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第三章 初めての女
第3話 懸念
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「別に俺はなにもしてないんだが……」
「そんなことないよ」
彼女は首を左右に振って否定するが、本当に俺はなにもしていない。
初めて彼女と身体を重ねて以降、定期的に会うようになった。
そして報われない恋心から目を背けるように彼女の身体に溺れた。
鬱積したもやもやを吐き出すために利用していたと言ってもいい。
彼女と一緒にいるからといって、必ずしも身体を重ねていたわけではない。二人で遊びに行ったり、雑談するだけだったり、普通の友達のような付き合いもしている。
彼女と過ごすこと自体が気晴らしになっており、身体を重ねるのはその延長線上にある行為にすぎない。
俺はただ彼女に甘えていただけで、なにか特別なことをした記憶なんてない。
自分のことしか考えていなかったとまでは言わないが、彼女のことを細かく気にかけてはいなかった。
女性の機微を気にかけられるほど心に余裕がなかったし、仮に察知したとしても気遣うことなんて当時の俺にはできやしなかった。
そもそもそんな大人な対応ができる中坊なんていないと思うのだが、それは俺の言い訳なのだろうか……? 世の中にはそんな出来た中坊が存在するのだろうか……?
「愚痴を聞いてくれるだけでも助かってたし、いい気分転換にもなってたからね」
「それこそこっちの台詞だ」
彼女と知り合った当初は会う度に愚痴を零していたと思う。
なぜかはわからないが、彼女といると口が軽くなってしまうのだ。だからか、余計に甘えてしまっていた。
「なんていうか、あんたの話を聞いてると、たとえ親の理解を得られなかったとしても、やりたいことを好きにやれてる私は恵まれてるんだな、って気づかされたんだよね」
それは……恵まれているのか……?
確かに世の中にはやりたいことがあっても、環境が許してくれずに諦めるしかない人もいるのだろう。
俺も好きという気持ちを伝えたくても伝えられなかったから、似たような環境だったと言えるのかもしれない。
その点、彼女の場合は好きな音楽をやれている。
やりたいことをやれているから恵まれていると言えるのかもしれないが、親には応援してほしいものではないだろうか?
仮に応援はしてくれなかったとしても、せめて良好な関係くらいは築きたいはずだ。
しかし彼女は、両親とはほぼ絶縁状態である。
だから決して彼女が恵まれているとは思わない。
「やりたいことをやれているからには、ちゃんと頑張らないと悠みたいになにかを我慢している人に対して失礼だな、って思うようになってさ」
「お前はお前なんだからそんなこと気にしなくてもいいと思うけどな」
他人を気にかけるのは尊いことだ。
それが彼女の優しさでもあるのだが、直接自分に関係ないことなのだから気に病む必要などない。
誰かに迷惑をかけることではないのだから、自分のやりたいことを好きにやるべきだ。
「それはそうかもしれないけど、なんか私にはしっくりくる考え方だったのか、いろいろと吹っ切れちゃって肩が軽くなったんだよね」
両手を身体の後ろについて脱力した彼女は、ゆったりとした動作で足を組む。
「器用なのか不器用なのか……」
「はは、確かに気にしなくていいことを気にしてるから不器用なんだけど、それで悩まずに吹っ切れちゃってるから器用ではあるよね」
俺が呆れ交じりに言葉を漏らすと、彼女は苦笑しながら肩を竦めた。
「だから悠には感謝してるよ」
「どういたしまして……?」
なにかした自覚がない俺は首を傾げながらも、彼女の感謝の気持ちを受け止める。
「それに安心もしてる」
「安心?」
「あんたはもう自分の気持ちを抑え込まずに、舞さんに想いを伝えられるようになったみたいだから安心した」
彼女には本当に世話になった。
だから彼女にとっては肩の荷が下りた気分なのかもしれない。
「お前には甘えっぱなしだったもんな……」
「かわいかったからなにも負担にはなってなかったけどね」
「それなら良かったが、気恥ずかしいな……」
彼女に対してなら恥ずかしいと感じることはほとんどない。
だが、弟のような扱いを受ける時はむず痒くなる。
まあ、この感覚は嫌いじゃないけどな。
「せっかくだし、舞さんをデートに誘ってみたら?」
「そうだな……」
今まで舞さんとは親子として出掛けることはあっても、恋愛的な意味でのデートはしたことがない。
それはずっと気持ちを押し殺してきたから当たり前なのだが、アプローチするようになってからも未だにデートまで漕ぎつけられていない。
アプローチするのに勇気を振り絞って――実際は理性を失って暴走していただけだが――一歩踏み出した。
だから、そろそろもう一歩踏み出してデートに誘ってみるのもいいかもしれない。
だが、俺には一つ懸念点がある。
それは――
「正直、デートはめちゃくちゃしたいが、俺は今までまともにデートをしたことがないんだよな……」
セフレと二人で出掛けることはある。
男女が二人きりで出掛ける行為はデートになるのかもしれない。だが、俺はそれをデートだと思ったことがない。
なので、相手を楽しませようと気合を入れたことはないし、デートプランを考えたこともない。最低限のエスコートはしているが、女性が相手なら当たり前にすることだ。なにも特別なことではない。
「だから一抹の不安がある」
「あんたと二人で遊びに行くことがある私の見立てだと、今のままデートをしても特に問題はないと思うよ?」
「だといいんだが……」
彼女はそう言うが、失敗したくないという思いから些か足が重くなってしまう。
「不安なら、予行練習にこれから私とデートしてみる?」
「……いいのか?」
「いいよ。今日は特に予定ないから、いくらでも付き合うよ」
また甘えることになってしまうが、彼女の提案は大変ありがたい。事前に体験しておくことで心構えができるからな。
だから、ここは素直に甘えておこう。
「なら頼む」
「ん。わかった」
頷いた彼女は立ち上がると――
「とりあえず、シャワー浴びてくる」
そう口にして浴室へと足を向けた。
「そんなことないよ」
彼女は首を左右に振って否定するが、本当に俺はなにもしていない。
初めて彼女と身体を重ねて以降、定期的に会うようになった。
そして報われない恋心から目を背けるように彼女の身体に溺れた。
鬱積したもやもやを吐き出すために利用していたと言ってもいい。
彼女と一緒にいるからといって、必ずしも身体を重ねていたわけではない。二人で遊びに行ったり、雑談するだけだったり、普通の友達のような付き合いもしている。
彼女と過ごすこと自体が気晴らしになっており、身体を重ねるのはその延長線上にある行為にすぎない。
俺はただ彼女に甘えていただけで、なにか特別なことをした記憶なんてない。
自分のことしか考えていなかったとまでは言わないが、彼女のことを細かく気にかけてはいなかった。
女性の機微を気にかけられるほど心に余裕がなかったし、仮に察知したとしても気遣うことなんて当時の俺にはできやしなかった。
そもそもそんな大人な対応ができる中坊なんていないと思うのだが、それは俺の言い訳なのだろうか……? 世の中にはそんな出来た中坊が存在するのだろうか……?
「愚痴を聞いてくれるだけでも助かってたし、いい気分転換にもなってたからね」
「それこそこっちの台詞だ」
彼女と知り合った当初は会う度に愚痴を零していたと思う。
なぜかはわからないが、彼女といると口が軽くなってしまうのだ。だからか、余計に甘えてしまっていた。
「なんていうか、あんたの話を聞いてると、たとえ親の理解を得られなかったとしても、やりたいことを好きにやれてる私は恵まれてるんだな、って気づかされたんだよね」
それは……恵まれているのか……?
確かに世の中にはやりたいことがあっても、環境が許してくれずに諦めるしかない人もいるのだろう。
俺も好きという気持ちを伝えたくても伝えられなかったから、似たような環境だったと言えるのかもしれない。
その点、彼女の場合は好きな音楽をやれている。
やりたいことをやれているから恵まれていると言えるのかもしれないが、親には応援してほしいものではないだろうか?
仮に応援はしてくれなかったとしても、せめて良好な関係くらいは築きたいはずだ。
しかし彼女は、両親とはほぼ絶縁状態である。
だから決して彼女が恵まれているとは思わない。
「やりたいことをやれているからには、ちゃんと頑張らないと悠みたいになにかを我慢している人に対して失礼だな、って思うようになってさ」
「お前はお前なんだからそんなこと気にしなくてもいいと思うけどな」
他人を気にかけるのは尊いことだ。
それが彼女の優しさでもあるのだが、直接自分に関係ないことなのだから気に病む必要などない。
誰かに迷惑をかけることではないのだから、自分のやりたいことを好きにやるべきだ。
「それはそうかもしれないけど、なんか私にはしっくりくる考え方だったのか、いろいろと吹っ切れちゃって肩が軽くなったんだよね」
両手を身体の後ろについて脱力した彼女は、ゆったりとした動作で足を組む。
「器用なのか不器用なのか……」
「はは、確かに気にしなくていいことを気にしてるから不器用なんだけど、それで悩まずに吹っ切れちゃってるから器用ではあるよね」
俺が呆れ交じりに言葉を漏らすと、彼女は苦笑しながら肩を竦めた。
「だから悠には感謝してるよ」
「どういたしまして……?」
なにかした自覚がない俺は首を傾げながらも、彼女の感謝の気持ちを受け止める。
「それに安心もしてる」
「安心?」
「あんたはもう自分の気持ちを抑え込まずに、舞さんに想いを伝えられるようになったみたいだから安心した」
彼女には本当に世話になった。
だから彼女にとっては肩の荷が下りた気分なのかもしれない。
「お前には甘えっぱなしだったもんな……」
「かわいかったからなにも負担にはなってなかったけどね」
「それなら良かったが、気恥ずかしいな……」
彼女に対してなら恥ずかしいと感じることはほとんどない。
だが、弟のような扱いを受ける時はむず痒くなる。
まあ、この感覚は嫌いじゃないけどな。
「せっかくだし、舞さんをデートに誘ってみたら?」
「そうだな……」
今まで舞さんとは親子として出掛けることはあっても、恋愛的な意味でのデートはしたことがない。
それはずっと気持ちを押し殺してきたから当たり前なのだが、アプローチするようになってからも未だにデートまで漕ぎつけられていない。
アプローチするのに勇気を振り絞って――実際は理性を失って暴走していただけだが――一歩踏み出した。
だから、そろそろもう一歩踏み出してデートに誘ってみるのもいいかもしれない。
だが、俺には一つ懸念点がある。
それは――
「正直、デートはめちゃくちゃしたいが、俺は今までまともにデートをしたことがないんだよな……」
セフレと二人で出掛けることはある。
男女が二人きりで出掛ける行為はデートになるのかもしれない。だが、俺はそれをデートだと思ったことがない。
なので、相手を楽しませようと気合を入れたことはないし、デートプランを考えたこともない。最低限のエスコートはしているが、女性が相手なら当たり前にすることだ。なにも特別なことではない。
「だから一抹の不安がある」
「あんたと二人で遊びに行くことがある私の見立てだと、今のままデートをしても特に問題はないと思うよ?」
「だといいんだが……」
彼女はそう言うが、失敗したくないという思いから些か足が重くなってしまう。
「不安なら、予行練習にこれから私とデートしてみる?」
「……いいのか?」
「いいよ。今日は特に予定ないから、いくらでも付き合うよ」
また甘えることになってしまうが、彼女の提案は大変ありがたい。事前に体験しておくことで心構えができるからな。
だから、ここは素直に甘えておこう。
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頷いた彼女は立ち上がると――
「とりあえず、シャワー浴びてくる」
そう口にして浴室へと足を向けた。
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