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対抗戦編
第14話 懇親会(二)
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その後もクラウディアと談笑していると、出入口から会場に足を踏み入れる者がいた。
会場にやって来た人物の存在に気がついた者から波及していくように騒がしくなる。
「なんでわたしがわざわざ足を運ばないといけないのよ。そもそもこのホテルはわたしにこそ相応しいでしょ」
一人でやって来た人物は髪を掻き上げながら悪態をつく。明らかに不機嫌だ。
「これも全て前回の対抗戦で総合優勝を逃した所為ね。いくらわたしが天才でも他が足手纏いじゃ孤軍奮闘でしかないし」
その者は入口近くの壁に背中を預けていたジルヴェスターの横を通りすぎていく。
「邪魔よ。凡愚の分際でわたしに余計な手間をかけさせないで」
不遜な態度を隠そうともしない。
他者を等しく見下している目つきをしており、同級生や先輩のことすら扱き下ろす始末だ。
しかも自分が人垣を避けるのではなく、周囲の者たちに道を譲らせている。他校の生徒だろうがお構いなしだ。
「彼女がエレオノーラ・フェトファシディス様です」
クラウディアが小声で告げる。
「……なるほど」
傲岸不遜な態度を垣間見たジルヴェスターは無表情で頷いた。
件の人物――エレオノーラは、特級魔法師である自分に最もグレードの高いホテルを割り当てるべきだと考えているようだ。
それで不満を隠そうともせずに文句を垂れている。
ジルヴェスターは遠ざかっていくエレオノーラの後ろ姿を目線で追う。
エレオノーラは肌が白く、胸元に届かないくらいの長さで毛先が緩くカールしている、燃えるような赤い髪が存在感を放っている。本当に燃えているかのように錯覚するほどだ。
彼女の他者を見下したような目つきは、妖しく光る赤い瞳も相まって高飛車な印象が強まっている。
プリム女学院の制服はタイトなワンピースなので身体の線が良くわかる。
細身でスラっとしていて手足が長い。優れた魔法師故に顔立ちが整っており、間違いなく美少女だ。
しかし明らかに性格に難があるので、男女問わず好かれないだろうことは容易に想像がつく。
「あれは……駄目だな」
そう呟いたジルヴェスターは首を左右に振って肩を竦める。
「プリム女学院の学園長が頭を抱える訳がわかった」
エレオノーラの態度は看過できない。あれでは特級魔法師の地位を貶めてしまう。責任感が欠如している証拠だ。
特級魔法師として最低限は相応しい態度を取ってもらわなければならない。
「俺は彼女になんの恨みもないが、第一席の責任として鼻っ柱を圧し折ってやろう」
「やりすぎないでくださいね」
「善処する」
元々頼まれていたこととはいえ、あまり乗り気ではなかった。
だが実際にエレオノーラの態度を目の当たりにして認識を改めた。話には聞いていたが、想像以上に酷かった。
性根を叩き直してやらねばならない、とジルヴェスターは気を引き締めた。
少々度がすぎてしまうかもしれないが、それは大目に見てもらいたいところだ。
仮想空間創造転送装置のお陰で死ぬことはないのだから。
「二人で何話しているんだ?」
風紀委員の面々を従えていたカオルがひとりでやって来た。
「大したことじゃないわよ」
「そうか」
クラウディアが軽くあしらも、カオルは詮索することなく引き下がる。
元々話題の内容に興味があったわけではなく、声を掛けるきっかけの言葉にすぎなかったのだろう。
「ジルヴェスター君、すまないがクラウディアを借りてもいいか?」
「構いませんよ」
「すまんな」
何故かジルヴェスターに了承を求める。
断る理由はないので首を縦に振るが、釈然としない。
「ご主人様の許可が下りたことだし、クラウディアは少し付き合ってくれ」
「ご主人様だなんて……」
「冗談で言ったのになんで嬉しそうなんだよ……」
照れながら身体をくねらせて恍惚としているクラウディアの様子に、カオルは若干引く。
多幸感に打ち震える姿が妙に色っぽい。
敬慕してやまないジルヴェスターが自分のご主人様になった光景を妄想して悦に入っている。
ジルヴェスター至上主義の彼女らしい反応だ。冗談が全く通用していない。
カオルは深く溜息を吐くと、クラウディアの手を引っ張る。
「プリム女学院の生徒会長を待たせているんだ。さっさと行くぞ」
カオルはプリム女学院に友人がいる。
その友人を介し、プリム女学院の生徒会長に頼まれてクラウディアを呼びに来たのだ。
どうやら大事な話があるらしい。
クラウディアはカオルに連れ去られていく。
二人の後ろ姿を見送ったジルヴェスターはグラスの中身を飲み干す。
すると、今度はオリヴィアがやって来た。
「ジルくん」
困った顔のまま愛想笑いを浮かべている。
「どうした?」
「申し訳ないのだけれど……ちょっと付き合って」
オリヴィアはジルヴェスターの左手を引っ張る。
そして自分の腕を絡めた。
「あそこにいる三人のアプローチがしつこくて」
オリヴィアの視線の先を辿ると、同じ体型、同じ顔の三人組がいた。
「三つ子か」
区別がつかない容姿から察するに三つ子なのだろう。
「ええ。そうらしいわ」
オリヴィアは首肯すると、三つ子がいる方向へと歩き出す。
ジルヴェスターは歩幅を合わせてついて行く。
「男からアプローチされるのはいつものことだろ」
オリヴィアは男性からの人気が高い。
整った顔立ちに男好きのする主張の激しい身体つき。色気のある立ち振る舞いと雰囲気。面倒見が良くて包容力がある人柄。
男の視線を釘付けにしている要因はいくらでも思いつく。
彼女は男の視線を浴びることにもアプローチされることも慣れているので、普段は意に介していない。
「あの三人は全く引き下がる気配がない上に露骨で……」
「そうか」
ほとほと困っていたようで、左手を頬に添えて深く溜息を吐いた。
「だから相手がいるって言えば引き下がると思ったのよ」
「なるほど。俺は男避けか」
「そういうこと」
ジルヴェスターは近くにいたウェイターに中身が空になったグラスを預ける。
事実はどうであれ、恋人がいると伝えることで諦めてくれないだろうかと思った。
その為に体良く使われるのがジルヴェスターの役目というわけだ。
「というわけでお願いね」
「ああ」
オリヴィアはジルヴェスターの顔を見上げながらウインクする。
彼女がジルヴェスターを頼るのには訳があった。
ジルヴェスターが色恋沙汰に関する彼女の頼みを断れないのにも理由がある。
その訳はオリヴィアの両親、兄、叔母、ステラの両親、アーデル、レイチェル、レティしか知らないことだ。
いずれはステラにも話すことになるが、今はまだ時期尚早だ。
「ステラはいいのか?」
いつも一緒にいるはずのステラがいない。
「ええ。レベッカたちに預けたわ」
言われた場所に視線を向けると、そこにはレベッカに餌付けされているステラがいた。
幸せそうに食べ物を詰め込んで頬を膨らませている。
面倒事に巻き込まない為に避難させたのだろう。
ステラはオリヴィアの言うことは素直に聞くので、手間を掛けずに避難させることができたのは幸いだった。
会場にやって来た人物の存在に気がついた者から波及していくように騒がしくなる。
「なんでわたしがわざわざ足を運ばないといけないのよ。そもそもこのホテルはわたしにこそ相応しいでしょ」
一人でやって来た人物は髪を掻き上げながら悪態をつく。明らかに不機嫌だ。
「これも全て前回の対抗戦で総合優勝を逃した所為ね。いくらわたしが天才でも他が足手纏いじゃ孤軍奮闘でしかないし」
その者は入口近くの壁に背中を預けていたジルヴェスターの横を通りすぎていく。
「邪魔よ。凡愚の分際でわたしに余計な手間をかけさせないで」
不遜な態度を隠そうともしない。
他者を等しく見下している目つきをしており、同級生や先輩のことすら扱き下ろす始末だ。
しかも自分が人垣を避けるのではなく、周囲の者たちに道を譲らせている。他校の生徒だろうがお構いなしだ。
「彼女がエレオノーラ・フェトファシディス様です」
クラウディアが小声で告げる。
「……なるほど」
傲岸不遜な態度を垣間見たジルヴェスターは無表情で頷いた。
件の人物――エレオノーラは、特級魔法師である自分に最もグレードの高いホテルを割り当てるべきだと考えているようだ。
それで不満を隠そうともせずに文句を垂れている。
ジルヴェスターは遠ざかっていくエレオノーラの後ろ姿を目線で追う。
エレオノーラは肌が白く、胸元に届かないくらいの長さで毛先が緩くカールしている、燃えるような赤い髪が存在感を放っている。本当に燃えているかのように錯覚するほどだ。
彼女の他者を見下したような目つきは、妖しく光る赤い瞳も相まって高飛車な印象が強まっている。
プリム女学院の制服はタイトなワンピースなので身体の線が良くわかる。
細身でスラっとしていて手足が長い。優れた魔法師故に顔立ちが整っており、間違いなく美少女だ。
しかし明らかに性格に難があるので、男女問わず好かれないだろうことは容易に想像がつく。
「あれは……駄目だな」
そう呟いたジルヴェスターは首を左右に振って肩を竦める。
「プリム女学院の学園長が頭を抱える訳がわかった」
エレオノーラの態度は看過できない。あれでは特級魔法師の地位を貶めてしまう。責任感が欠如している証拠だ。
特級魔法師として最低限は相応しい態度を取ってもらわなければならない。
「俺は彼女になんの恨みもないが、第一席の責任として鼻っ柱を圧し折ってやろう」
「やりすぎないでくださいね」
「善処する」
元々頼まれていたこととはいえ、あまり乗り気ではなかった。
だが実際にエレオノーラの態度を目の当たりにして認識を改めた。話には聞いていたが、想像以上に酷かった。
性根を叩き直してやらねばならない、とジルヴェスターは気を引き締めた。
少々度がすぎてしまうかもしれないが、それは大目に見てもらいたいところだ。
仮想空間創造転送装置のお陰で死ぬことはないのだから。
「二人で何話しているんだ?」
風紀委員の面々を従えていたカオルがひとりでやって来た。
「大したことじゃないわよ」
「そうか」
クラウディアが軽くあしらも、カオルは詮索することなく引き下がる。
元々話題の内容に興味があったわけではなく、声を掛けるきっかけの言葉にすぎなかったのだろう。
「ジルヴェスター君、すまないがクラウディアを借りてもいいか?」
「構いませんよ」
「すまんな」
何故かジルヴェスターに了承を求める。
断る理由はないので首を縦に振るが、釈然としない。
「ご主人様の許可が下りたことだし、クラウディアは少し付き合ってくれ」
「ご主人様だなんて……」
「冗談で言ったのになんで嬉しそうなんだよ……」
照れながら身体をくねらせて恍惚としているクラウディアの様子に、カオルは若干引く。
多幸感に打ち震える姿が妙に色っぽい。
敬慕してやまないジルヴェスターが自分のご主人様になった光景を妄想して悦に入っている。
ジルヴェスター至上主義の彼女らしい反応だ。冗談が全く通用していない。
カオルは深く溜息を吐くと、クラウディアの手を引っ張る。
「プリム女学院の生徒会長を待たせているんだ。さっさと行くぞ」
カオルはプリム女学院に友人がいる。
その友人を介し、プリム女学院の生徒会長に頼まれてクラウディアを呼びに来たのだ。
どうやら大事な話があるらしい。
クラウディアはカオルに連れ去られていく。
二人の後ろ姿を見送ったジルヴェスターはグラスの中身を飲み干す。
すると、今度はオリヴィアがやって来た。
「ジルくん」
困った顔のまま愛想笑いを浮かべている。
「どうした?」
「申し訳ないのだけれど……ちょっと付き合って」
オリヴィアはジルヴェスターの左手を引っ張る。
そして自分の腕を絡めた。
「あそこにいる三人のアプローチがしつこくて」
オリヴィアの視線の先を辿ると、同じ体型、同じ顔の三人組がいた。
「三つ子か」
区別がつかない容姿から察するに三つ子なのだろう。
「ええ。そうらしいわ」
オリヴィアは首肯すると、三つ子がいる方向へと歩き出す。
ジルヴェスターは歩幅を合わせてついて行く。
「男からアプローチされるのはいつものことだろ」
オリヴィアは男性からの人気が高い。
整った顔立ちに男好きのする主張の激しい身体つき。色気のある立ち振る舞いと雰囲気。面倒見が良くて包容力がある人柄。
男の視線を釘付けにしている要因はいくらでも思いつく。
彼女は男の視線を浴びることにもアプローチされることも慣れているので、普段は意に介していない。
「あの三人は全く引き下がる気配がない上に露骨で……」
「そうか」
ほとほと困っていたようで、左手を頬に添えて深く溜息を吐いた。
「だから相手がいるって言えば引き下がると思ったのよ」
「なるほど。俺は男避けか」
「そういうこと」
ジルヴェスターは近くにいたウェイターに中身が空になったグラスを預ける。
事実はどうであれ、恋人がいると伝えることで諦めてくれないだろうかと思った。
その為に体良く使われるのがジルヴェスターの役目というわけだ。
「というわけでお願いね」
「ああ」
オリヴィアはジルヴェスターの顔を見上げながらウインクする。
彼女がジルヴェスターを頼るのには訳があった。
ジルヴェスターが色恋沙汰に関する彼女の頼みを断れないのにも理由がある。
その訳はオリヴィアの両親、兄、叔母、ステラの両親、アーデル、レイチェル、レティしか知らないことだ。
いずれはステラにも話すことになるが、今はまだ時期尚早だ。
「ステラはいいのか?」
いつも一緒にいるはずのステラがいない。
「ええ。レベッカたちに預けたわ」
言われた場所に視線を向けると、そこにはレベッカに餌付けされているステラがいた。
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