、他の場所からも来ないとは限らん。そっちから数人出して確認に向かってくれ』

 侵入者が西門から来たのは確認できたが、他の場所からも来ないとは限らない。
 戦力を分散することになるが、侵入ルートを複数用意している可能性はある。決して安易に決めつけることはできない。

『わかった。こちらから人を出そう。余った人員はそちらに回す。好きに使ってくれ』
『ああ。助かる』

 短いやり取りだったが、要件を済ませたので早々に念話テレパシーを切る。
 二人の間に余計な言葉は不要だった。

 オスヴァルドとのやり取りを終えたタイミングで目的の場所へと辿り着く。
 場所は生徒会室だ。

「――クラウディア、入るぞ」

 無作法だがノックをせずに扉を開けて入室する。

「カオル?」

 当然の来訪者にデスクの椅子に腰掛けていたクラウディアは、少し驚いた表情を浮かべる。

「……何かあったのね?」

 だが、カオルの表情と雰囲気を見てすぐに事態を察した。
 緊急事態だと判断した生徒会の面々はカオルの無作法を咎めない。

「ああ――」

 カオルは侵入者の件を伝える。

「西門が!?」
「あわわ」

 生徒会室にいたアンジェリーナとクラーラが驚きをあらわにした。
 アンジェリーナは驚きのあまり席を立ち、クラーラは顔面蒼白になり身を震わせている。

「あらら」

 ビアンカは相変わらず脱力感満載で動揺は見て取れない。

「私も現場に向かう。クラウディアは全体の指揮を頼む」
「そう。あなたも行くのね」

 カオルが生徒会室に赴いたのは事態を伝えることもあるが、クラウディアに全体の指揮を頼む為であった。

 荒事は生徒会ではなく風紀委員の仕事なので、カオルが指揮を執るケースが多い。
 だが、場合によっては別の人間が指揮を執ることもある。今回がその別のケースだ。
 指揮系統を明確にする為に、クラウディアに直接伝えに来たのである。

「わかったわ。気をつけてね」
「ああ」

 クラウディアとカオルが視線を交わす姿は、互いに信頼し合っているのが傍目にも見て取れる一幕だ。

 そして頷いたカオルは生徒会室を後にして駆け出した。

「――アンジェ」
「はい」

 カオルを見送ったクラウディアはアンジェリーナに声を掛ける。

「先生方に事態を報告しに行ってもらえるかしら」
「わかりました」
「職員室にお願いね。今日はまだおられるはずだから」
「はい」

 外に出るのは危険なので、同じ建物内にある職員室に向かうように伝える。

 普段なら既に帰宅している教師は多いが、今日は反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンがランチェスター学園の襲撃を企てているので、学内に残るようにと学園長であるレティが言い残してあった。
 教師陣も学園内に散らばって警邏けいらしているが、職員室に詰めている教師もいる。

 頷いたアンジェリーナは生徒会室を出て行った。

「――では、私は負傷者の受け入れ準備に取り掛かります」

 サラが席を立つ。
 指示を受ける前に自ら行動に移るサラは極めて冷静だった。さすが頼れる副会長だ。

「ええ。お願い」

 クラウディアが頷く。

「チョルルカさん、一緒に来てください」
「は、はい!」

 サラに指名されたクラーラはビクッと身体を震わせると、慌てて返事をしてサラの後について行った。どうやらクラーラに手伝いを頼むようだ。

「行ってらっしゃ~い」

 デスクに上半身をうつ伏せているビアンカが、肘をデスクにつけたまま手を振って見送る。

「本当に来たねぇ~」
「そうね。最善を尽くしましょう」

 ビアンカの呟きに言葉を返すクラウディアは一層気を引き締めた。
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