最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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囚われの親子編

第12話 不審死(三)

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 ◇ ◇ ◇

 翌日の三月二十三日――ジルヴェスターの姿はランチェスター学園にあった。

 ランチェスター学園内にある桜並木を歩いて通学していると、突然背後から声を掛けられた。

「おはよう、ジル」
「ああ、おはよう」

 声の主はレアルであった。
 レアルはジルヴェスターの横に並んで歩みを共にする。

 ちなみにジルヴェスターは突然声を掛けられても全く動じなかった。
 レアルが近付いてきているのは気配で感じ取っていたからだ。

「体調はどうだ?」
「快調とはいかないけど、少しゆっくりできそうだから大丈夫だよ」
「そうか」
「ジルには本当に世話になったね。ありがとう」

 レアルは心の底から感謝していた。
 一歩間違えば命が無かったのだから、いくら感謝してもしきれないだろう。

「体調が万全でない時は壁外には出向かないことだな」
「はは……耳が痛いよ」

 魔法師にとって体調管理は怠れない要素だ。義務と言ってもいい。
 体調次第で生死を分けることが多々ある。少しでも身体に違和感がある場合は素直に休むのが賢明な判断だ。

 事情が事情だったとはいえ、体調管理を怠った自覚があるレアルは苦笑するしかなかった。

「――ところでジルは壁外で何をしていたんだい? 答えられないなら言わなくてもいいけど」

 レアルは気になっていたことを率直に尋ねる。

 魔法師には極秘の任務があるので、その場合は答えられない。
 極秘ではなくても答えたくない場合もあるだろう。
 それに魔法師は自分の手の内を明かすのを忌避する傾向にある。故に、探られるのを嫌い自分の活動内容を口外しないことは良くあることだ。

「別に大したことではないぞ。ただ知的探求心を満たしに行っただけだ」
「そんな散歩にでも行くかのような気軽さで壁外に行くのは君くらいだよ……」
「そんなことはないだろ」
「そんなことあるよ」

 盛大に呆れるレアル。

(特級はみんなそんなものだと思うが……)

 ジルヴェスターは他の特級魔法師のことを脳裏に思い浮かべる。
 特級魔法師を基準に物事を考えては確実に齟齬そごが生じるのだが、そのことについて指摘できる者はこの場には不在であった。

(特級……?)

 特級魔法師のことを一人一人順に思い浮かべていると、記憶にあるとあることが引っ掛かった。

(深層で見つけた肖像画……あれはもしかすると――)

 思考に耽って黙り込んでしまった友人の姿に疑問を抱いたレアルが声を掛ける。

「ジル? どうかした?」
「――あ、いや、すまん。なんでもない。少し考え事をしていた」
「何か光明を見出したような表情だね」

 レアルはジルヴェスターの些細な表情の変化を読み取った。

「ああ。お陰様でな」
「そっか。それは良かったね」

 記憶の片隅で引っ掛かっていた疑問の真相に近付くことができ、胸のつかえが下りる気分だった。

(都合がついたら確認しに行ってみるか)

 ジルヴェスターは脳内で予定を確認する。

「今日を含めて後二日で春季休暇だね」
「そうだな」

 今日は二十三日だ。二十六日から春季休暇を迎える。

「とりあえず僕は寝まくるよ」
「ああ、それがいい。今度は壁外で倒れることがないようにな」
「はは、本当にね」

 ジルヴェスターの揶揄からかいにレアルは笑みを返す。
 彼の春季休暇の予定は、とにかく時間が許す限り寝ることだった。仕事を命じられるかもしれないが、それまでは惰眠を貪る気満々である。
 レベッカにシズカの実家に遊びに行かないかと誘われているが、満足するまで寝てから決めるつもりでいた。

 そうして並木道を通り抜けた二人は校舎に入っていく。

「僕はちょっと職員室に寄って行くからここで失礼するよ」
「そうか」
「改めて先生に謝罪してくる」
「真面目だな」

 レアルは、二十一日は欠席し、二十二日は遅刻している。
 欠席と遅刻をしたこともだが、担任に心配を掛けてしまった。遅刻した時に謝罪しているが簡易だったので、今から改めて話をしに行くつもりだった。真面目な彼らしい誠実さだ。

「それじゃまたね」
「ああ」

 別れの言葉を告げるとレアルは職員室を目指して歩みを再開する。対してジルヴェスターは自分の在籍するクラスの教室へ向けて歩を進めた。
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