幼い頃から憧れている女性は母の親友

雅鳳飛恋

文字の大きさ
7 / 32
第一章 都合のいい女と憧れの女性

第7話 帰宅

しおりを挟む
◆ ◆ ◆

 有坂の家で甘いひと時を過ごした俺は軽い足取りで帰路に着いた。
 自宅の最寄り駅に到着すると電車を降り、人の流れに沿って夜空の下を歩く。
 街のあかりのせいで、星の姿を確認できないことに若干の寂しさを感じる。吐く白い息に侘《わび》しさが乗り移っているように感じるのは俺だけだろうか。

 今日は有坂のお陰で鬱屈うっくつした気持ちを吐き出すことができた。彼女には感謝してもしきれない。
 人肌のぬくもりに包まれるというのは、馬鹿にできない癒しの効果があるのだと改めて実感した。

 それと同時に、彼女の想いを利用しているという事実に罪悪感が押し寄せてくる。
 だが、それでも今の関係を解消しようとしない俺は本当に酷い男なのだろう。自覚していても改めようとしないのだから。

 内心で自嘲しながら歩いていると、自宅のマンションに到着した。
 外からマンションを見上げて自宅の部屋をなんの気なしに確認する。すると、カーテン越しに明るい照明が漏れており、俺の口から自然と、「母さん、今日はもう帰って来てるのか」と零れていた。

 俺の母は所謂シングルマザーというやつだ。
 だからこのマンションで幼い頃からずっと母さんと二人で暮らしている。

 シングルマザーというと経済的に厳しい生活を送っていると思われがちだが、幸いなことに我が家はそんなことはない。
 母はやり手なのか、収入はそれなりにある。俺が幼い子供ではなく、ある程度は放っておける年齢になったから仕事に専念できているというのもあると思う。

 それが原因なのかはわからないが、母さんは仕事で帰宅するのが夜遅くなることがわりと多い。なので、俺は無人の家に帰宅することが頻繫にある。だが、どうやら今日は早く仕事が片付いたようだ。

 慣れた足取りでエントランスを潜ってエレベーターに乗り、自室のある階層に移動する。ほかの住人と出くわすことなく、スムーズに自宅の扉の前に辿り着いた。

 鞄を漁って鍵を取り出し、扉のロックを解錠する。
 扉を開けて中に入ると、玄関に二種類の靴が並んでいた。
 一つは母の物だとわかる。そしてもう一つは――

「――おかえりなさい」

 リビングに繋がる扉を開いて顔を出した女性――篠崎しのざきまいさんの物だろう。
 どうやら玄関の扉を開ける音で俺が帰ってきたことに気がついて出迎えてくれたようだ。

まいさん、来てたんだ」
「ええ」

 微笑みを向けてくれる彼女に釣られて俺も表情が緩んでいく。
 彼女の顔を見るだけで晴れやかな気分になる俺は単純なのかもしれない。

ゆうくん、夕飯は食べてきたの?」

 首を傾げる舞さん。

「まだ」
「そう。なら私たちと一緒に食べましょう。ちょうど麗子れいこと晩酌していたところなの」

 麗子とは母のことである。
 舞さんと母さんは学生時代からの親友だ。なので、舞さんは我が家に良く遊びに来る。

「わかった。着替えてくる」
「待ってるわね」

 カーキ色のハイネックニットセーターに、黒のスキニーパンツを合わせている舞さんの横を通りすぎる。
 セーターの裾をパンツにしまっているのでタイトになっており、そのせいで胸部が強調されていてどうしても視線が吸い寄せられてしまう。

 長い脚に密着しているスキニーパンツがいろどる脚線美も魅力的だ。なにより臀部でんぶの破壊力は、健全な男子高校生である俺には刺激が強い。女性慣れしていなかったら興奮して理性が吹っ飛んでいたかもしれない。

 大人の余裕と色気、そしてクールな印象が茶色に染めた前下がりショートボブによって引き立てられている。
 この髪型が舞さんにめちゃくちゃ似合う。正直言うと、今後もずっと今の髪型のままでいてほしいくらいだ。

 一先ひとまず、舞さんのことをずっと見ていたい気持ちを抑え込んで自室へ向かった。

◇ ◇ ◇

 部屋着に着替えてダイニングに移動した俺は、舞さんの手料理に舌鼓したづつみを打っていた。

 我が家はシングルマザーなので、仕事で忙しい母さんは家事まで手が回らない時がある。今は俺も家事を一通りこなせるようになったが、幼い頃はそうもいかない。
 当時は独身だった舞さんが料理、掃除、洗濯をしに良く足を運んでくれていた。

 俺が身の回りのことを自分でこなせるようになった今でも、専業主婦の舞さんは時間がある時は世話を焼きに来てくれている。
 だから俺にとって母の味は舞さんの手料理と言っても過言ではない。

「――舞さんはこんな時間までうちにいてもいいの?」

 鶏の唐揚げを飲み込んだ俺は、舞さんに視線を向けて疑問を投げかけた。

 既に二十時を過ぎているので、専業主婦の舞さんは夕食の支度を済ませて旦那さんを出迎えている頃合いのはず。
 むしろとっくに食事を終えていて、旦那さんと一緒にくつろいでいる確率のほうが高い。

「夫は出張でいないから大丈夫よ」

 なるほど。確かにそれなら問題ないな。
 だが――

「この間も出張してなかった?」

 舞さんの旦那さんは先月も出張していたはずだ。

 高校生の俺には会社員の事情なんてわからないが、短期間に何度も同じ人に出張させるものなのだろうか?
 しかも既婚者にだ。自由が利く独身ならまだわからなくもないけど。

「――どうせ同僚の若い愛人と旅行気分で行けるチャンスだと思って、自ら志願しているのよ」

 酔いが回っているのか、母さんはそんなことを口走る。

 は? それ、どういうこと?
 舞さんの夫――孝二こうじさんに愛人が……?
 初耳なんですけど……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...