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第一章 都合のいい女と憧れの女性
第12話 キス
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「私も悠くんのことは大好きだけど、私の好きは悠くんの好きと違う意味なの」
「うん……それもわかってる」
私を抱き締めている悠くんの腕から少しだけ力が抜けていく。
まるで気持ちが沈んで行っているのを表しているかのようで、居ても立っても居られなくなった私は、反射的に右手を彼の腕に添えていた。
あれ……? もしかして、手を添えたら逃がさないよ? と言っていることにならない?
もちろん私にはそんなつもりは全くないけれど、悠くんにそう思わせてしまっても仕方がない行為だと思う……。
心配と言うか、慰めるつもりだったと言うか――あくまでも寄り添うつもりで手を添えただけ。
でも相手からしたら、腕を掴まれて離れられないようにされていると思ってしまうかもしれない。
勘違いさせてしまう可能性があることをしてしまったのは、ちょっと軽率だったかもしれない……。
「舞さん」
「なぁに?」
いつもと変わらないトーンで私が返事をすると、悠くんは一拍置いてから絞り出すように囁く。
「……せめてキスしてもいい?」
「――え」
その言葉に私の頭の中は動揺で埋め尽くされてしまった。
「な、なに言ってるの」
「お願い」
「そんなのダメに決まっているでしょう」
少し強めの語気で拒否するが――
「舞さんとキスできたら、それを思い出にこの先も過ごしていけると思うから……」
と弱々しい声音で言われ、私の心が揺らいでしまう。
「そんなこと言われても……」
悠くんのためならなんでもする覚悟はあるけれど、さすがにキスとなると話は別。
求められることは嬉しい。でも私は既婚者で、彼は親友の息子だから、越えてはいけない一線がある。
「舞さん……」
悠くんは消え入りそうな声で呟くと、私が痛くならないに気をつけながら腕に力を入れて、ぎゅっと抱き締めてきた。
その弱々しい声に私の胸が締めつけられる。
今日、何度目になるかわからない痛みが私を襲う。
何度味わってもこの痛みだけは慣れそうにない。
悠くんが辛い思いをするのも、悲しそうにしているのも、私にとっては一番心を抉られることなのだと身を以て実感した。
元はと言えば、私がもっと早く彼の気持ちに気づいてあげられていたら良かったこと。そうしたら悠くんは長い期間こんなに苦しまずに済んだはずだもの。
それに彼が私のことを好きになるきっかけを作ったのは、ほかならぬ私自身なのだろう。
だから私にも責任の一端はある。
責任を取るのとは違うけれど、もし私とキスすることで彼の心が少しでも安らぐなら、一考の余地はあるのかもしれない。
息子同然だからと突き放すべきか、彼の求めに応えてキスを許すのか、いったいどちらが最良の選択なのかしら……。
突き放したら彼は諦めて気持ちを切り替えられるのかな?
逆にやるせない気持ちを一層募らせて、今以上に苦しませてしまわないだろうか?
それともキスしたら前向きな気持ちになれて、新しい恋に向かうことができるのかしら?
でもキスしたらしたで、余計に諦めがつかなくなってしまう可能性もあるよね?
背中越しに悠くんの心臓の鼓動が伝わってくるけれど、脈を打つ速度が平常時よりも激しい気がする。
きっと告白するのに相当勇気を振り絞ったんだと思う。だから彼は彼で緊張していていっぱいいっぱいなのかもしれない。
十代の男の子が覚悟を決めて想いを伝えてくれたのに、すげなく突き放すのはいくらなんでも酷じゃないかしら……。
少しくらいはなにかしらの形で報われてもいいと思う。
そのなにかしらの形が悠くんの求めるキスなのだとしたら、余計に突き放すのが忍びない……。
駄目……いくら考えても答えが出ない。
なにが正解で、なにが不正解なの……。
本当にどうしたらいいのかしら……。
「沈黙は肯定と受け取るよ?」
「え、あっ、ちょっ――」
私がなにもアクションを起こさずに考え込んでしまっていたのがいけなかった。
業を煮やした悠くんは、器用に私の身体と顔の向きを自分の方に向けさせた。
そして腰を少し屈めて顔を近づけてくると、強引に私の唇を奪ったのだ!
不意打ちを食らった私は動揺と困惑で頭の中が真っ白になった。
そんな状態でも、私と悠くんの唇が重なっている感触はしっかりと伝わってくる。
さっきまで鶏の唐揚げを食べていたからか、彼の唇は油で滑らかになっていて思いの外柔らかい。
――って、そんな呑気に唇の感触に意識を向けている場合じゃない!
いつまでもキスを許すわけにはいかないと、私は自分の頭を後方に下げようとした。
しかし、悠くんが左手で私の後頭部をしっかりと抑えており、離れることができない。
さすがにこれ以上はいろいろとまずい……。
既婚者の私と、親友の息子である悠くんがキスをするという背徳的な状況は許されることじゃない。
なにより問題なのは、久々のキスに私の心が満たされてしまっていること……。
眠っていた女の部分が目覚めようとしている感覚が全身を駆け巡っている。
だからこれ以上は本当にまずい。
そう内心で焦っていると、悠くんの唇が離れた。
体感では物凄く長く感じた時間――実際には一分くらいしか経っていない――キスされていたから、私はやっと解放されたと安堵して胸中でほっと息を吐いた。
しかし、その安堵は一瞬で消え去る。
なぜなら、悠くんが再び唇を重ねてきたからだ!
しかも今度はただのキスではなかった。
悠くんは舌で私の唇をノックすると、そのまま口内にねじ込んできたのだ!
――ちょ、舌を入れるのは聞いてないんですけど……!?
安堵感から完全に油断していた私は、いとも容易く口内への侵入を許してしまうのであった。
「うん……それもわかってる」
私を抱き締めている悠くんの腕から少しだけ力が抜けていく。
まるで気持ちが沈んで行っているのを表しているかのようで、居ても立っても居られなくなった私は、反射的に右手を彼の腕に添えていた。
あれ……? もしかして、手を添えたら逃がさないよ? と言っていることにならない?
もちろん私にはそんなつもりは全くないけれど、悠くんにそう思わせてしまっても仕方がない行為だと思う……。
心配と言うか、慰めるつもりだったと言うか――あくまでも寄り添うつもりで手を添えただけ。
でも相手からしたら、腕を掴まれて離れられないようにされていると思ってしまうかもしれない。
勘違いさせてしまう可能性があることをしてしまったのは、ちょっと軽率だったかもしれない……。
「舞さん」
「なぁに?」
いつもと変わらないトーンで私が返事をすると、悠くんは一拍置いてから絞り出すように囁く。
「……せめてキスしてもいい?」
「――え」
その言葉に私の頭の中は動揺で埋め尽くされてしまった。
「な、なに言ってるの」
「お願い」
「そんなのダメに決まっているでしょう」
少し強めの語気で拒否するが――
「舞さんとキスできたら、それを思い出にこの先も過ごしていけると思うから……」
と弱々しい声音で言われ、私の心が揺らいでしまう。
「そんなこと言われても……」
悠くんのためならなんでもする覚悟はあるけれど、さすがにキスとなると話は別。
求められることは嬉しい。でも私は既婚者で、彼は親友の息子だから、越えてはいけない一線がある。
「舞さん……」
悠くんは消え入りそうな声で呟くと、私が痛くならないに気をつけながら腕に力を入れて、ぎゅっと抱き締めてきた。
その弱々しい声に私の胸が締めつけられる。
今日、何度目になるかわからない痛みが私を襲う。
何度味わってもこの痛みだけは慣れそうにない。
悠くんが辛い思いをするのも、悲しそうにしているのも、私にとっては一番心を抉られることなのだと身を以て実感した。
元はと言えば、私がもっと早く彼の気持ちに気づいてあげられていたら良かったこと。そうしたら悠くんは長い期間こんなに苦しまずに済んだはずだもの。
それに彼が私のことを好きになるきっかけを作ったのは、ほかならぬ私自身なのだろう。
だから私にも責任の一端はある。
責任を取るのとは違うけれど、もし私とキスすることで彼の心が少しでも安らぐなら、一考の余地はあるのかもしれない。
息子同然だからと突き放すべきか、彼の求めに応えてキスを許すのか、いったいどちらが最良の選択なのかしら……。
突き放したら彼は諦めて気持ちを切り替えられるのかな?
逆にやるせない気持ちを一層募らせて、今以上に苦しませてしまわないだろうか?
それともキスしたら前向きな気持ちになれて、新しい恋に向かうことができるのかしら?
でもキスしたらしたで、余計に諦めがつかなくなってしまう可能性もあるよね?
背中越しに悠くんの心臓の鼓動が伝わってくるけれど、脈を打つ速度が平常時よりも激しい気がする。
きっと告白するのに相当勇気を振り絞ったんだと思う。だから彼は彼で緊張していていっぱいいっぱいなのかもしれない。
十代の男の子が覚悟を決めて想いを伝えてくれたのに、すげなく突き放すのはいくらなんでも酷じゃないかしら……。
少しくらいはなにかしらの形で報われてもいいと思う。
そのなにかしらの形が悠くんの求めるキスなのだとしたら、余計に突き放すのが忍びない……。
駄目……いくら考えても答えが出ない。
なにが正解で、なにが不正解なの……。
本当にどうしたらいいのかしら……。
「沈黙は肯定と受け取るよ?」
「え、あっ、ちょっ――」
私がなにもアクションを起こさずに考え込んでしまっていたのがいけなかった。
業を煮やした悠くんは、器用に私の身体と顔の向きを自分の方に向けさせた。
そして腰を少し屈めて顔を近づけてくると、強引に私の唇を奪ったのだ!
不意打ちを食らった私は動揺と困惑で頭の中が真っ白になった。
そんな状態でも、私と悠くんの唇が重なっている感触はしっかりと伝わってくる。
さっきまで鶏の唐揚げを食べていたからか、彼の唇は油で滑らかになっていて思いの外柔らかい。
――って、そんな呑気に唇の感触に意識を向けている場合じゃない!
いつまでもキスを許すわけにはいかないと、私は自分の頭を後方に下げようとした。
しかし、悠くんが左手で私の後頭部をしっかりと抑えており、離れることができない。
さすがにこれ以上はいろいろとまずい……。
既婚者の私と、親友の息子である悠くんがキスをするという背徳的な状況は許されることじゃない。
なにより問題なのは、久々のキスに私の心が満たされてしまっていること……。
眠っていた女の部分が目覚めようとしている感覚が全身を駆け巡っている。
だからこれ以上は本当にまずい。
そう内心で焦っていると、悠くんの唇が離れた。
体感では物凄く長く感じた時間――実際には一分くらいしか経っていない――キスされていたから、私はやっと解放されたと安堵して胸中でほっと息を吐いた。
しかし、その安堵は一瞬で消え去る。
なぜなら、悠くんが再び唇を重ねてきたからだ!
しかも今度はただのキスではなかった。
悠くんは舌で私の唇をノックすると、そのまま口内にねじ込んできたのだ!
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