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囚われの親子編
第13話 不審死(四)
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◇ ◇ ◇
同日の夕刻――壁内某所。
「姫、邪魔な輩は排除致しましたが、次は如何なさいますか?」
「そうね……」
背後に控えるフランコが尋ねると、ソファで寛ぐ女は手に持つカップをテーブルに置いた。
「トーマス卿にとって都合の悪い者は大方消せたかしら?」
「いえ、まだ残っています」
「そう……」
女は顎に手を当てて考え込む。
「あまりやりすぎるのは問題よね」
「そうですね。過度に刺激してしまうと明らかに不自然になるかと」
女は無意識に組んでいた足を組み替える。すると、ロングスカートが小さく靡く。
「対象者のリストをちょうだい」
「畏まりました」
フランコは恭しく頭を下げると、資料がしまわれている棚の前に移動した。
目当ての資料を手に取り、一度中身を確認する。紙を捲る音が室内に小さく響く。
資料に間違いがないことを確認したフランコは女のもとに戻る。
そして女の斜め前に跪いて恭しく差し出した。
他にも周囲には複数の側仕えの男が控えているが、フランコは敬愛する主の世話は自分がする気満々であった。
「ありがとう」
資料を受け取った女は記されている内容に目を通す。
(流石にグランクヴィスト卿は除外ね……オコギー卿も除外しましょう)
資料に記されているのは人物名であった。
上から順に目を通していくが、最初の二人は七賢人であった。さすがにこの二人には手出しできないと判断し候補から除外する。
(大物すぎるのは駄目。小物すぎるのは意味がない。狙うべきは中堅どころかしら……)
大物だと人望や影響力などを考慮すると手を出すのは躊躇われる。
逆に小物だと排除する意味がない。いてもいなくても変わらないからだ。
大物すぎず、小物すぎず、尚且つ存在すると厄介な者。条件に当てはまる人物を探す。
(いないのならそれでも構わないのだけれど……)
必ずしも誰かを排除する必要はない。
条件に当てはまる者がいないのならば何もしないだけだ。
「マーカス・ベイン……」
リストに目を通していた女の目が、ある一点で止まった。
「その者はグランクヴィスト卿の腹心の一人ですね」
女の目に留まったのはマーカス・ベインという名の者であった。
「標的にするのならば条件に沿う人物かと」
「そうね……」
女は名前を見つめたまま考え込む。
マーカス・ベインはフェルディナンドの腹心の一人だ。
フェルディナンドからの信頼が厚く、清廉潔白で真面目な性格をしており、政治家としての能力も優れている。
年齢は四十歳で比較的若い部類に入るが、政府中枢にもそれなりに影響力を有しており、小物ではなく、大物すぎることもない。
しかし、フェルディナンドの腹心であることからわかるように、後ろ暗いことを企む者にとっては目の上のたん瘤になる人物でもある。
正に女が求める条件に合致する人物だった。
「ベイン卿は魔法師なので、派遣する者の人選には気をつけなければなりませんね」
中級二等魔法師のベインを消すには、相応の相手を送らなければならない。
「なんなら私が赴いても構いませんが」
「いえ、あなたにはしばらくわたくしのそばにいてもらうわ」
「光栄の極みです」
フランコに任せれば滞りなく役目を果たすだろう。
だが、女はしばらくフランコを離す気がなかった。
そのことを伝えられたフランコは、仰々しく片膝をついて恍惚としている。
「――そういえば、トーマス卿は腕の立つ子飼いの魔法師がいると仰っていらしたわね」
「本人の弁が正しければ、中々できる者のようですね」
「今までは彼にとって都合が良くなるように手を回してあげていたけれど、今回は自分でやってもらいましょうか」
「自分でと言っても実行するのは子飼いの魔法師なのですがね」
「ふふ。トーマス卿は非魔法師なのだから仕方がないわよ」
女は今まで何度もトーマスという名の人物にとって都合が良くなるように暗躍し、お膳立てをしてきた。トーマス自身が把握していることも把握していないことも含めてだ。
「彼とは相互利用する関係とはいえ、少し肩入れしすぎたかもしれないわね。今度はこっちが利用させてもらいましょう。彼の為にもなることなのだからちょうどいいでしょう」
「そうですね。それでよろしいかと。使いを出します」
「ええ、お願い」
女とトーマスは互い利用し合う関係だ。都合のいい時に相手の地位、権力、人脈などを頼る。そうやって相互利用し、この国で好きなようにやってきた。
女が話を持ち掛ければ余程のことでもない限りトーマスは断らないだろう。トーマスも必要な時は女を頼るのだから。
フランコは代理で書をしたためると、派遣する使者の選別に取り掛かった。
「はてさて、どのような結末になるのかしら」
女はこの先の顛末を想像して笑みを深める。
(成功しても失敗してもわたくしはどちらでも構わないのだけれど)
今回の件の成否に拘りはない。
極論、面白くて暇潰しにさえなればそれで良かった。
同日の夕刻――壁内某所。
「姫、邪魔な輩は排除致しましたが、次は如何なさいますか?」
「そうね……」
背後に控えるフランコが尋ねると、ソファで寛ぐ女は手に持つカップをテーブルに置いた。
「トーマス卿にとって都合の悪い者は大方消せたかしら?」
「いえ、まだ残っています」
「そう……」
女は顎に手を当てて考え込む。
「あまりやりすぎるのは問題よね」
「そうですね。過度に刺激してしまうと明らかに不自然になるかと」
女は無意識に組んでいた足を組み替える。すると、ロングスカートが小さく靡く。
「対象者のリストをちょうだい」
「畏まりました」
フランコは恭しく頭を下げると、資料がしまわれている棚の前に移動した。
目当ての資料を手に取り、一度中身を確認する。紙を捲る音が室内に小さく響く。
資料に間違いがないことを確認したフランコは女のもとに戻る。
そして女の斜め前に跪いて恭しく差し出した。
他にも周囲には複数の側仕えの男が控えているが、フランコは敬愛する主の世話は自分がする気満々であった。
「ありがとう」
資料を受け取った女は記されている内容に目を通す。
(流石にグランクヴィスト卿は除外ね……オコギー卿も除外しましょう)
資料に記されているのは人物名であった。
上から順に目を通していくが、最初の二人は七賢人であった。さすがにこの二人には手出しできないと判断し候補から除外する。
(大物すぎるのは駄目。小物すぎるのは意味がない。狙うべきは中堅どころかしら……)
大物だと人望や影響力などを考慮すると手を出すのは躊躇われる。
逆に小物だと排除する意味がない。いてもいなくても変わらないからだ。
大物すぎず、小物すぎず、尚且つ存在すると厄介な者。条件に当てはまる人物を探す。
(いないのならそれでも構わないのだけれど……)
必ずしも誰かを排除する必要はない。
条件に当てはまる者がいないのならば何もしないだけだ。
「マーカス・ベイン……」
リストに目を通していた女の目が、ある一点で止まった。
「その者はグランクヴィスト卿の腹心の一人ですね」
女の目に留まったのはマーカス・ベインという名の者であった。
「標的にするのならば条件に沿う人物かと」
「そうね……」
女は名前を見つめたまま考え込む。
マーカス・ベインはフェルディナンドの腹心の一人だ。
フェルディナンドからの信頼が厚く、清廉潔白で真面目な性格をしており、政治家としての能力も優れている。
年齢は四十歳で比較的若い部類に入るが、政府中枢にもそれなりに影響力を有しており、小物ではなく、大物すぎることもない。
しかし、フェルディナンドの腹心であることからわかるように、後ろ暗いことを企む者にとっては目の上のたん瘤になる人物でもある。
正に女が求める条件に合致する人物だった。
「ベイン卿は魔法師なので、派遣する者の人選には気をつけなければなりませんね」
中級二等魔法師のベインを消すには、相応の相手を送らなければならない。
「なんなら私が赴いても構いませんが」
「いえ、あなたにはしばらくわたくしのそばにいてもらうわ」
「光栄の極みです」
フランコに任せれば滞りなく役目を果たすだろう。
だが、女はしばらくフランコを離す気がなかった。
そのことを伝えられたフランコは、仰々しく片膝をついて恍惚としている。
「――そういえば、トーマス卿は腕の立つ子飼いの魔法師がいると仰っていらしたわね」
「本人の弁が正しければ、中々できる者のようですね」
「今までは彼にとって都合が良くなるように手を回してあげていたけれど、今回は自分でやってもらいましょうか」
「自分でと言っても実行するのは子飼いの魔法師なのですがね」
「ふふ。トーマス卿は非魔法師なのだから仕方がないわよ」
女は今まで何度もトーマスという名の人物にとって都合が良くなるように暗躍し、お膳立てをしてきた。トーマス自身が把握していることも把握していないことも含めてだ。
「彼とは相互利用する関係とはいえ、少し肩入れしすぎたかもしれないわね。今度はこっちが利用させてもらいましょう。彼の為にもなることなのだからちょうどいいでしょう」
「そうですね。それでよろしいかと。使いを出します」
「ええ、お願い」
女とトーマスは互い利用し合う関係だ。都合のいい時に相手の地位、権力、人脈などを頼る。そうやって相互利用し、この国で好きなようにやってきた。
女が話を持ち掛ければ余程のことでもない限りトーマスは断らないだろう。トーマスも必要な時は女を頼るのだから。
フランコは代理で書をしたためると、派遣する使者の選別に取り掛かった。
「はてさて、どのような結末になるのかしら」
女はこの先の顛末を想像して笑みを深める。
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