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第一章 都合のいい女と憧れの女性
第6話 セフレ
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「つい夢中になってしまった。すまん」
彼は申し訳なさそうに頭を掻く。
「ううん、大丈夫」
名残惜しさを感じたわたしは無意識に、「むしろ嬉しかったから」と小声で呟いていた。
幸か不幸か、その言葉は彼の耳に届いていなかった。
「至福のひと時だった。ありがとう」
「はは、それはなによりです」
真剣な眼差しを向けられたわたしは気恥ずかしくなって照れ笑いしてしまう。
好きな人に胸を揉まれるというのは思った以上に幸福感を得られるものなんだね。
だってわたしに夢中になってくれたんだよ? そんなの嬉しいに決まっているよ。
「話が有耶無耶になってしまったが、この後どこか行くなら付き合うぞ」
「あ、ほんと?」
「ああ。どうせ暇だからな」
この時のわたしはどうかしていたと思う。
胸を揉まれた後の興奮。
彼と一緒にいられる幸福感。
無計画のまま誘ってしまった焦り。
失敗はできないという緊張感。
哀愁漂う彼を癒してあげたいという母性。
ほかの女性に対する嫉妬心。
この後も彼を独占できるという期待感。
そして愛おしさ。
これらの感情がわたしの心を忙しなく掻き乱して正常な判断を行えなくさせていた。
それが災いしてか、わたしはとんでもない行動に出てしまったのだ。
「とりあえずついて来てくれる?」
「わかった」
こうしてわたしは彼を連れ出した。
正常な判断を下せなくなっていたわたしが向かった先は自宅である。
そう、無意識に彼を自宅に連れて行ったのだ。
まさか家に連れて来られると思っていなかったのだろう。彼は戸惑いながら家に上がることを遠慮した。
しかし、わたしは少々無理やり彼を家に上げてしまう。
しかも親がいない時だったので、彼と二人きりになってしまった。
好きな人と自分の部屋で二人きりになってしまったわたしは、緊張と興奮でまともな思考力を失っており、つい彼を押し倒してしまう。
そうなるともうお互いに止められない。なんだかんだ言ってやはり彼も男の子だった。
正直その後の記憶は曖昧だ。
でも、流れに身を任せた彼に、わたしの初めてを捧げてしまったのははっきりと覚えている。
いろいろと段階をすっ飛ばして身体を重ねることになったけれど、わたしは全く後悔していない。だって、彼を癒してあげることができる関係になれたから。
そうして、この日を境にわたしは、彼――氷室悠誓君のセフレになった。
わたしは初めてだったけれど、彼は経験豊富なのか凄く巧くていろいろと気遣ってくれたし、めちゃくちゃ気持ち良くて乱れに乱れてしまったのは良い思い出である。
◇ ◇ ◇
「――どうかしたか?」
仰向けになっている彼に跨って腰を振っていたわたしの動きが鈍くなったのが気になったのか、氷室君が心配そうに顔を覗き込んできた。
「ううん、なんでもない」
本当は過去の記憶を振り返っていたのだけれど、行為に集中していなかったと思われたくないから首を左右に振って誤魔化す。
「そうか」
安心した彼はわたしの胸に手を伸ばして、優しく包み込むように揉みしだく。
あの日以降、彼とは今のように定期的に身体を重ねるようになった。
親にも内緒にしているくらいなので決して健全な関係ではない。
堂々と周囲に喧伝できる関係じゃないことには、寂しさやもどかしさがある。
できることなら彼の彼女になりたい。だけれど、それは叶わない夢。
彼はお母さんの親友のことが幼い頃からずっと好きで、その気持ちを諦めることができないでいるから。
彼は別の女性のことを想ったまま付き合うのは失礼だからと言っているが、それでもいいから彼女にしてほしいというのがわたしの本音。
でも、そうしたら彼の中では好きな人のことを完全に諦めることになるのだろう。だから誰とも付き合う気になれないのだと思う。
恋をしているわたしにもその気持ちは痛いほどわかる。
だって、彼のことを諦めろ、と言われてもわたしには無理だもん。だから彼の気持ちは尊重したい。――まあ、尊重したいっていうのは建前みたいなものだけれど……。
なぜなら、好きな人に想いを告げることができなくて苦しんでいる彼を、わたしは利用しているから。
わたしは彼のことを癒してあげているという事実に充足感を、求められているという状況に幸福感を得ている。
この関係が病みつきになってしまって、現状に満足している自分がいるのもまた事実。
仮に彼女になれたとしても、ずっとその関係が続く保証はない。
それはセフレでも同じことが言えるかもしれないけれど、少なくとも彼が想いを遂げるまでは続くはず。
そして彼の想いが叶う日は余程のことがない限りは訪れない。だから彼とは今の関係をこの先も続けていられる。――わたしが彼に飽きられない限りは、という但し書きが付くけれども……。
わたしは彼の彼女になりたいと願いつつも、彼が想い人と結ばれずに、ずっと諦めきれずにいることを願っている酷い女なの。
しかも、満たされない心を抱えた彼を癒し支える献身的な女の立場を手にして、そばにいようとしている。――単純に彼との行為が気持ち良くてやめられないというのもあるのだけれど……。
好きな人の幸せを願わずに、申し訳ないと思いつつも、その気持ちを利用して心の隙間に入り込んでいる卑怯な女。
それが今、彼の上で腰を振って癒している気になっている狡い女――有坂澪の本性だ。
「――有坂……そろそろ……!」
「――わたしも……!!」
お互いに既に限界に達しており、フィニッシュを迎えそうになっていた。
なので、わたしはラストスパートをかけるためにより激しく腰を振る。
すると、彼もタイミングを合わせるように腰を打ち付け始めた。その度に打ち付け合う音が室内にこだまする。
そうして、わたしたちはこの日三度目の行為を終えたのだった。
彼は申し訳なさそうに頭を掻く。
「ううん、大丈夫」
名残惜しさを感じたわたしは無意識に、「むしろ嬉しかったから」と小声で呟いていた。
幸か不幸か、その言葉は彼の耳に届いていなかった。
「至福のひと時だった。ありがとう」
「はは、それはなによりです」
真剣な眼差しを向けられたわたしは気恥ずかしくなって照れ笑いしてしまう。
好きな人に胸を揉まれるというのは思った以上に幸福感を得られるものなんだね。
だってわたしに夢中になってくれたんだよ? そんなの嬉しいに決まっているよ。
「話が有耶無耶になってしまったが、この後どこか行くなら付き合うぞ」
「あ、ほんと?」
「ああ。どうせ暇だからな」
この時のわたしはどうかしていたと思う。
胸を揉まれた後の興奮。
彼と一緒にいられる幸福感。
無計画のまま誘ってしまった焦り。
失敗はできないという緊張感。
哀愁漂う彼を癒してあげたいという母性。
ほかの女性に対する嫉妬心。
この後も彼を独占できるという期待感。
そして愛おしさ。
これらの感情がわたしの心を忙しなく掻き乱して正常な判断を行えなくさせていた。
それが災いしてか、わたしはとんでもない行動に出てしまったのだ。
「とりあえずついて来てくれる?」
「わかった」
こうしてわたしは彼を連れ出した。
正常な判断を下せなくなっていたわたしが向かった先は自宅である。
そう、無意識に彼を自宅に連れて行ったのだ。
まさか家に連れて来られると思っていなかったのだろう。彼は戸惑いながら家に上がることを遠慮した。
しかし、わたしは少々無理やり彼を家に上げてしまう。
しかも親がいない時だったので、彼と二人きりになってしまった。
好きな人と自分の部屋で二人きりになってしまったわたしは、緊張と興奮でまともな思考力を失っており、つい彼を押し倒してしまう。
そうなるともうお互いに止められない。なんだかんだ言ってやはり彼も男の子だった。
正直その後の記憶は曖昧だ。
でも、流れに身を任せた彼に、わたしの初めてを捧げてしまったのははっきりと覚えている。
いろいろと段階をすっ飛ばして身体を重ねることになったけれど、わたしは全く後悔していない。だって、彼を癒してあげることができる関係になれたから。
そうして、この日を境にわたしは、彼――氷室悠誓君のセフレになった。
わたしは初めてだったけれど、彼は経験豊富なのか凄く巧くていろいろと気遣ってくれたし、めちゃくちゃ気持ち良くて乱れに乱れてしまったのは良い思い出である。
◇ ◇ ◇
「――どうかしたか?」
仰向けになっている彼に跨って腰を振っていたわたしの動きが鈍くなったのが気になったのか、氷室君が心配そうに顔を覗き込んできた。
「ううん、なんでもない」
本当は過去の記憶を振り返っていたのだけれど、行為に集中していなかったと思われたくないから首を左右に振って誤魔化す。
「そうか」
安心した彼はわたしの胸に手を伸ばして、優しく包み込むように揉みしだく。
あの日以降、彼とは今のように定期的に身体を重ねるようになった。
親にも内緒にしているくらいなので決して健全な関係ではない。
堂々と周囲に喧伝できる関係じゃないことには、寂しさやもどかしさがある。
できることなら彼の彼女になりたい。だけれど、それは叶わない夢。
彼はお母さんの親友のことが幼い頃からずっと好きで、その気持ちを諦めることができないでいるから。
彼は別の女性のことを想ったまま付き合うのは失礼だからと言っているが、それでもいいから彼女にしてほしいというのがわたしの本音。
でも、そうしたら彼の中では好きな人のことを完全に諦めることになるのだろう。だから誰とも付き合う気になれないのだと思う。
恋をしているわたしにもその気持ちは痛いほどわかる。
だって、彼のことを諦めろ、と言われてもわたしには無理だもん。だから彼の気持ちは尊重したい。――まあ、尊重したいっていうのは建前みたいなものだけれど……。
なぜなら、好きな人に想いを告げることができなくて苦しんでいる彼を、わたしは利用しているから。
わたしは彼のことを癒してあげているという事実に充足感を、求められているという状況に幸福感を得ている。
この関係が病みつきになってしまって、現状に満足している自分がいるのもまた事実。
仮に彼女になれたとしても、ずっとその関係が続く保証はない。
それはセフレでも同じことが言えるかもしれないけれど、少なくとも彼が想いを遂げるまでは続くはず。
そして彼の想いが叶う日は余程のことがない限りは訪れない。だから彼とは今の関係をこの先も続けていられる。――わたしが彼に飽きられない限りは、という但し書きが付くけれども……。
わたしは彼の彼女になりたいと願いつつも、彼が想い人と結ばれずに、ずっと諦めきれずにいることを願っている酷い女なの。
しかも、満たされない心を抱えた彼を癒し支える献身的な女の立場を手にして、そばにいようとしている。――単純に彼との行為が気持ち良くてやめられないというのもあるのだけれど……。
好きな人の幸せを願わずに、申し訳ないと思いつつも、その気持ちを利用して心の隙間に入り込んでいる卑怯な女。
それが今、彼の上で腰を振って癒している気になっている狡い女――有坂澪の本性だ。
「――有坂……そろそろ……!」
「――わたしも……!!」
お互いに既に限界に達しており、フィニッシュを迎えそうになっていた。
なので、わたしはラストスパートをかけるためにより激しく腰を振る。
すると、彼もタイミングを合わせるように腰を打ち付け始めた。その度に打ち付け合う音が室内にこだまする。
そうして、わたしたちはこの日三度目の行為を終えたのだった。
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