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第二章 条件彼女
第3話 話
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◇ ◇ ◇
高校の最寄り駅の近くにあるカラオケに移動した俺たちは、ドリンクを片手に人心地ついていた。俺はブラックのアイスコーヒーで、有坂はウーロン茶だ。
汗をかくほどではなかったが、今日は日差しが強くて気温が高めだったので、エアコンの温度設定を少しだけ下げた。
そしてウーロン茶で喉を潤していた有坂がグラスをテーブルに置いたタイミングで、俺は単刀直入に尋ねる。
「それで話ってなんだ?」
急かしているわけではないが、歌うのが目的ではなかったからカラオケには一時間の利用で入室している。故に、あまりのんびりしていてはあっという間に利用時間が過ぎてしまう。
まあ、時間が足りなければ延長すればいいだけなので気長に待つつもりだ。話しづらいことだったら心の準備がいるだろうしな。
しかし、そんな俺の気遣いは杞憂だったようで、有坂はすぐに口を開いた。
「ここ一ケ月くらい氷室君に呼ばれることがなかったから、どうしたのかなと思って……」
「そうだったか……?」
「うん。そうだよ」
有坂は窺うような視線を向けてくるが、自覚がなかった俺は首を傾げてしまう。
心配、不安、寂しさが内包した複雑な表情をしている彼女が頷く姿を見て、一気に罪悪感が押し寄せてきた。
有坂と今の関係になってから一ケ月もご無沙汰だったのは初めてだ。
今までは俺が彼女を呼び出してそういうことをすることが多かった。
逆に有坂に誘われることもたまにあったから、どんなに忙しくても一週間に一度は会っていた。
もちろん放課後や休日の話であって、学校は例外だ。クラスメイトだから学校では必然的に顔を会わせることになるからな。
誤解がないように言っておくが、有坂といるからって必ずそういうことをしているわけではない。
ただ純粋に遊ぶだけの日や、一緒に勉強するだけの日もある。――まあ、そういうことをする時のほうが圧倒的に多いのだが。
「もしかして……わたしはもう用済みだったりする……?」
不安に揺らぐ瞳が俺に突き刺さり言葉に窮するが、有坂は慌て気味に再度口を開いた。
「――ご、ごめん。今のはなしで! 聞かなかったことにして!」
そう言いながら顔の前で両手を振る。
「今のはちょっと卑怯な言い方だったから……ごめんね」
「いや、それは気にしないでくれ。悪いのは俺のほうだ」
そうだ。悪いのは完全に俺である。
ここ一ケ月は舞さんにアピールすることに夢中で、有坂のことを疎かにしていた。
しかも俺はそのことに全く自覚がなかった。
ただのセフレなんだから気にすることないだろ、と言う人もいるかもれないが、有坂は俺の事情を知った上で全てを受け止めてくれている。彼女が俺に好意を寄せていることを知りながら、都合良く利用しているのだ。
そんな彼女のことを無下に扱いたくないと思っていたのに、この体たらくである。
有坂のことは魅力的な女性だと思っているが、恋愛的は意味で好きなわけではない。
だが、共に過ごすうちに自然と情が湧いてくるものだ。
別に彼女に限った話ではない。ほかのセフレや友達――男女問わず――にも当てはまる。
一緒に過ごしていれば誰だって大なり小なり情が湧いてくるものだろう。
その点、互いの気持ちを知った上で関係を結んでいる有坂には特に情が湧いている。
鬱屈した感情を全て受け止めてくれて、嘘偽りない好意を向けてくれる彼女に情が湧かないわけがない。
感謝してもしきれない彼女のことを疎かにしてしまった事実に、自分が情けなくなる。
これでは有坂が自分はもう用済みだと思ってしまうのは無理もない。今まで一ケ月もご無沙汰だったことがないだけに尚更。
だから、有坂にはちゃんと事情を説明しないといけない。それが筋だ。
「すまん。ずっと好きだった人にアプローチするのに夢中で、有坂のことを疎かにしてしまった……」
誠意を込めて頭を下げると、有坂は呆気に取られた表情で「そうだったんだ……」と呟いた。
「ああ。実は――」
顔を上げた俺は、なにがあったのかを詳細に説明する。
もちろん、勝手に他人のプライベートのことを漏らすわけにはいかないので、舞さんの事情に関しては話しても大丈夫な部分だけを取捨選択して伝えた。
「――そっか……。舞さん? の境遇を考えると失礼だけど、やっと氷室君にチャンスが巡ってきたんだね」
有坂は舞さんの名前を間違えていないか確認するように言いながら、穏やかな口調で言葉を続けた。
「そういうことになるな」
「良かったね」
自分の好きな男が別の女性にアプローチするようになったと知っても、有坂は微笑んでくれる。
その事実に俺は嬉しさを感じつつも、心にチクりと棘が刺さる感覚もあった。
俺は有坂の気持ちを知っていながらセフレとして都合良く利用しているのに、別の女性にアプローチしている。
彼女は全て承知の上で今の関係を続けてくれているが、だからと言って俺がやっている行為は許されることではない。
有坂に残酷な仕打ちをしているのだから、沸々と湧いてくる罪悪感に苛まれるのが俺の罰に相応しい。――それも自己満足なのかもしれないが。
しかし、酷いことをしている自覚がありながらも、俺は舞さんのことを諦められないんだ。
どうしようもなく舞さんのことが好きだから、仮に有坂に恨まれることになってもアプローチするのはやめられない。
にも拘わらず、有坂には幸せになってほしいと思っている。本当に自分勝手で都合がいいことこの上ないが、そう願ってしまうんだ。
高校の最寄り駅の近くにあるカラオケに移動した俺たちは、ドリンクを片手に人心地ついていた。俺はブラックのアイスコーヒーで、有坂はウーロン茶だ。
汗をかくほどではなかったが、今日は日差しが強くて気温が高めだったので、エアコンの温度設定を少しだけ下げた。
そしてウーロン茶で喉を潤していた有坂がグラスをテーブルに置いたタイミングで、俺は単刀直入に尋ねる。
「それで話ってなんだ?」
急かしているわけではないが、歌うのが目的ではなかったからカラオケには一時間の利用で入室している。故に、あまりのんびりしていてはあっという間に利用時間が過ぎてしまう。
まあ、時間が足りなければ延長すればいいだけなので気長に待つつもりだ。話しづらいことだったら心の準備がいるだろうしな。
しかし、そんな俺の気遣いは杞憂だったようで、有坂はすぐに口を開いた。
「ここ一ケ月くらい氷室君に呼ばれることがなかったから、どうしたのかなと思って……」
「そうだったか……?」
「うん。そうだよ」
有坂は窺うような視線を向けてくるが、自覚がなかった俺は首を傾げてしまう。
心配、不安、寂しさが内包した複雑な表情をしている彼女が頷く姿を見て、一気に罪悪感が押し寄せてきた。
有坂と今の関係になってから一ケ月もご無沙汰だったのは初めてだ。
今までは俺が彼女を呼び出してそういうことをすることが多かった。
逆に有坂に誘われることもたまにあったから、どんなに忙しくても一週間に一度は会っていた。
もちろん放課後や休日の話であって、学校は例外だ。クラスメイトだから学校では必然的に顔を会わせることになるからな。
誤解がないように言っておくが、有坂といるからって必ずそういうことをしているわけではない。
ただ純粋に遊ぶだけの日や、一緒に勉強するだけの日もある。――まあ、そういうことをする時のほうが圧倒的に多いのだが。
「もしかして……わたしはもう用済みだったりする……?」
不安に揺らぐ瞳が俺に突き刺さり言葉に窮するが、有坂は慌て気味に再度口を開いた。
「――ご、ごめん。今のはなしで! 聞かなかったことにして!」
そう言いながら顔の前で両手を振る。
「今のはちょっと卑怯な言い方だったから……ごめんね」
「いや、それは気にしないでくれ。悪いのは俺のほうだ」
そうだ。悪いのは完全に俺である。
ここ一ケ月は舞さんにアピールすることに夢中で、有坂のことを疎かにしていた。
しかも俺はそのことに全く自覚がなかった。
ただのセフレなんだから気にすることないだろ、と言う人もいるかもれないが、有坂は俺の事情を知った上で全てを受け止めてくれている。彼女が俺に好意を寄せていることを知りながら、都合良く利用しているのだ。
そんな彼女のことを無下に扱いたくないと思っていたのに、この体たらくである。
有坂のことは魅力的な女性だと思っているが、恋愛的は意味で好きなわけではない。
だが、共に過ごすうちに自然と情が湧いてくるものだ。
別に彼女に限った話ではない。ほかのセフレや友達――男女問わず――にも当てはまる。
一緒に過ごしていれば誰だって大なり小なり情が湧いてくるものだろう。
その点、互いの気持ちを知った上で関係を結んでいる有坂には特に情が湧いている。
鬱屈した感情を全て受け止めてくれて、嘘偽りない好意を向けてくれる彼女に情が湧かないわけがない。
感謝してもしきれない彼女のことを疎かにしてしまった事実に、自分が情けなくなる。
これでは有坂が自分はもう用済みだと思ってしまうのは無理もない。今まで一ケ月もご無沙汰だったことがないだけに尚更。
だから、有坂にはちゃんと事情を説明しないといけない。それが筋だ。
「すまん。ずっと好きだった人にアプローチするのに夢中で、有坂のことを疎かにしてしまった……」
誠意を込めて頭を下げると、有坂は呆気に取られた表情で「そうだったんだ……」と呟いた。
「ああ。実は――」
顔を上げた俺は、なにがあったのかを詳細に説明する。
もちろん、勝手に他人のプライベートのことを漏らすわけにはいかないので、舞さんの事情に関しては話しても大丈夫な部分だけを取捨選択して伝えた。
「――そっか……。舞さん? の境遇を考えると失礼だけど、やっと氷室君にチャンスが巡ってきたんだね」
有坂は舞さんの名前を間違えていないか確認するように言いながら、穏やかな口調で言葉を続けた。
「そういうことになるな」
「良かったね」
自分の好きな男が別の女性にアプローチするようになったと知っても、有坂は微笑んでくれる。
その事実に俺は嬉しさを感じつつも、心にチクりと棘が刺さる感覚もあった。
俺は有坂の気持ちを知っていながらセフレとして都合良く利用しているのに、別の女性にアプローチしている。
彼女は全て承知の上で今の関係を続けてくれているが、だからと言って俺がやっている行為は許されることではない。
有坂に残酷な仕打ちをしているのだから、沸々と湧いてくる罪悪感に苛まれるのが俺の罰に相応しい。――それも自己満足なのかもしれないが。
しかし、酷いことをしている自覚がありながらも、俺は舞さんのことを諦められないんだ。
どうしようもなく舞さんのことが好きだから、仮に有坂に恨まれることになってもアプローチするのはやめられない。
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