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第49話 コンドーム
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「これがラブホテルかー。えっちな部屋だねぇ」
「そりゃラブホだからな」
照明が控えめでベッドや浴室などのデザインが総じて扇情的な雰囲気を醸し出している室内に紫苑は興味津々のご様子だ。
初めて来たラブホテルに興奮気味の紫苑は、荷物をソファに置いて室内を見て回る。
「ソファはふかふかだし、ベッドも寝心地良いねー」
一度ベッドに横になって満足するまで寝心地を確かめた後、上半身を起こすと視線の先にある物を捉えた。
紫苑は躊躇することなく手を伸ばす。
「あ、コンドームだ」
彼女が手にしたのは、ラブホテルでは欠かすことの出来ない必需品であった。
縁のない人には何か円形の物が入っている四角い袋ということしかわからないだろうが、生憎と紫苑はどういった物かを理解していた。
コンドームを自宅に常備している母親の所為である。毎日のように男を自宅に連れ込んでいるのでストックが大量にあり、否が応にも紫苑の目についてしまう。
教育に悪いことこの上ないが、そんなことを気にする母親だったら娘がこれほど苦労することはなかった筈だ。
「少しは落ち着け」
手に持つコンドームをまじまじと見つめている紫苑の姿に実親は呆れて溜息を吐く。
「これ前から興味あったんだよね。開けてみようかな」
「もったいないからやめろ」
「えー」
自宅に大量にあるが紫苑が使用している訳ではない。
中身を取り出したこともなければ触ったこともない。ゴミ箱に捨てられている使用済みの物を見たことがあるくらいだ。
その時はただただ複雑な気持ちになる。不快に近い感情だ。
誰が好き好んで他人の使用済みコンドームを目にしたいものか。しかも母親とその相手が使った物である。
しかし年頃なのでどうしても気になってしまう。
興味本位で母親のコンドームを勝手に開けてバレでもしたら面倒なことになるのが目に見えているので手を出していなかった。
おそらく、「私の物だ! 金を払え!」と烈火の如く怒られるか、「あんたも好きだねぇ。私に相手の男貸しなさいよ」などと言い出すに違いない。
なので今が実物を目にする絶好のチャンスだと思ったのだが、袋を開けて中身を取り出そうとしたら実親に苦言を呈されてしまった。
不満気な紫苑は口を尖らせて考え込む。
「ならちゃんと使えば良いんじゃない?」
そして導き出した答えがこれであった。
「何言ってんだ……」
誘っているのか? と思わずにはいられない台詞に実親は頭を抱えたくなる。
「折角ラブホテルにいるんだしさ」
「改めて彼氏と来て使え」
「彼氏いないもん」
「いるなら今俺とここに来ていないだろうな」
「そうだよー」
恋人がいるのに他の男とラブホテルに来るような軽い女ではないと紫苑は思っているが、節操のない母の血を引く身としては少々不安があるのは否定出来ない。
それでも尊敬する父の血も引いているので自分は大丈夫だと暗示のように言い聞かせ、胸を張って頷いた。
「兎に角、彼氏出来てから使えば良い」
「なら今黛が彼氏になってくれれば問題ないでしょ?」
「それは魅力的な提案だが断る」
「なんでさー」
紫苑は「魅力的だと思ってくれているのになんで断るのー」、と呟きながら肩を落とす。
「良いよ別に……そもそもエッチしたかった訳じゃないし」
「したくもないのにやろうとするな。しかも彼氏でもない相手なら尚更だ」
拗ねる紫苑に実親は叱るような口調で言い聞かせる。
「黛だから言ったんだもん。誰にでもこんなこと言ったりしないよ。そこは勘違いしないでよね!」
実親なら抱かれても良いと思っているから提案したに過ぎない。男なら誰でも良い訳ではないのだ。誰にでも股を開くと思われるのは我慢ならない。
実親に思われるのは特に看過出来ないことだった。彼にだけは誤解でも軽い女とは思われたくない。もし誤解されてしまったらと思うと泣きたくなるし胸が痛む。なのではっきりと釈明した。
嘘がないとわかる気持ちの乗った言葉に、実親ははぐらかさずに確りと答えた方が良いと思い紫苑に歩み寄る。
「お前の好意は素直に嬉しいし、溺れてしまいたいという欲求もある。だが今は駄目なんだ。すまんな」
そう言って紫苑の頭と髪を愛おしげに優しく撫でる。
「……黛にも色々あるんだね」
「ああ」
温もりのある優しい手付きに愛情を持ってくれていると肌で感じ取った紫苑は、気持ち良さそうな表情になってされるがままになる。
そして撫でられながら「黛にも何か事情があるんだな」と察し、世話になっている実親の力になれるのなら労を惜しむ気はないので、「いつか私に話してくれるかな……」と思いながら目を瞑って頭部の感触に意識を傾けた。
暫しなんとも言えない甘い時間が流れると、思い付いたとばかりに紫苑が口を開く。
「あ、でもコンドーム出した後にそれを使って黛がオナニーすれば無駄にならないのでは?」
「ほざいてろ」
「あいたっ!」
実親は突拍子もないことを抜かす紫苑の頭から手を離し、そのまま叩くように軽く額を押して懲らしめる。
すると当然紫苑はベッドに倒れ込む。
「黛に押し倒されちゃった……やっぱりコンドーム使う気になった?」
仰向けになると口元をニヤつかせながら期待するような眼差しを実親に向ける。
「アホなこと抜かしてないでさっさと休むぞ」
「はーい」
冷めた顔で実親がすげなくあしらうも、今度は素直に頷く紫苑であった。
流石に彼女も冗談で言っていた。なので素直に引き下がったのだ。
尤も、本当に実親がオナニーで使ってくれても良かったし、抱かれる心構えもあった。なので、どのような結果になっても良かったのである。
そもそも何故二人がラブホテルにいるのか。
それは数日前のやり取りが起因している。
「そりゃラブホだからな」
照明が控えめでベッドや浴室などのデザインが総じて扇情的な雰囲気を醸し出している室内に紫苑は興味津々のご様子だ。
初めて来たラブホテルに興奮気味の紫苑は、荷物をソファに置いて室内を見て回る。
「ソファはふかふかだし、ベッドも寝心地良いねー」
一度ベッドに横になって満足するまで寝心地を確かめた後、上半身を起こすと視線の先にある物を捉えた。
紫苑は躊躇することなく手を伸ばす。
「あ、コンドームだ」
彼女が手にしたのは、ラブホテルでは欠かすことの出来ない必需品であった。
縁のない人には何か円形の物が入っている四角い袋ということしかわからないだろうが、生憎と紫苑はどういった物かを理解していた。
コンドームを自宅に常備している母親の所為である。毎日のように男を自宅に連れ込んでいるのでストックが大量にあり、否が応にも紫苑の目についてしまう。
教育に悪いことこの上ないが、そんなことを気にする母親だったら娘がこれほど苦労することはなかった筈だ。
「少しは落ち着け」
手に持つコンドームをまじまじと見つめている紫苑の姿に実親は呆れて溜息を吐く。
「これ前から興味あったんだよね。開けてみようかな」
「もったいないからやめろ」
「えー」
自宅に大量にあるが紫苑が使用している訳ではない。
中身を取り出したこともなければ触ったこともない。ゴミ箱に捨てられている使用済みの物を見たことがあるくらいだ。
その時はただただ複雑な気持ちになる。不快に近い感情だ。
誰が好き好んで他人の使用済みコンドームを目にしたいものか。しかも母親とその相手が使った物である。
しかし年頃なのでどうしても気になってしまう。
興味本位で母親のコンドームを勝手に開けてバレでもしたら面倒なことになるのが目に見えているので手を出していなかった。
おそらく、「私の物だ! 金を払え!」と烈火の如く怒られるか、「あんたも好きだねぇ。私に相手の男貸しなさいよ」などと言い出すに違いない。
なので今が実物を目にする絶好のチャンスだと思ったのだが、袋を開けて中身を取り出そうとしたら実親に苦言を呈されてしまった。
不満気な紫苑は口を尖らせて考え込む。
「ならちゃんと使えば良いんじゃない?」
そして導き出した答えがこれであった。
「何言ってんだ……」
誘っているのか? と思わずにはいられない台詞に実親は頭を抱えたくなる。
「折角ラブホテルにいるんだしさ」
「改めて彼氏と来て使え」
「彼氏いないもん」
「いるなら今俺とここに来ていないだろうな」
「そうだよー」
恋人がいるのに他の男とラブホテルに来るような軽い女ではないと紫苑は思っているが、節操のない母の血を引く身としては少々不安があるのは否定出来ない。
それでも尊敬する父の血も引いているので自分は大丈夫だと暗示のように言い聞かせ、胸を張って頷いた。
「兎に角、彼氏出来てから使えば良い」
「なら今黛が彼氏になってくれれば問題ないでしょ?」
「それは魅力的な提案だが断る」
「なんでさー」
紫苑は「魅力的だと思ってくれているのになんで断るのー」、と呟きながら肩を落とす。
「良いよ別に……そもそもエッチしたかった訳じゃないし」
「したくもないのにやろうとするな。しかも彼氏でもない相手なら尚更だ」
拗ねる紫苑に実親は叱るような口調で言い聞かせる。
「黛だから言ったんだもん。誰にでもこんなこと言ったりしないよ。そこは勘違いしないでよね!」
実親なら抱かれても良いと思っているから提案したに過ぎない。男なら誰でも良い訳ではないのだ。誰にでも股を開くと思われるのは我慢ならない。
実親に思われるのは特に看過出来ないことだった。彼にだけは誤解でも軽い女とは思われたくない。もし誤解されてしまったらと思うと泣きたくなるし胸が痛む。なのではっきりと釈明した。
嘘がないとわかる気持ちの乗った言葉に、実親ははぐらかさずに確りと答えた方が良いと思い紫苑に歩み寄る。
「お前の好意は素直に嬉しいし、溺れてしまいたいという欲求もある。だが今は駄目なんだ。すまんな」
そう言って紫苑の頭と髪を愛おしげに優しく撫でる。
「……黛にも色々あるんだね」
「ああ」
温もりのある優しい手付きに愛情を持ってくれていると肌で感じ取った紫苑は、気持ち良さそうな表情になってされるがままになる。
そして撫でられながら「黛にも何か事情があるんだな」と察し、世話になっている実親の力になれるのなら労を惜しむ気はないので、「いつか私に話してくれるかな……」と思いながら目を瞑って頭部の感触に意識を傾けた。
暫しなんとも言えない甘い時間が流れると、思い付いたとばかりに紫苑が口を開く。
「あ、でもコンドーム出した後にそれを使って黛がオナニーすれば無駄にならないのでは?」
「ほざいてろ」
「あいたっ!」
実親は突拍子もないことを抜かす紫苑の頭から手を離し、そのまま叩くように軽く額を押して懲らしめる。
すると当然紫苑はベッドに倒れ込む。
「黛に押し倒されちゃった……やっぱりコンドーム使う気になった?」
仰向けになると口元をニヤつかせながら期待するような眼差しを実親に向ける。
「アホなこと抜かしてないでさっさと休むぞ」
「はーい」
冷めた顔で実親がすげなくあしらうも、今度は素直に頷く紫苑であった。
流石に彼女も冗談で言っていた。なので素直に引き下がったのだ。
尤も、本当に実親がオナニーで使ってくれても良かったし、抱かれる心構えもあった。なので、どのような結果になっても良かったのである。
そもそも何故二人がラブホテルにいるのか。
それは数日前のやり取りが起因している。
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