君の痴態が忘れられないんだ。

雅鳳飛恋

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第5話 来訪

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 五月中旬。
 紫苑の痴態を目撃した日から五日経った。

 その間実親は学校で紫苑と何度かすれ違ったが、目線が合うことも何か言われることもなかった。
 彼女は情事を見られたことは本当に気にしていないように見受けられた。

 実親は自分だけ紫苑のことを意識しているのかと思い複雑な心境になり、溜息を吐くという行為を何度か繰り返すのが五日間での恒例になっている。
 五日経っても紫苑の痴態が脳裏に焼き付いて離れず、下半身が元気になってしまう自分が情けなくなった。

 今日は週末の日曜日だ。
 悟の再婚相手の家族と顔合わせをする予定になっている。

 部屋で執筆していた実親は脳内で紫苑の痴態が再生されており、あまり集中出来ていなかった。
 一度時計に目をやる。

 現在の時刻は十時前。
 一時頃に父が相手の家族を家に連れて来る手筈なので、そろそろ準備をしておいた方が良い時間だ。
 顔合わせが主目的だが、再婚したら同居することになるので家の下見も兼ねている。

「シャワーでも浴びるか」
 
 脳内で何度も再生される紫苑の痴態を振り払う為に気分転換することにした。
 失礼のないように身嗜みを整える意味もある。

 着替えを持って一階へ移動し、浴室へと向かう。
 衣服を脱ぎ去ると、浴室の扉を開けて中に入る。

 シャワーを流し、昨夜と同じようにまだお湯になる前の冷水を頭から浴びる。
 紫苑の痴態の所為で少し火照っていた身体が冷めていく。

 段々お湯になっていくシャワーを浴びながら、今日対面する悟の再婚相手の家族について思考する。 
 今日初めて会うので多少は緊張するが、家族になるのでそのうち慣れるだろう。

 相手の女性には二人の娘がいると言っていた。
 しかも一人は自分と同い年。
 同い年の女子が妹になることが非現実的で実感が湧かず、兄妹として過ごす想像が上手く出来ない。

 同い年の女子という単語に、折角振り払った紫苑の痴態が再び脳内で再生されてしまう。

「はぁー」

 昨夜三発も処理したにも拘わらず、性懲りもなく元気になってしまう自分の下半身に目を向け、つい情けなくなり溜息を吐いてしまった。

 実親の脳裏に自らの痴態を深く刻み込んだ紫苑は魔性の力でも宿しているのかもしれない。

 この後顔合わせがあるので、このままではいけないと思った実親は自分で一発抜くことにした。

◇ ◇ ◇

 昼食を摂った実親は、リビングにあるソファに腰を下ろしてニュースを観ながら父が相手の家族を連れて来るのを待っていた。

 テレビ画面の時刻表示に目を向けると、現在の時刻は十二時五十分。
 そろそろ父が連れて来るかな、と思ったところで外で車が止まる音がした。
 耳を澄ますと、車の扉を閉める音と話し声が僅かに聞こえて来る。

「来たか」

 予定の時間より少し早いが、どうやら到着したようだ。
 程なくして家の扉の鍵を開ける音が鳴った。

「どうぞ」

 悟の声だ。
 相手の家族に家へ入るよう促している。

「お邪魔します」

 壮齢の女性は玄関に上がると靴を脱ぎ、悟の後を追うように廊下を歩いて行く。

(この人が皐月さんか……)

 まずはワンピース姿の大人の女性が最初にリビングに姿を現した。
 茶色の髪をショートボブにしており、父に聞いていた年齢よりも若く見える美人で、落ち着いた雰囲気でどこか安心感を与えてくれる。
 それが実親が皐月に対して抱いた第一印象であった。

 皐月の後を追うように黒髪の少女がリビングにやって来る。
 空気を含んでいるかのように軽やかな黒いエアリーショートヘアの少女もワンピースを着ており、まだあどけなさの残る顔付きをしているので妹の方だと当たりをつけた。

 残るは姉の方だ、と実親は推測する。
 そしてもう一人の少女が姿を現した。
 姉だと思われる少女と実親の目線が合う。

「あ」
「あ」

 お互いの顔を認識した二人は揃って声を漏らし瞠目する。
 少女の方は足を止めていた。

 実親は驚きながらも少女の姿を改めて確認する。
 彼女は大きな目に長い睫毛、目鼻立ちのはっきりとした顔つきで、誰が見ても間違いなく美人だと思う女性だ。
 脱色している金髪を胸まで伸びる長さの脱力ウェーブにしている。
 敢えて緩くして癖の強くない脱力しているかのようなウェーブが色気のある女性らしさを演出しており中々魅力的だ。
 そして黒のサブリナパンツを穿き、上半身には白のスキッパーシャツを着ている。
 カラーコンタクト、ピアス、ブレスレットを身につけているギャルだ。

「あー、なるほどねぇ……」

 金髪の少女が肩を竦めて一人納得する。

「千歳?」
「お姉ちゃん?」

 突然足を止めて呟いている娘の様子に皐月は怪訝な顔になり、妹は首を傾げた。

「お前もどうしたんだ?」

 悟も息子の様子が不可解で疑問を浮かべる。

「いや、こいつクラスメイト」
「彼、クラスメイト」

 実親は悟に顔を向け、千歳と呼ばれた金髪の少女は皐月に顔を向けて同時に言葉を発した。
 二人の発した言葉に悟も皐月も妹も驚きで一瞬思考が止まってしまう。
 二拍ほど間が空いたところで悟と皐月は「え?」と声を漏らす。

「凄い凄い!!」

 妹は瞳を輝かせて興奮し、沈黙した場の雰囲気を霧散させてしまった。

「少女漫画みたいだね。お姉ちゃん!」
「うーん。確かにそうだけど……」

 このまま互いの親が再婚すれば、クラスメイトと義理の兄妹になる。
 そのような展開がまるで少女漫画のようだと妹は興奮していた。対して千歳は複雑な表情を浮かべている。

「悟さんの苗字が黛ってわかっていたんだし、こういう可能性もあると予想は出来た筈だよねぇ。全く思い至らなかったけど」

 千歳は悟と以前から交流があったので苗字は把握していたし、息子がいるということも知っていた。
 黛という姓はそれ程メジャーではない。クラスメイトに黛姓がいる時点で実親との関係性を推測することは出来た筈だ。仮に推測出来ても、まさか悟の息子がクラスメイトとは思いもしないが。

「とりあえず座ろう」

 固まってしまった悟と皐月を促すように実親が声を掛ける。

「そ、そうだな」
「そうね」

 実親の言葉で二人は我に返った。
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