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第94話 ナンパ
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「うめぇー! 肉うめぇ!!」
肉汁滴る肉を我先にと掻き込む亮は、あまりの美味さに素直な感想を声高に零す。
そんな彼の気勢を殺ぐ問いが対面にいる実親の口から発せられる。
「それで、ナンパは上手くいったのか?」
「……」
勢いよく肉を掻き込んでいた亮の手がピタリと止まり、顔から表情が抜け落ちて黙り込んでしまう。舌を幸福に包む旨味の余韻が消え失せていくが、その事実に気付ける余裕が今の亮にはなかった。
口を開く気配がない亮の様子に、実親は「その反応から察するに駄目だったんだな」と呟いて肩を竦める。
「節操のなさが雰囲気から滲み出ていた所為で避けられたんじゃない?」
実親の左隣の椅子に腰掛けて蝦と帆立のホイル焼きを味わっていた千歳が、感情の籠っていない冷めた声でそう言った。
「い、いや、それは颯真のことだろ?」
「俺は数人と連絡先交換したぞ」
亮は焦り気味に右隣にいる颯真に視線向けて指摘した。
しかし、その視線を颯真は飄々と受け止めている。
「なんでだよ! 俺は彼女が欲しいだけなのに!!」
亮は声を荒げて悔しそうに地団太を踏む。
ナンパの目的が遊びでしかない颯真が複数の女性と連絡先を交換しているにも拘わらず、純粋に彼女を欲している自分が上手くいかないことに亮は嘆いていた。
「だからじゃね?」
「……どういうことだってばよ」
颯真の言葉に首を傾げる亮。
「恋人目的っていうのが面倒だし、重いんだろ」
「と言いますと?」
「そういう煩わしいのを抜きにして、軽い気持ちで割り切った付き合いが出来る相手の方が需要があるってことさ」
「……そういうのはなんか嫌だ」
訳知り顔で説明する颯真に向かって、亮は苦虫を嚙み潰したような顔で溜息交じりに呟く。
「ほんとお前は外見に似合わず純粋だよな」
確かに亮は髪を染めているし、普段は制服を着崩してもいるので、第一印象ではやんちゃそうなイメージが浮かび上がる。それこそ女遊びをしていても違和感がない外見だ。
なので颯真が「やれやれ」と言いたげな表情で肩を竦めてしまうのは自然なことかもしれない。
「偏見かもしれないが、純粋な子はナンパを受け入れることも、その相手を恋人にすることもないと思うけどな」
「それは人によるだろ……?」
「逆の立場になって考えてみたらどうだ?」
亮は颯真の言う通り素直に思考を巡らせるが、考えを纏める前に千歳が口を挟む。
「私だったらナンパしてくる人は仮に付き合っている人がいても別の女性に声を掛ける軽い人なのかな? って思っちゃうけどね。勿論、全員に当て嵌まる訳じゃないけど」
中には好きな人に勇気を振り絞って声を掛けている場合もあるので、みんながみんな所構わずナンパしているとは限らない。だが手当たり次第ナンパしている人からは誠実さを感じ取れない筈だ。
「それ同感。私も相手が余程好みのタイプじゃない限りは敬遠しちゃうだろうし」
実親の右隣にいる唯莉が「うんうん」と頷いて賛同する。
「自分も気軽に遊べる相手を求めているなら兎も角、そうじゃないならナンパは煩わしいだけだもんね」
千歳に視線を向けられた唯莉は「ねー」と相槌を打つ。
「見ず知らずの相手なら尚更ね」
唯莉の右隣の椅子に腰を下ろしている慧も同意見のようだ。
「そうそう。女は男と違って立ってるだけで声を掛けられるからな。だから遊びを求めてる人じゃないとナンパは鬱陶しいだけなんだよ」
極論かもしれないが、颯真の弁は一理ある。
男は余程のイケメンや金持ちだったり、その女性にとって好みのタイプだったりしなければ滅多にナンパはされない。寧ろ一度もされないまま人生を終える男が殆どだろう。
しかし女性の場合は何もせずに外で立っているだけでナンパされる。勿論、個人差はあるが。
「身の危険を感じる時もあるから勘弁してほしいよね」
「誰かと一緒にいる時はまだマシだけど、一人の時は断ったらどういう反応されるんだろう? って考えてしまって怖いもんね」
確かに逆上されてしまう恐れもある。自分より身体が大きくて力も強い男に逆上されたら大半の女性は恐怖を抱く筈だ。
身を守る術があったとしても、恐怖から身が竦んでしまって何もアクションを起こせないこともあるだろう。
千歳と唯莉が立て続けに顔を歪めてしまうのは無理もない。
「私は二人ほどナンパされないからそこまでではないけど、気持ちは良くわかる」
慧は苦笑交じりそう言うと、肩を竦めた。
彼女も間違いなく美少女だが、表情の変化が激しくないクール系なので、わかり易く男心を擽るスタイル抜群の美人ギャルである千歳と、小悪魔っぽくて可愛い雰囲気の唯莉ほどナンパはされない。
それでも外を歩けばナンパされることは屡ある。なので二人ほど頻繁にナンパされない慧でも辟易してしまう。
モテる二人のことが羨ましいと思う気持ちなど微塵も湧いて来ない程である。寧ろ同情してしまうくらいだ。
それくらいナンパには良い印象を持っていなかった。
「そういうもんなのか……」
まさか自分のしていることが相手にとって不快なことである可能性があるとは思いもしていなかった亮は、女性陣の言葉にショックを受けて肩を落とす。
モテるのは嬉しいことだろう、としか考えていなかったのだ。
肉汁滴る肉を我先にと掻き込む亮は、あまりの美味さに素直な感想を声高に零す。
そんな彼の気勢を殺ぐ問いが対面にいる実親の口から発せられる。
「それで、ナンパは上手くいったのか?」
「……」
勢いよく肉を掻き込んでいた亮の手がピタリと止まり、顔から表情が抜け落ちて黙り込んでしまう。舌を幸福に包む旨味の余韻が消え失せていくが、その事実に気付ける余裕が今の亮にはなかった。
口を開く気配がない亮の様子に、実親は「その反応から察するに駄目だったんだな」と呟いて肩を竦める。
「節操のなさが雰囲気から滲み出ていた所為で避けられたんじゃない?」
実親の左隣の椅子に腰掛けて蝦と帆立のホイル焼きを味わっていた千歳が、感情の籠っていない冷めた声でそう言った。
「い、いや、それは颯真のことだろ?」
「俺は数人と連絡先交換したぞ」
亮は焦り気味に右隣にいる颯真に視線向けて指摘した。
しかし、その視線を颯真は飄々と受け止めている。
「なんでだよ! 俺は彼女が欲しいだけなのに!!」
亮は声を荒げて悔しそうに地団太を踏む。
ナンパの目的が遊びでしかない颯真が複数の女性と連絡先を交換しているにも拘わらず、純粋に彼女を欲している自分が上手くいかないことに亮は嘆いていた。
「だからじゃね?」
「……どういうことだってばよ」
颯真の言葉に首を傾げる亮。
「恋人目的っていうのが面倒だし、重いんだろ」
「と言いますと?」
「そういう煩わしいのを抜きにして、軽い気持ちで割り切った付き合いが出来る相手の方が需要があるってことさ」
「……そういうのはなんか嫌だ」
訳知り顔で説明する颯真に向かって、亮は苦虫を嚙み潰したような顔で溜息交じりに呟く。
「ほんとお前は外見に似合わず純粋だよな」
確かに亮は髪を染めているし、普段は制服を着崩してもいるので、第一印象ではやんちゃそうなイメージが浮かび上がる。それこそ女遊びをしていても違和感がない外見だ。
なので颯真が「やれやれ」と言いたげな表情で肩を竦めてしまうのは自然なことかもしれない。
「偏見かもしれないが、純粋な子はナンパを受け入れることも、その相手を恋人にすることもないと思うけどな」
「それは人によるだろ……?」
「逆の立場になって考えてみたらどうだ?」
亮は颯真の言う通り素直に思考を巡らせるが、考えを纏める前に千歳が口を挟む。
「私だったらナンパしてくる人は仮に付き合っている人がいても別の女性に声を掛ける軽い人なのかな? って思っちゃうけどね。勿論、全員に当て嵌まる訳じゃないけど」
中には好きな人に勇気を振り絞って声を掛けている場合もあるので、みんながみんな所構わずナンパしているとは限らない。だが手当たり次第ナンパしている人からは誠実さを感じ取れない筈だ。
「それ同感。私も相手が余程好みのタイプじゃない限りは敬遠しちゃうだろうし」
実親の右隣にいる唯莉が「うんうん」と頷いて賛同する。
「自分も気軽に遊べる相手を求めているなら兎も角、そうじゃないならナンパは煩わしいだけだもんね」
千歳に視線を向けられた唯莉は「ねー」と相槌を打つ。
「見ず知らずの相手なら尚更ね」
唯莉の右隣の椅子に腰を下ろしている慧も同意見のようだ。
「そうそう。女は男と違って立ってるだけで声を掛けられるからな。だから遊びを求めてる人じゃないとナンパは鬱陶しいだけなんだよ」
極論かもしれないが、颯真の弁は一理ある。
男は余程のイケメンや金持ちだったり、その女性にとって好みのタイプだったりしなければ滅多にナンパはされない。寧ろ一度もされないまま人生を終える男が殆どだろう。
しかし女性の場合は何もせずに外で立っているだけでナンパされる。勿論、個人差はあるが。
「身の危険を感じる時もあるから勘弁してほしいよね」
「誰かと一緒にいる時はまだマシだけど、一人の時は断ったらどういう反応されるんだろう? って考えてしまって怖いもんね」
確かに逆上されてしまう恐れもある。自分より身体が大きくて力も強い男に逆上されたら大半の女性は恐怖を抱く筈だ。
身を守る術があったとしても、恐怖から身が竦んでしまって何もアクションを起こせないこともあるだろう。
千歳と唯莉が立て続けに顔を歪めてしまうのは無理もない。
「私は二人ほどナンパされないからそこまでではないけど、気持ちは良くわかる」
慧は苦笑交じりそう言うと、肩を竦めた。
彼女も間違いなく美少女だが、表情の変化が激しくないクール系なので、わかり易く男心を擽るスタイル抜群の美人ギャルである千歳と、小悪魔っぽくて可愛い雰囲気の唯莉ほどナンパはされない。
それでも外を歩けばナンパされることは屡ある。なので二人ほど頻繁にナンパされない慧でも辟易してしまう。
モテる二人のことが羨ましいと思う気持ちなど微塵も湧いて来ない程である。寧ろ同情してしまうくらいだ。
それくらいナンパには良い印象を持っていなかった。
「そういうもんなのか……」
まさか自分のしていることが相手にとって不快なことである可能性があるとは思いもしていなかった亮は、女性陣の言葉にショックを受けて肩を落とす。
モテるのは嬉しいことだろう、としか考えていなかったのだ。
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