ビリーと私のオーストラリアDiary

Kaede

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過去の記憶

はちみつミルク

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火曜日の朝ビリーは2回も「マジか!」って呟いた。朝にメールを読みながら。前の晩、私は遅くまで仕事をしていて、寝室に行くとビリーは本を顔に乗せたまま寝落ちしていた。メールを見る前に寝ていたんだと思う。
最初は「マジか。アダムが昨日帰ってから高熱出して今日は休むって。」って。
「え、そうなの?大丈夫かな?かわいそう。」私は半分寝ながら言った。
2回目は「マジか、母さんが今日の夕方来るって。」
「ええっ!私は飛び起きた。やだ、忙しかったから全然掃除もしてないのに。」
ビリーは私の慌て具合を見て笑った。
「ノエルから話を聞いて心配になったんだよ。困ったな。誰も迎えにも行けないし。ーーまあ、いいや。」
私はその後ビリーのサンドイッチを作ってーーこの日はカレー風味のチキンマヨネーズサンドイッチーーそして、学校に行く前に大急ぎで洗濯をした。いつもならビリーが家事を半分くらいはやってくれているけど、ケガのせいで私の仕事になっていてサボっていたから。
そして学校に行ってーーその後にアダムにメールした。
「大丈夫?何か作って持って行く?」って。
昼にメールを見たら返信が来ていた。「まだ熱っぽくて鼻水と咳が出てる。ビリーにうつったら大変だから来なくていい。大丈夫だよ!」って。
その後語学学校に行った。
「ああ、カエ土曜日はご苦労様。」ジェイミーが言った。
「うん、みんなご苦労様。ビリーとアダムも楽しかったって言ってたよ。」
「良かった。二人とも生徒に大人気で俺が嫉妬しちゃう。」ケビンが言った。
「なんか、カエ疲れてない?大丈夫?」ターニャが心配そうに聞いた。
「今日は朝から忙しくてバタバタしてて。ねえ、スティーブン今日は真っ直ぐ帰る?」私は聞いた。
「うん、その予定だよ。なんで?」
「ビリーの事乗せてくれる気ある?アダムが風邪ひいちゃって、今日休んでて。他の同僚も当直だったり遅番だったりでなかなか時間合う人いないみたいで。」私は言った。
「喜んで乗せるよ。病院に迎えに行けばいいの?カエも乗る?」
「うん。入り口にね。私は4時になったら速攻で帰る。今日、ビリーのお母さんが来るの!ほら、週末もビリーのお兄さん達が来たりしててちょっと散らかってて掃除しないと。」私がそう言ったらみんな笑った。
「カエも大変だね。」ケビンが言った。
「本当に。あ、スティーブンありがとう。ビリーには知らせておくから。」
私はそう言ってビリーにメールした。
「スティーブンが行ってくれるって。私は先に帰って掃除してるから!」って。
ビリーからはすぐに返事が来て「了解。ありがとう。サンドイッチ美味しかったよ。」って書いてあった。
私は「美味しかった」ていう文面に思わず口角が上がるのを感じた。
「やだ、カエ何ニヤニヤしてるの?」ターニャが聞いた。
「いや、別にニヤニヤしてるんじゃないんだけど、ビリーがお昼に作ってあげたサンドイッチを美味しいって言ってくれたから。最近、食欲なくてめったに「美味しい」って言わなかったから、体調が戻ってきてると思うと嬉しくって。」私は言った。
「ああ、じゃあ良かったね。カエは昼も作ってやってんのかーーすごいな。」ジェイミーが言った。
「最近だけどね。また元通りになったらやめるかも。ほら、カフェテリアまで行くのも大変だろうし、食欲ないと食べるのが遅くてアダムに横取りされるっていうから。かわいそうになって。」
「なんか、想像すると笑える。」ケビンが笑った。

私はバイトが終わった後急いでトラムに乗って帰った。幸いまだグウェンは来ていなくて、翻訳の資料で散らかっていた部屋を片付けてーーまとめてクローゼットに入れただけなのはもちろん内緒ーー、掃除機をかけて、ビリーが退院祝いに貰ってきた花束のもゴミに捨てた。ビリーが読み散らかしていた本も一つの山にまとめて、トイレ掃除もして、キッチンの油汚れも拭いてーー。自分で言うのもアレだけど、すごいと思わない?この全部を30分かからないでやった。完璧にしたかったから。
玄関のチャイムが鳴ったのは5時ごろ。玄関に出るとグウェンが立っていて、荷物と買い物袋を持っていた。
「こんにちは、グウェン。」私は笑顔で言った。
「カエ!元気にしてた?」
「ビリーもそろそろ帰ってくるはず。入って。」
私はグウェンをテーブルに座らせると、紅茶を入れた。
完璧にお客さんをもてなすには、まずお茶を入れろって母に教えてもらったから。
これからアダムス家の嫁になると思うと、少しでも大人ぶってみたくなったから。
「ノエルが言ってたけど、翻訳の仕事を始めたんだって?うまくいってるの?」グウェンが聞いた。
「うんーーそれなりにね。まだまだいっぱい勉強することはあるけど、困った時は翻訳のエージェントの人の助けを借りながらなんとかやってる。」私は言った。
「あら、良かったわね、夢が叶って。」グウェンは私に優しい笑顔を見せた。
そこにビリーが玄関を開ける音がして、「ちょっと待ってて。」って言って私は玄関に走った。
二人は何か喋りながら来たのか楽しそうに笑っていて、スティーブンがビリーと一緒に玄関まで来てドアを押さえていてくれた。
「ごめん、本当にありがとうね、スティーブン。」私は言った。
「全然構わないよ。明日は遅番だっていうから時間が合わないけど、もしまた何かあったらぜひ俺に頼んで。」そうスティーブンは言ってくれた。
「本当に入って行かない?」ビリーが言った。
「ああ、うん。家族水入らずの時間を楽しみなよ。」スティーブンは言った。
「ーー分かった。ありがとう。またね。」ビリーは言った。
ビリーがリビングルームに入っていくとグウェンは立ち上がって「ビリー、まあーー」ってちょっと言葉を失った。
「何?松葉杖姿?大丈夫だよ。」ビリーはそう言うとグウェンをハグした。「そのうち治るから安心して。」って言いながら。
「痛みはないの?」グウェンは心配そうに聞いた。
「大丈夫だけど、治りにくくて時間がかかるかもって言われた。心配しないで。」ビリーは笑って言った。
グウェンは諦めたように首を振ると「ちょっと買い物してきたから夕食作ってあげる。」って言って、料理を始めた。
「疲れたでしょ?良かったら私がーー」って私は言ったけど、グウェンは「ビリーに食べさせてあげたいのがあるから作らせて!」って笑顔で言った。
グウェンはその夜、サーモンのクリームパスタを作った。ビリーはグウェンが夕食を作っている間、ソファでパソコンで仕事の資料を作っていて、何回かトライした後にようやく自力で立ち上がってキッチンに行ってーーグウェンが何を作ってるかを見て「懐かしいな。」って笑った。
「そうでしょ?」グウェンは私の視線に気がついて説明するように「夫の好物だったのよ。しばらく食べていなかったんだけど、この前友達が家に来た時にたまたま冷蔵庫にサーモンのパックがあって、思い出して作ったら美味しかったから。バターと黒胡椒と玉ねぎをたっぷり入れるのが夫流なのよ。」グウェンはそう言いながらお皿に盛った。
確かにーー肌寒くなり始めたメルボルンの秋にはぴったりなバターが効いたこってりした味で、美味しかった。食べるだけで、心が温かくなるような味。
「ほら、前に話したけど父はあまり裕福な家庭で生まれ育ったんじゃなくて、サーモンとかは今もだけど昔も結構値段がしてあまり食べさせてもらえなかったって。誕生日とかの特別な時だけ。他は安いベーコンとかの加工品ばかり食べていて、「サーモンが食べられる日はいつも楽しい事がある日で、正直母も料理上手って訳ではなかったけれど、それだけで美味しく感じたんだ。」って言ってた。それで、俺たちが小さい頃は、例えばノエルが科学のコンテストで賞をとったり、メーガンが水泳大会で優勝したり、そういう小さないい事があるとよく父はパックになったサーモンを買ってきてこれを作ってくれた。このくらいしか料理できなかった気がするけど。」ビリーは言った。
「でもね、夫がーーザンダーって呼んでたんだけど、一番喜んでいたのはビリーが高校に入った年かしら?学校に初めて1日も休まないで行く事ができた年があって。それまでは喘息になったり、風邪引いたりなんだかんだで落ち着かなかったから、「大人になったな。」って目を潤ませて喜んでいたのを覚えてる。その時に作ったパスタが最後だったのよ。もちろん子供はみんなかわいくて宝物だけど、ビリーは分、夫が一番かわいがっていたから。私もね、今でも一番気にかけてるの。」グウェンは言った。
ふとビリーを見るとビリーは下を向いてちょっと目が潤んでいる感じだった。
「ビリー、知ってる?ノエルは赤ちゃんにザンダーって名前を付けたがってるってアンナが言ってた。この前は何とも思わなかったけどーーそういう事だったんだね。」私は言った。
「へえ、そうなんだ?知らなかった。いいんじゃない?」そう言ってビリーは笑った。
グウェンは食事の後みんなに、温かいはちみつミルクを作ってくれた。牛乳にはちみつを溶かしただけなんだけど、ほんのり甘くて優しい味で。
「母さんは明日帰る前に運転して俺を車でスーパーまで乗せて行ってくれる気ある?」ビリーが聞いた。
「もちろん。」
「じゃあ、明日頼もうかな。俺、明日は昼前から仕事だから、その前に買い物して、出来たら病院まで送って欲しい。また車置きに戻ってこないといけないから面倒かもしれないけど。」
「いいわよ。久しぶりに息子と買い物するのが今から楽しみ!」グウェンは笑った。
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