最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
88 / 141
囚われの親子編

第25話 既視感(二)

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇

 三月二十九日――ネーフィス区のレイトナイトにはシズカ、レベッカ、ビアンカの姿があった。

 レイトナイトはネーフィス区の中心から南西方面のウォール・ツヴァイ寄りに位置する町だ。
 レイトナイトはあまり大きい町ではない。小さい町でもないが、長閑のどかさがあり地元民同士の距離感が近い印象を受ける。

 半木骨造の建築物が多く建ち並んでいる中、中心部から少し逸れた場所には一際広大な敷地を囲っている塀と、その内側にある東方式の寝殿造の建物が存在感を放っていた。
 広大な敷地の中には家主一族が暮らす住宅の他に、門下生が暮らす建物や道場、蔵に池などいくつもの施設がある。

 広大な敷地を有する土地の主はシノノメ家だ。
 地元の人々から慕われ、レイトナイトの顔とも言える存在になっている。

 東方から逃れてきた一族の末裔の中でも特に力のあった一族は、祖先が建てた立派な寝殿造の住宅で暮らしている者が多い。
 正にシノノメ家がそれに当てはまる。

 今回レベッカは幼馴染のビアンカと共にシズカの実家に遊びに来ていた。
 初めてシノノメ家を訪れた際は、想像以上に立派な邸宅に度肝抜かれたほどだ。

 そして現在は三人連れ立って街中を散策しているところであった。

 シズカは半端丈で足首が見え、華奢な印象で女性らしさを演出でき、スリムシルエットとセンターシームですっきりしている黒のクロップドパンツを穿いている。
 また、白のブラウスはタックインすることで、より一層美脚が映えるスタイルだ。
 清楚さとラフさを上手く融合させている。
 
 レベッカはデニム素材のショートパンツに、青、黄、黒、白の四色がいろどっていて大人な雰囲気を演出してくれるVネックシャツを合わせている。
 ダメージの入ったショートパンツと合わせることで、ほどよくカジュアルに見せることができている。
 ショートパンツから覗く美脚と、胸元が開いているVネックシャツからあわらになっている豊満な胸が視線を釘付けにしており魅力的だ。

 ビアンカはボディラインを強調するようなベージュのタイトなタートルネックのニットワンピースを着ており、丈の短いスリムなワンピースがフェミニンな印象を演出している。
 黒のロングブーツを履いて、太股は露出している。
 可愛らしさと色っぽさが魅力を引き立て、蠱惑的こわくてきで男性の心を掴んで放さない妖艶さがあった。

 この国は北に行けば行くほど寒くなり、南へ行けば行くほど暑くなる。
 レイトナイトは南寄りの町だ。
 現在、北方はまだ寒さが残っているが、レイトナイトは比較的過ごしやすい気候の時季である。なので、三人の服装でも問題なく過ごすことができていた。

 三人が連れ立って歩いていると場が華やかになり、男女問わず視線が集まってくる。
 
「レアルくん来られなくて残念だねぇ」
「そうね。少しでも休めているといいのだけれど」

 石畳の道を歩いている中、レベッカが残念そうに呟く。
 隣を歩くシズカが頷き、心配する言葉を漏らす。

 元々レベッカはレアルのことを誘っていた。
 本人は都合がつけば検討すると口にしていたが、生憎と外せない所用が入ってしまい断念している。

「せめて何かお土産でも渡してあげるといいよ~」

 来られなかった代わりに、何か労いになるお土産を贈るといいとビアンカが提案する。
 その提案にレベッカとシズカが頷く。

「何が良いかな~」

 レベッカが頬に手を当てて考え込む。

「この辺りの名産となると、食べ物ならうなぎ、工芸品なら焼き物ね」

 シズカがレイトナイト周辺の名産を挙げる。

 レイトナイト周辺には水質の綺麗な川がいくつも流れており、活きが良く栄養価の高い新鮮なうなぎが手に入る。
 周辺には鰻を使った名物が多々あり、近くを訪れた者なら必ずと言っていいほど食べていく代物だ。むしろうなぎを食べる為だけに来る者もいる。

 レイトナイトはシノノメ家が居を構えているだけあり、共に東方から逃れてきた東方人が多く根付いている。
 その中には代々焼き物を生業なりわいにしている一族もいた。その一族の名はイスルギ家という。

 イスルギ家が作った焼き物は現在では名産になるほど価値の高い物となり、イスルギ家及び暖簾のれん分けした者が作った焼き物はイスルギ焼きという銘柄で親しまれている。

うなぎは厳しいだろうし、焼き物がいいかな?」
「彼のイメージには合わないわね」
「ジルくんには合いそう」
「彼、雰囲気が落ち着いているものね」

 レベッカの言う通りうなぎは厳しいかもしれない。
 異空間収納アイテム・ボックスに収納しておけば品質を保てるとはいえ、感情的になまものは受けつけないだろう。そもそも調理が難しいので現実的ではない。
 加工品ならば問題ないかもしれないが、食べ物である以上は好き嫌いが存在する。好みを完全に把握していないのなら食べ物は避けた方が無難だろう。

 その点、焼き物なら問題はない。
 問題があるとすればレアルに送るのに相応しい焼き物があるのかということだ。
 なので、レベッカはシズカの指摘に頷くしかなかった。

 落ち着いた雰囲気を纏っているジルヴェスターには合うかもしれないと二人は思ったが、彼の場合は東方人の文化や歴史を調べる為の研究材料にしてしまうのではないか? という懸念が湧いてきて一抹の不安を覚えた。

「まあ、二人以外のみんなのお土産も用意しないとだし、ゆっくり考えようよ」

 後輩二人の会話を聞いていたビアンカが口を挟む。

 確かにジルヴェスターとレアルの分だけではない。
 ステラやオリヴィア、イザベラにリリアナなど他にもお土産を用意する対象はいる。クラスメイトの分だってある。
 もちろんビアンカも友人に渡すお土産を用意するつもりだ。

「レベッカはジルくんのことで頭がいっぱいかな?」
「――そ、そんなことないし……!」

 ビアンカの揶揄からかいにレベッカはどもりながら否定する。
 髪の隙間から見える耳が赤くなっているのがかわいらしい。

「ま、まあ……ちょっとだけ気合が入っているのは否定しないけど……」

 レベッカは二人には聞こえないほど小さな声量でポツリと呟く。

 実は他の人に渡すお土産よりも、ジルヴェスターに送る物だけはより厳選するつもりでいた。
 少しでも喜んでほしいと健気にも思っていたのだ。

「――と、とにかく!」

 恥ずかしさから逃れる為に話題転換しようと力の籠った声を発する。

「レアルくんは少しでもゆっくり過ごせていたらいいなって話だよ!」
「そうだね~」
「ふふ、そうね」

 ビアンカは慣れたものと軽く受け流し、シズカは微笑ましげに表情を緩める。

「――それじゃ、少しお店を見て回りましょうか」

 シズカが案内を買って出ていくつもの店を覗いて行くことになった。

 しかし三人の想いもむなしく、レアルは心身共に追い詰められていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...