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第72話 祭り
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多くの人が行き交い賑わいをみせる中、五人はそれぞれ思い思いに祭りを堪能していた。
亮はたこ焼き、焼きそば、鶏のから揚げ、フランクフルト、ベビーカステラ、チョコバナナ、わたあめ、かき氷など、屋台で見かけた食べ物をひたすら買い漁って食べ続けている。
颯真は好みの女性を見かけてはナンパを繰り返していた。
連絡先をゲット出来る時もあれば、すげなくあしらわれる時もある。はたまた冷めた目を向けられて追い払われる時もあった。
彼氏持ちや既婚者に手を出して痛い目を見なければ良いが……。
千歳、慧、唯莉は三人仲良く連れ立って屋台を巡り、祭りの情緒ある雰囲気を味わって楽しんでいた。
時折ナンパされるも、相手にせず上手くあしらっている。しつこい相手には実親を壁にすることで事無きを得ていた。
ちなみに颯真と亮は全く役に立っていない。二人共自分のことで頭がいっぱいだったからだ。
「サネちーが一緒にいてくれるのは助かるけど、あの二人みたいに自分の好きに楽しんで良いんだよ?」
実親は三人並んで歩く女性陣の後ろについてボディーガードの役目を果たしていた。
そんな彼の気遣いはありがたくて嬉しいが、折角の祭りなのに自由に楽しめないのは勿体無いし申し訳なくなる。なので振り返った唯莉は、颯真と亮へ一瞬視線を向けてから実親へ声を掛けた。
巾着袋を持った両手を腰の後ろで組みながら首を傾げる姿は、彼女の容姿も相まって小悪魔感が強く魅惑的だ。普通の男なら鼻を伸ばしているに違いない。
「俺はこの雰囲気を味わっているだけで充分だから気しなくて良いぞ」
実親は別に気を遣っている訳ではない。
祭りの雰囲気を体感するのは小説を書く上で参考になる。
実親にとっては遊びと取材を兼ねているので、本当に祭りの雰囲気を味わうだけで満足していた。
「それに可愛くて美しい三人のお姫様と一緒にいることより楽しいことはないからな」
浴衣姿の三人の美少女と一緒にいることより楽しいことなど、この場には存在しないだろう。少なくとも男にとっては楽園だ。
両手を頬に添えながら「えへへ、私お姫様?」、とはにかむ唯莉は非常に愛らしくて庇護欲をそそられる。
溜息を吐いた千歳は、「ほんと良くそういうことを恥ずかし気もなく言えるよね……」、と呆れつつも満更でもなさそうな表情をしている。
そして「自分は違うから」とでも言うかのように平静を保っている慧は、千歳と唯莉がお姫様という部分には激しく同意していた。
「お、おい! あっちに翔と坂巻がいたぞ!」
なんとも言えない甘ったるい雰囲気を駆け寄って来た颯真が一瞬で霧散させた。
「リア充の幸せオーラに俺の目が耐えられん……!」
一緒にやって来た亮が目元を覆っている。
羨ましい気持ちと応援したい気持ちが鬩ぎ合って情緒不安定になっていた。
「え! ちょっと見たい!」
唯莉が瞳を輝かせる。
「あっちだ!」
翔と彩夏がいる方向を指差した颯真が先導するように駆け出すと、その後を亮と唯莉が追い掛ける。
「あまり二人の邪魔をするなよ」
三人の背中へ投げかけた実親の忠告は果たして聞こえていたのだろうか……。
「心配だし追い掛けようか」
「そうしよ」
肩を竦めた後に告げた慧の提案に千歳が賛同する。
まるで末妹の面倒を見る姉のようだ。慧が長女で次女が千歳といったところだろうか。
「なら俺が先導しよう」
既に颯真達の姿は人混みに紛れて見えなくなっている。
だが、背の高い実親は周囲の人達より頭一つ分抜けているので三人の姿を見失っていなかった。
「ありがとう。下駄だから走ったら危ないのに……」
浴衣を着ている三人は下駄を履いている。
心配そうに呟いた千歳の言う通り走ることには向いていない。転んで怪我でもしたら折角の楽しい祭りが台無しだ。
「俺達は焦らず追い掛けよう」
そう言うと、実親は歩くペースに気を付けながら颯真達の後を追い掛けた。
◇ ◇ ◇
実親達が辿り着いた頃には既に颯真達が翔と彩夏に絡んでいた。
颯真と亮は翔のことを揶揄っており、唯莉は彩夏と談笑している。
「遅かったか……」
完全に手遅れだったことに実親が溜息を吐く。
二人の邪魔をするなと言ったのは効果がなかったようだ。
「でも二人共迷惑そうじゃないから良かった」
三人に絡まれていても楽しそうに話している翔と彩夏の姿に千歳が安堵する。
「一先ず折を見て引き剥がせるように私達も加わろう」
「そうだな」
いくら楽しそうとはいえ、デートの邪魔をし過ぎるのは良くない。
慧の言う通り、あまり長時間介入するようだったら頃合いを見計らって颯真達を引き剝がす必要がある。なので実親が頷いたのを合図に、三人は颯真達のもとへ歩み寄った。
「坂巻さん浴衣似合ってて可愛いね」
「山本さん、ありがとう」
合流して最初に声を掛けたのは千歳だった。
彩香は黄色を基調とした浴衣を着ており、茶色の髪はいつも通りポニーテールにしていてうなじが妙な色気を放っている。
「二人も可愛いね」
千歳と慧の浴衣姿を直視した彩夏は感嘆して吐息を漏らす。
女性でも見惚れてしまうほど二人が美しかったのだ。
女性陣は心配なさそうだと思った実親は翔の方へ視線を向ける。
すると颯真が下品な質問をしていた。
「なあ、坂巻とどこまでいった? もうヤッたのか?」
「いや、言わねぇよ!」
「その反応が怪しいな」
「ならなんて答えれば満足なんだよ!?」
公衆の面前でする話ではない質問に実親は頭が痛くなった。
亮はニヤニヤしているだけで止めようとしない。
「その辺にしておかないとお前の女性遍歴を言い触らすぞ」
「なっ!? それは反則だろう!!」
背後から颯真の肩を掴んだ実親は必殺技を繰り出した。
女遊びが激しい颯真の弱点は女性事情を話されてしまうことである。もし話が女性の耳に入ったら警戒されてお近づきになれなくなってしまうからだ。
実親は颯真の女性遍歴を全て把握している訳ではないが、ある程度は知っている。
そのことを颯真自身が理解しているので顔面蒼白になっていた。
肩を落として大人しくなった颯真の姿を見て翔がほっと息を吐く。
「助かった、サネ」
心の底からの感謝だった。
自分のことなら兎も角、恋人が関わることを勝手に言い触らして恥をかかせるようなことを出来る訳がないだろう。
中には自慢事のように語る者もいるが、それは恋人のことを自慢の道具にしているだけで大切にしていないと公言しているようなものだ。
「お前は立派だよ」
実親が褒めると翔は照れ臭そうに頬を掻く。
翔が颯真の質問に明確な答えを出さなかったのは、それだけ彩香のことを大切にしている証拠だ。
肩を落としている颯真は亮に「自業自得だけど、どんまい」、と励ましになっているのかわからない言葉を掛けられていた。
確かに下品な質問をしたのも女癖が悪いのも身から出た錆である。
「お前らが幸せそうで良かったよ」
実親は自分が背中を押した手前、二人の仲が上手くいっていることに安堵していた。
「ああ、サネのお陰だ」
「頑張ったのはお前だろ」
二人は謙遜し合う。
しかし、実親は幸せそうな二人を見て物悲しい気分になっていた。
翔と彩夏が幸せそうなのは嬉しい。だが、祭りを楽しむ同世代のカップルを見ていると楓のことを思い出してしまうのだ。
(楓……あの時は楽しかったな……)
周囲は祭りの喧騒に包まれているが、実親だけは音がなくなって時が止まったような感覚になっていた。
亮はたこ焼き、焼きそば、鶏のから揚げ、フランクフルト、ベビーカステラ、チョコバナナ、わたあめ、かき氷など、屋台で見かけた食べ物をひたすら買い漁って食べ続けている。
颯真は好みの女性を見かけてはナンパを繰り返していた。
連絡先をゲット出来る時もあれば、すげなくあしらわれる時もある。はたまた冷めた目を向けられて追い払われる時もあった。
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千歳、慧、唯莉は三人仲良く連れ立って屋台を巡り、祭りの情緒ある雰囲気を味わって楽しんでいた。
時折ナンパされるも、相手にせず上手くあしらっている。しつこい相手には実親を壁にすることで事無きを得ていた。
ちなみに颯真と亮は全く役に立っていない。二人共自分のことで頭がいっぱいだったからだ。
「サネちーが一緒にいてくれるのは助かるけど、あの二人みたいに自分の好きに楽しんで良いんだよ?」
実親は三人並んで歩く女性陣の後ろについてボディーガードの役目を果たしていた。
そんな彼の気遣いはありがたくて嬉しいが、折角の祭りなのに自由に楽しめないのは勿体無いし申し訳なくなる。なので振り返った唯莉は、颯真と亮へ一瞬視線を向けてから実親へ声を掛けた。
巾着袋を持った両手を腰の後ろで組みながら首を傾げる姿は、彼女の容姿も相まって小悪魔感が強く魅惑的だ。普通の男なら鼻を伸ばしているに違いない。
「俺はこの雰囲気を味わっているだけで充分だから気しなくて良いぞ」
実親は別に気を遣っている訳ではない。
祭りの雰囲気を体感するのは小説を書く上で参考になる。
実親にとっては遊びと取材を兼ねているので、本当に祭りの雰囲気を味わうだけで満足していた。
「それに可愛くて美しい三人のお姫様と一緒にいることより楽しいことはないからな」
浴衣姿の三人の美少女と一緒にいることより楽しいことなど、この場には存在しないだろう。少なくとも男にとっては楽園だ。
両手を頬に添えながら「えへへ、私お姫様?」、とはにかむ唯莉は非常に愛らしくて庇護欲をそそられる。
溜息を吐いた千歳は、「ほんと良くそういうことを恥ずかし気もなく言えるよね……」、と呆れつつも満更でもなさそうな表情をしている。
そして「自分は違うから」とでも言うかのように平静を保っている慧は、千歳と唯莉がお姫様という部分には激しく同意していた。
「お、おい! あっちに翔と坂巻がいたぞ!」
なんとも言えない甘ったるい雰囲気を駆け寄って来た颯真が一瞬で霧散させた。
「リア充の幸せオーラに俺の目が耐えられん……!」
一緒にやって来た亮が目元を覆っている。
羨ましい気持ちと応援したい気持ちが鬩ぎ合って情緒不安定になっていた。
「え! ちょっと見たい!」
唯莉が瞳を輝かせる。
「あっちだ!」
翔と彩夏がいる方向を指差した颯真が先導するように駆け出すと、その後を亮と唯莉が追い掛ける。
「あまり二人の邪魔をするなよ」
三人の背中へ投げかけた実親の忠告は果たして聞こえていたのだろうか……。
「心配だし追い掛けようか」
「そうしよ」
肩を竦めた後に告げた慧の提案に千歳が賛同する。
まるで末妹の面倒を見る姉のようだ。慧が長女で次女が千歳といったところだろうか。
「なら俺が先導しよう」
既に颯真達の姿は人混みに紛れて見えなくなっている。
だが、背の高い実親は周囲の人達より頭一つ分抜けているので三人の姿を見失っていなかった。
「ありがとう。下駄だから走ったら危ないのに……」
浴衣を着ている三人は下駄を履いている。
心配そうに呟いた千歳の言う通り走ることには向いていない。転んで怪我でもしたら折角の楽しい祭りが台無しだ。
「俺達は焦らず追い掛けよう」
そう言うと、実親は歩くペースに気を付けながら颯真達の後を追い掛けた。
◇ ◇ ◇
実親達が辿り着いた頃には既に颯真達が翔と彩夏に絡んでいた。
颯真と亮は翔のことを揶揄っており、唯莉は彩夏と談笑している。
「遅かったか……」
完全に手遅れだったことに実親が溜息を吐く。
二人の邪魔をするなと言ったのは効果がなかったようだ。
「でも二人共迷惑そうじゃないから良かった」
三人に絡まれていても楽しそうに話している翔と彩夏の姿に千歳が安堵する。
「一先ず折を見て引き剥がせるように私達も加わろう」
「そうだな」
いくら楽しそうとはいえ、デートの邪魔をし過ぎるのは良くない。
慧の言う通り、あまり長時間介入するようだったら頃合いを見計らって颯真達を引き剝がす必要がある。なので実親が頷いたのを合図に、三人は颯真達のもとへ歩み寄った。
「坂巻さん浴衣似合ってて可愛いね」
「山本さん、ありがとう」
合流して最初に声を掛けたのは千歳だった。
彩香は黄色を基調とした浴衣を着ており、茶色の髪はいつも通りポニーテールにしていてうなじが妙な色気を放っている。
「二人も可愛いね」
千歳と慧の浴衣姿を直視した彩夏は感嘆して吐息を漏らす。
女性でも見惚れてしまうほど二人が美しかったのだ。
女性陣は心配なさそうだと思った実親は翔の方へ視線を向ける。
すると颯真が下品な質問をしていた。
「なあ、坂巻とどこまでいった? もうヤッたのか?」
「いや、言わねぇよ!」
「その反応が怪しいな」
「ならなんて答えれば満足なんだよ!?」
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亮はニヤニヤしているだけで止めようとしない。
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女遊びが激しい颯真の弱点は女性事情を話されてしまうことである。もし話が女性の耳に入ったら警戒されてお近づきになれなくなってしまうからだ。
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心の底からの感謝だった。
自分のことなら兎も角、恋人が関わることを勝手に言い触らして恥をかかせるようなことを出来る訳がないだろう。
中には自慢事のように語る者もいるが、それは恋人のことを自慢の道具にしているだけで大切にしていないと公言しているようなものだ。
「お前は立派だよ」
実親が褒めると翔は照れ臭そうに頬を掻く。
翔が颯真の質問に明確な答えを出さなかったのは、それだけ彩香のことを大切にしている証拠だ。
肩を落としている颯真は亮に「自業自得だけど、どんまい」、と励ましになっているのかわからない言葉を掛けられていた。
確かに下品な質問をしたのも女癖が悪いのも身から出た錆である。
「お前らが幸せそうで良かったよ」
実親は自分が背中を押した手前、二人の仲が上手くいっていることに安堵していた。
「ああ、サネのお陰だ」
「頑張ったのはお前だろ」
二人は謙遜し合う。
しかし、実親は幸せそうな二人を見て物悲しい気分になっていた。
翔と彩夏が幸せそうなのは嬉しい。だが、祭りを楽しむ同世代のカップルを見ていると楓のことを思い出してしまうのだ。
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